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リンクリングトラウム  作者: 田川 竜
第六章 Dear My Brother
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Dear My Brother(14)

「あと三十秒だよ!」

「っ……!」

死の宣告に肩を震わせる。陽千香のそんな様子を見て、良一が覚悟を決めたように手を差し出した。

「愚案だろうが何だろうが、それしかないならやるしかない。今は少しでも時間を稼ごう。綾藤さん、いったんオレに渡してくれ」

「で、でも……!」

陽千香は躊躇した。

良一に爆弾を渡せば、確かに時間稼ぎはできるだろう。だが貴則が言っていたとおり、蒼司がいつそれを捻じ曲げてしまうか分からないのだ。陽千香を救うために爆弾を引き受けようとしてくれている仲間に、そんな危険を冒させるわけにはいかない。みんなに押し付けるなんてできない……!

「あ、綾藤さん? 何してるんだ、早く渡して!」

訝しそうに眉を寄せて急かす良一に、陽千香は小さく首を振った。まさか陽千香が爆弾を渡さないとは思ってもみなかったのだろう、彼の表情に焦りの色が滲み始める。

「陽千香先輩!?」

「馬鹿かキミは!? 早く渡すんだよ!!」

「お願い、早く……!!」

無理だ。自分にはできない。首を横に振り続ける陽千香を見て、仲間達の表情が凍り付く。刻々と近付く死の瞬間。恐怖に震える陽千香の前に、再び手を差し出す者がいた。

「……志筑くん……っ」

嬉しかった。その手に縋り付きたかった。それでも彼にだけは渡すわけにはいかなかった。首を振って必死に拒む陽千香に、蒼真は早口で言った。

「蒼司に返す。自分の首を吹っ飛ばしはしないはずだ」

陽千香ははっとして蒼真を見た。

蒼司は鬼ごっこのルールについては説明したが、参加者については何も触れていなかった。もし参加者に彼も含まれるなら。蒼司が爆弾を持った状態で、自分達が逃げ切ることができれば。蒼司はこの悪夢のような遊びをやめるかもしれない。

「綾藤」

迷う陽千香に、蒼真が短く呼びかける。こちらを見つめる真摯な目。残り時間は五、四、三……。

陽千香は、差し出された手に自分のそれをそっと重ねた。首元の圧迫感がなくなり、間近で聞こえていた時計の音が遠くなる。視線を上げて蒼真を見れば、彼はいつもよりほんの僅か優しげな目元でこちらを見返し、立ち上がって踵を返した。体育館の中央に立つ蒼司を見据えて、やけにゆっくりした歩調で近付いて行く。

……自分は何かとんでもない間違いを犯したのではないだろうか。遠ざかる蒼真の背中を見つめながら、彼の手の温もりを留めるようにして自分の右手を掻き抱く。得体の知れない不安に押し潰されそうになっている陽千香をよそに、蒼真が静かに口を開いた。

「蒼司……もうやめよう」

言われた蒼司は、一瞬きょとんとした顔を見せてから、おかしそうに噴き出して答えた。

「やめるって? 鬼ごっこのこと? ダメだよ、まだ始めたばっかなのに」

「悪かった」

その謝罪に、蒼司の表情から嗤いが消える。蒼真は続けた。

「あの時散々後悔したくせに、結局何も変わってないんだな俺は。自分一人で勝手に決めて、今度もまたお前のこと傷付けちまった」

蒼司は無言で、蒼真のことを見つめていた。カウントダウンが途切れてしまい、残りの秒数が分からない。

「それでも、お前をこのままにはしておけないんだ。恨んでくれて構わない。この世界は、無理やりにでも取り上げなきゃならない」

いったい今何秒経ったのだろう。蒼真はなぜ動こうとしないのか。蒼司に爆弾を渡さなければ、いずれ爆発してしまうのに。

陽千香の周りに、小さなざわめきが広がっていく。みんなも蒼真の様子がおかしいことに気付いたのだろう。互いに顔を見合わせては、物言いたげな視線を蒼真の方へ投げている。

蒼真は、一度もこちらを振り返ろうとしなかった。蒼司の方を見据えたまま、穏やかな口調で語り続けている。

「お前にだけ辛い思いはさせない……落とし前はつけていく。こいつらの記憶は置いて行くよ。現実に帰ったら、俺はまた独りに戻るから。それで良いだろう……?」

「志筑くん……!?」

嫌な予感が当たってしまった。界境世界にやって来た時点で、罪悪感と向き合う覚悟は既にできているものと思っていたのに。身体の痛みを押して立ち上がった陽千香は、あやめに支えられながら蒼真の方へ駆け寄った。その勢いのまま彼の両腕を掴み、感情を堪えながら顔を見上げる。

蒼真は、先ほど陽千香の傍を離れた時と同じ、優しげな目元で静かにこちらを見返していた。

「ごめん……だけど、もう他に思い浮かばないんだ」

掠れた声が、囁くように言う。

「蒼司が執着してるのは俺だ。俺がお前らと手を組んで、自分の邪魔しようとしてるのが気に入らないんだ。俺が消えれば、少しは頭も冷えるかもしれない。そうすればきっと、お前らの話も聞いてくれるはずだ。だから……蒼司のこと、救ってやってくれ」

「っ……馬鹿なことを……!!」

吐き捨てるような貴則の声。折れそうになる膝を必死に支えながら、陽千香は蒼司の方へ向き直った。

「お願い蒼司くん、もうやめてっ!!」

叫んだ声に、蒼司は応えない。感情のこもらない目で、ただじっとこちらを見つめている。

「自分のお兄さんでしょう!? 夢だからって、自分の手にかけて何とも思わないの!?」

もう時間がない。

「お願いよ……!!」

爆弾が。

「志筑くんを助けてっ!!!」

爆発する――!!

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