12『後日談』
次の日は当然やって来る。そして、まだ一週間は終わっていないから学校がある。俺はいつも通り学校に来て、自分の教室がある三階までダラダラと上り、教室の扉に手をかけた。
開かない。
おや? と俺は首をかしげた。中で誰かが悪戯をして鍵でもかけたのだろうか。右に左に引っ張っても、ガタガタと揺らしても扉は開かない。きっと壊せば開くだろうが、生憎俺にはそんなワイルドなことをする度胸など無かった。
扉の内側には布があり、目隠しになっている。つまり中の様子が見えない。昨日まではこんなもの無かったから、きっと俺より先にきたやつがつけたのだろう。鍵をかけた犯人と同じかもしれない。
まあ、教室には扉がもうひとつある。そっちも開かなかったら考えることにしよう。
そう考えて俺は移動する。今開かなかったのは教室の後ろ側の扉で、今度は教室の前側の扉へ手をかける。
やはり開かなかった。
しかし、後ろ側の扉とは違い前の扉には目隠しとなる布がなく中の様子がはっきりと見えた。そして、俺は中の様子に絶句した。
まず、昨日俺と鶴ヶ谷で片付けた筈の机が、俺と鶴ヶ谷で片付ける前、つまり推理ゲームをしていた時の状態になっていた。全てが四隅に追いやられ、前側の扉の前だけ人が通るスペースがある。
机がなくなったことにより空いたスペースには、二枚の新聞紙とその上にやけにリアルな血塗れの人間の腕と足があった。昨日のように、紙に書いただけのものではない。立体的で、赤色で、肌色だ。
最後に正面を向く。ずっと視界の端にあったが触れていなかったものと向き合う。
俺の正面。唯一移動されていない教卓。その上に、やはり昨日のようなボールではなくやけにリアルな生首が鎮座していた。
嫌な悪戯だ。
こんなことをするのは、否、出来るのは鶴ヶ谷咲一人しか居ない。この状況を知っているのは鶴ヶ谷と俺だけだ。しかし、鶴ヶ谷はこんな悪趣味なことをする性格だっただろうか?
教卓の上の生首と目が合う。
鶴ヶ谷の出した問題の中ではそれが誰なのか判別できないということになっていたが、今俺の正面にいる生首はなんとなく顔の判別ができた。出来てしまった。
それはよく知った顔だ。一日に一回は必ず拝む顔。生まれてから今日という日まで欠かしたことはない。
紛れもない、俺の顔だった。
そう認識するや否や、それがまるでスイッチだったかのように俺の視界が揺らいだ。黒と白が勝手に視界に入り込み、ぐるぐると渦を描き始める。気持ち悪い。そう感じたときには遅く、俺の体は力を失って地面に倒れこんでいた。
息が上手くできない。視界が真っ赤に染まったまま戻らない。何が起きた。一体、何が起きた。
相変わらず息が上手くできないが、視界が徐々に戻ってきた。
そして、俺の視界が完全に戻ったとき、俺は教室の中にいた。不自然な高さだ。動くことはできず、正面には扉がある。
これが、生首の方の俺から見た景色であると理解するのにそう時間はかからなかった。
扉の向こう側に人影が見える。
長い髪の毛。よく知った顔。俺が片想いをしている相手。
とても悲しそうな表情を浮かべた鶴ヶ谷と目があった瞬間、俺の意識は真っ黒に塗りつぶされた。




