赤いキノコは食べられるか?(2)
図書室の前で喚いている同級生の姿を、廊下の陰からじっと見ている少女がいた。
彼と同じくらい小柄なその少女は、同級生がこちらを振り向いたのを察して慌てて身を潜める。暫くそうしてから、再びそっと廊下の奥を覗き見ると、どうやら彼はこちらに気付かなかったようだ。一緒にいる二人の上級生を相手に、今しがた立ち去って行ったもう一人に対する不満をあれこれとぶつけている。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、その少女は口の中で呟いた。
「向こうで会おうって言ってた……」
それは、知らないものが聞けば何気ない日常の会話に聞こえるであろう言葉だった。だが、少女にとっては特別な意味合いを持つ言葉であり、その言葉を口に出す人間もまた、少女にとって特別なのだった。
「やっぱり、間違いない……」
以前に見かけた時から気になっていた。周囲の人の目をごまかしながら、特定の人間しか知らないはずの単語で会話している彼らの姿。自分もそうだとその場で名乗り出たかったが、初対面の相手を前にそんなことができるほど、少女の心臓は強くなかった。
「どうしよう……」
独り呟いて、もう一度廊下の奥を見やる。彼らは楽しそうに談笑しながら、廊下の反対側の方へと歩いて行ってしまう。
「どうしよう……」
同じ台詞を繰り返し、少女はその場にうずくまった。通りがかった生徒の不審そうな視線を気にしている余裕は、今の少女にはなかった。




