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リンクリングトラウム  作者: 田川 竜
第五章 ガラス細工の針
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ガラス細工の針(12)

何だか最近、***の様子がおかしいんだ。

いつも一人でいたクセに、この頃誰かと一緒にいることが増えたみたい。


待ってたんだよ? ***のこと。

また一緒に遊べるのを、ずっと楽しみにしてたのに。


***は、そうじゃないって言うの?


◇◇◇


甲高い鳴き声が赤い空いっぱいに響き渡る。足元に現れた光の輪から即座に抜け出すと、次の瞬間そこから灼熱(しゃくねつ)の火柱が噴き上がった。舞い散る火の粉と熱気を掻いくぐって地を駆けると、上空に烈火を(まと)った巨鳥の姿を捉えることができる。

「飛鳥先輩っ!」

離れた位置に陣取って悪魔を狙う良一に呼びかけると、風を切る音が上空目掛けて飛翔した。真紅に染まった火炎の矢は、しかし燃え盛る翼に吸い込まれて消えていく。小さな舌打ちに続けて、良一が声を張り上げた。

「圭介君、頼む!」

「了解です! いきますよ~っ!」

良一の声に応じると、圭介がハンマーを高く掲げた。清冽(せいれつ)な水の色を湛えた柄頭(つかがしら)が淡い光を帯びたかと思うと、そこから零れ落ちた冷気が徐々に周囲に広がっていく。ひんやりとした空気が陽千香の足元にまで届いた時、圭介はハンマーの柄を勢いよく地面に叩き付けた。刹那、冷気は凍気へと変じ、急速に周辺一帯の熱を奪い始める。凍て付く空気を(ぎょ)したまま、圭介が遠く声を上げた。

「あやめちゃん、よろしくっ!」

「はいっ!」

フルートに似た柔らかい音色が、まどろみ停滞していた風の力を呼び覚ます。校庭全体を巻き上げるように動き出した風が、圭介の生み出した凍気を(さら)い、上空へと運んでいく。風は飛び回る悪魔の周囲を乱すように荒れ始め、小さな吹雪となって悪魔の飛行を妨害する。

そこへ再び、高い風切り音が唸った。一直線に悪魔を捉えた矢が、凍気を受けて瞬時に凍り付いていく。氷の加護を受けた矢は、吹雪に弱った悪魔の炎をものともせず、今度こそ翼に穴を穿(うが)った。荒れ狂う吹雪と苦痛に体勢を崩し、悪魔がきりもみ状態で地に落ちてくる。剣を引き提げ、陽千香はそこへ向かって駆けた。

陽千香の接近に気付いた悪魔が、不安定な体勢のまま、咆哮とともに巨大な火球を撃ち出してきた。身の丈ほどもある炎を前に、陽千香は足を緩めることなく突っ込んで行く。正面から迫る熱気に微かに眉を寄せた陽千香の足元を、何かが滑るようにすり抜けて行った。

今にも陽千香を呑み込もうかというその寸前で、炎が縦半分に切り裂かれた。(ひら)かれた道を駆け抜け、陽千香は白銀の剣を横一文字に振り抜いた。

鼓膜が破れんばかりの絶叫。だがまだ浅い。地団駄(じたんだ)を踏むように翼をバタつかせて暴れる悪魔から距離を取り、次の一撃を叩き込む機会を窺う。と、悪魔が翼を振り回す一瞬の隙を縫って、青白い閃光が視界を横切った。一つ、二つ、三つ。瞬きの間に数発もの雷撃を食らい、悪魔の動きが見る間に勢いを失っていく。今が好機と、陽千香は地面を蹴って跳んだ。

「やあぁぁぁぁっ!!」

気合一閃。悪魔の首元を()いだ剣は、鳥の頭部を完全に切断し、空中高くに()ね飛ばした。どす黒い飛沫(しぶき)を上げながら動きを停止した悪魔は、失った頭部の方から細かな光の粒子に変わっていき、やがて虚空に消えていった。

「支配格の討伐完了~っ! お疲れさまでした!」

片手にハンマーを握ったまま大きく伸びをした圭介が、明るい声で戦闘終了を宣言した。構えを解いて息をつく面々を横目に見ながら、陽千香はやや距離を置いたその一角に近付いて行く。

「お疲れさま。今日も無事に終わったわね」

そう声をかけた相手は蒼真だった。彼は伏し目がちに陽千香の方を見ると、ごく控えめに頷いてみせる。

蒼司の件を打ち明けられてから数日。蒼真は約束どおり、陽千香達に協力してくれるようになっていた。他人と過ごすことにまだ慣れないのだろう。陽千香以外のメンバーとはなかなか上手くコミュニケーションが取れない様子だったが、悪魔との戦闘ではすっかり周囲から一目置かれるようになっていた。

「蒼真先輩、お疲れさまでっす! 今日も見事な連撃でしたね~」

こちらへ駆け寄って来た圭介が、気軽な調子で声をかけてきた。始めこそ恐々(こわごわ)と接していた彼だったが、蒼真が存外大人しいことを知ると、持ち前の友好的な性格を遺憾(いかん)なく発揮し始めた。なかなか馴染めずにいる蒼真を気遣ってか、何かときっかけを作ってはこうして話しかけてくれている。蒼真の方の反応はまだイマイチといったところだが、もう少し時間をかければ打ち解けられるのではと期待していた。

『なァなァ、前から訊こうと思ってたんだけどよォ、オマエ現実世界でもケンカ強ェだろ?』

にやにやと面白そうな笑みを浮かべてやって来たのはレイヴンだ。彼も比較的、蒼真によく話しかけてくれる方だった。御使いの中ではちょっととんがっている彼は、どうやら蒼真に親近感を抱いているらしい。周囲を飛び交いながら訊ねるレイヴンに、蒼真は困ったように答える。

「……別に自慢するようなことじゃない」

『やっぱな』

レイヴンは腕組みしながら、何やら一人納得したように頷いた。

『元から腕っぷしが強くねェ限り、"力"のイメージが素手なんて奴はそうそういねェからな。てめェに一番馴染んだ武器だから、引き出せる能力も強力ってわけだ。おいノリ、お前もうかうかしてらんねェぞ?』

レイヴンは首を反らして背後の貴則を見ると、にしし、と挑発するような笑みを浮かべた。対する貴則の方は特に張り合うつもりはなさそうで、軽く肩を竦めたのみだ。あやめの時もそうだったが、彼は優れた能力に対しては、割と素直に認める傾向がある。どんなに活躍しても賛辞の一つももらえていないのは、今のところ圭介くらいのものだった。もちろん、ただの意地悪なのだが。

「六人揃っての戦闘もなかなか様になってきたねェ……そろそろ先に進むのに良い頃合いかな?」

「先? っていうと……」

口の中で呟いた貴則に、圭介が頬を掻きながら訊き返した。その隣で首を傾げていたあやめがポンと手を打って答える。

「もしかして、接ぎ目のことでしょうか……?」

「ご名答」

貴則は唇に三日月を浮かべて嗤った。

「探索してる間に、ちょうど都合よくそれらしき場所を見つけたんだよね。今から見に行ってみるかい?」

三年生二人を先頭に、六人揃って校内を()り歩く。既に悪魔は倒したので、この断面にいる間は少しくらい気を抜いても良いだろう。陽千香は隣を歩く蒼真の顔を覗き込みながら訊ねた。

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