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第29話 基礎知識

 まとまらなかったんです。

 外に行きましょうとのことで、イヴに連れられて家の裏へやってきた。教会から逃げて入った森なのかどうかはわからないが、昨日の夜に窓から見たとおりだ。


 途中イヴがクロエに何かを頼んでいたためいないが、お構いなしに話をしていくようだ。再び魔法の布で包んだ右手に持った銃の肩当を地面について、俺の顔をまっすぐに見つめた。


「というわけで。マスターには早速魔法の使い方を覚えていただきます」

「お、お願いします」


 表にはあまり出ていないだろうが、魔法というものは少し憧れていた。最近はそうではなかったが昔はゲームもしていたもので、その中に出てくる様々な魔法に惹かれたものだ。


 まさか本当に魔法を使う日が来ようとは夢にも思わなかったが、気持ちはあまり明るくない。むしろ使えなければという焦りを感じる。


「まずは基礎知識からお教えします。何事も経験からとは言いますが、土台となる知識は必要不可欠ですからね」

「まあそうだな」


 ごほんとイヴが一つ咳ばらいをする。それでワンテンポずれていた俺の気持ちはしっかりと引き締まった。


「魔法には属性というものが存在します。まずはこちら」


 空いている左手を平を上にして軽く前へ出し、その上に赤い魔法陣を出した。先ほど部屋の中で出した時とは少し違って、文字通り火の玉といった感じだ。


「火属性。物を温める、燃やすならこれです。また、さっきも話しましたがこんなこともできます」


 手のひらの向きを変え、近くの木に魔法陣ごと向ける。そのまま手を突き出すと、火の玉はまっすぐ向けられた木へと飛んで行った。30mぐらいはあると思うが、コントロールは完璧だ。


 速度的には時速50㎞ぐらいだったが、十分すぎる速度だと思う。それに、火の玉は木に当たった瞬間に弾けて消えたにも関わらず木は燃え出していた。


「次に水ですね」


 イヴの言葉に木から振り向くと、今度は青色の魔法陣を出していた。それを同じようにして燃えている木に向けると、どこからともなく出てきた水の玉がまた同じように飛んでいき見事に鎮火させた。おぉすごい。


「風属性。意外と使い道が多いので使えると便利です」


 今度は緑の魔法陣だ。しかし黒焦げた木に手を向けるのではなく、腕を畳み薙ぎ払うように手を動かした。何が起こるのだろうと見ていると、焦げた部分の中心から木がずれて倒れていった。前にテレビで見た、刀で丸めた畳を切るあれに似ていた。それにしても見事だ、かまいたちというやつか。


「雷属性。ほとんど攻撃にしか使わないんですけど、その代わりに威力は絶大です」


 黄色の魔法陣。人差し指でまっすぐ指すと、文字通り雷が倒れた木へと向かっていく。命中したと同時に、木特有の軽い音を出して爆散した。見た目的にはそこまでではなかったが、イヴの言葉に偽りはなかったようだ。


「土。目立ちませんけど、使えるとここぞという時に使うと効果ありです」


 茶色、いや土色か。そんな色の魔法陣を出し、かがんで地面に手のひらをついて陣を埋め込んだ。どんな事が起こるのだろうとイヴが見つめる手を見るが、変化は起こっていない。訳が分からず聞こうとしたとき、ようやく事が起こった。


 ぴょこん、と土から何かが生えてきた。これは……苗木?


「地味でしょう?」

「……確かに」

「でも、固い物理的なものを扱える数少ない属性なんです。さて……」


 立ち上がり、銃を脇に挟み空いた手ではたきながら俺へと向き直った。薄くなって消えていく魔法陣を見つめ終わるのと同時にイヴが話を続けてくれる。なんというか、俺を見るイヴの目が初めての何かを見る子供を見ているようで少し恥ずかしい。


「基本の属性はこの五つです。そしてそれとは別の属性が同じく五つあります。光、闇、天、悪、無となります。ちなみに、光と闇は使える人が少なく、天と悪が使えるのは一握りです。無属性は大抵誰でも使えますが、使える幅が広すぎるので術者の技量に左右されやすい属性になります。……一気に説明しましたけど、わからないところはありますか?」


 と聞かれてしまったので、言われたことを振り返ってみる。火水風雷土、光闇天悪無。この辺りはゲームの属性に当てはめればなんてことはない。……いや、一つだけあるな。


「……各属性の相性はあるのか? どれがどれに強いとか」

「うーん……基本的な相性はあるんですよ? 水は火に強いとか、風は土に強いとか。ただ基本であって、状況によって当てはまらないことがありまして。大きすぎる火は少ない水では消せませんし、土が固すぎれば弱い風ではびくともしません。臨機応変にというものです」

「なるほど、確かに」


 ゴリ押しが効くのはゲームもリアルも一緒というわけか。予想以上にわかりやすくて助かる。


 他はもうないかなと思っていると後ろから足音が聞こえてきた。振り返ってみると、クロエが木の籠を持って来ていた。


「ありました?」

「はい。学校でのあまりものですが……一応全属性分はあります」


 籠をイヴに手渡すので中を覗いてみると、何やら厚紙のようなものが何枚か入っていた。


「これは何?」

「属性試験紙です。魔力は人によって各属性ごとに相性があります。火は得意だけど水は苦手とか、土が得意で風は苦手といったのを、これを使って調べるわけです。というわけで一つどうぞ」


 約3cm四方の紙を受け取り、とりあえず眺めてみる。表裏しっかり見ても、ただの紙にしか見えない。違いという違いがわからず、本当にイヴの言うとおりの紙なのかどうか確信が持てない。


「……これをどうするんだ?」

「魔力を流し込むんです。それは火の試験紙ですので、火属性の適正があれば紙は燃えるはずです」

「……魔力の流し方がわからないんだが」

「あ、そっか」


 ……誰に教えているのだろう。一見中々に頭がよさそうに見えるイヴだが、やはりところどころ抜けている。そばで見ているクロエも苦笑いだ。


「なんていえばいいんでしょう……こう、見えない何かを放出する感じ、ですかね」

「そんな感覚的に言われても……」

「まあその時は私が代わりにしますので。とりあえずやってみてください」


 はぁ、としか俺はイヴに返事ができなかった。まあクロエもいるし何とかなるだろう。


 見えない何かを放出、ねぇ……

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