第1話:玉砕なんてクソ喰らえ
プロローグ:金髪白ギャル、緑の地獄に立つ
神奈川県横須賀市。米海軍ベースの街特有の、どこかバタ臭い潮風が吹き抜ける昼下がり。
「……あー、マジだる。今日予約詰まりすぎ。てか、客のクソババアの愚痴に付き合ってたら昼休み終わるじゃん」
ドブ板通りから少し外れた美容室の裏口で、柴山ひかり(24歳)は短く息を吐き出した。
肩まで届くウェーブがかった金髪を指先でいじりながら、ポケットを探る。耳元でジャラジャラと鳴る両耳のピアスが、100円の安物のライターに当たってチカチカと光った。しかし、お気に入りのソフトパッケージ――『セブンスター』の箱は完全に潰れており、中身は空っぽだった。
「チッ、シケモクもねえわ。セッタ切らすとかマジありえないんだけど」
ひかりはピンクに彩られたスカルプネイルの爪先で、カツンと空の箱をゴミ箱に弾き飛ばした。
身長155センチの痩身。白ギャルメイクに細い眉、お世辞にも上品とは言えない口調。勉強は大嫌い。ミッション系の女子校を「お祈りなんかで成績が上がるかよ」と教師にタンカを切り、退学寸前でギリギリ卒業した。男に媚びるのが死ぬほど嫌いで、地元の飲み屋で絡んできたガタイの良い米海軍(海兵隊)の黒人を、中学時代に仕込まれた柔道の背負い投げでコンクリートの床に叩きつけ、一発で気絶させた武勇伝を持つ。ひかりがこの世で最もヘドが出るほど嫌いなものは、ただ一つ。――「ウジウジした、弱い男」だ。
タバコを求めて、近くのコンビニへ向かおうと、ひかりは歩道の白線を踏み越えた。
その瞬間。
「アブねぇッ!!」
激しいクラクションの音。視界の端から飛び込んできたのは、過積載の大型トラックのグリルだった。キキーッという耳を裂くスキール音と、網膜を焼き尽くすような白いヘッドライトの光。ドン、という短い衝撃のあと、ひかりの意識は急速に暗転していった。
(……は? マジ最悪。ウチ、こんなところで死ぬの? ……ウケる……)
◇
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
「う……、げほっ! げほっ!!」
強烈な不快感に、ひかりは激しく咳き込んで目を覚ました。
だが、そこは横須賀のコンクリートの上でも、病院のベッドの上でもなかった。
鼻腔を突き刺したのは、今までに経験したことのない、凄まじい「激臭」だった。
血の匂い。腐り落ちた人間の肉の臭い。そして、アメーバ赤痢に罹患した者たちの、強烈な排泄物の臭気。湿度は100パーセントに達しているのではないかと思えるほどに、肌にベっとりとまとわりつく熱気。
「……っ、何これ!? ガチで臭いんだけど! 誰だよドブ川に生ゴミ捨てたの!」
ひかりは跳ね起きようとした。だが、手元がズルリと滑る。床はコンクリートではなく、粘土質の黒い泥だった。
驚いて自分の手を見る。ハサミを持っていたはずの右手には、なぜか一本の粗末な「竹のヘラ」が握られていた。そして、着ている服が違う。横須賀のサロンで着ていたはずの私服ではなく、泥と血で赤黒く汚れた、国防色のワンピース――大日本帝国陸軍の「従軍看護婦衣」だった。
頭の金髪ウェーブも、両耳のピアスも、ピンクのネイルも、白ギャルメイクもそのままなのに、服だけが戦時中のそれだった。
「はぁ!? 何このダサい特攻服! つーか、ここどこだよ!?」
ひかりが立ち上がり、周囲を見回した瞬間、その視界に飛び込んできた光景に、彼女は息を呑んだ。
そこは、ココヤシの丸太を幾重にも積み重ね、その上にニューギニア特有の泥土を厚く叩き固めて作られた、即席の地下壕――ブナ守備隊の「野戦病院」だった。病院とは名ばかりの、ただの泥の穴だ。薄暗い壕の天井からは、湿った泥水がポタポタと絶え間なく滴り落ちている。
そしてその床(泥の上)には、編み藁や蓙を敷いただけの状態で、数十人の「生ける屍」が転がっていた。
全員、衣服はボロボロに擦り切れ、汗と泥で元の色が分からない。骨と皮ばかりに痩せ細り、眼窩が落ち窪んでいる。彼らはガタガタと歯を震わせ、あるいは虚ろな目で天井を見つめていた。
「おい……しっかりしろよ……。おい!」
ひかりの足元で、小さな呻き声がした。
見下ろすと、一人の若い兵士が倒れていた。佐藤一等兵だ。彼は過酷なポートモレスビー攻略作戦の退却戦(南海支隊)を生き残り、このブナの湿地帯まで命からがら辿り着いたものの、すでに心身ともに限界を迎えていた。栄養失調による脚気で足は異常に変色し、熱帯特有のマラリアの発熱で意識が朦朧としている。
何より異常だったのは、彼の太ももだった。敵の破片弾による生々しい銃創。そこには薬品が一切塗られておらず、ただの汚れた包帯の切れ端が巻かれているだけだった。そしてその傷口の奥、ドロドロに腐りかけた肉の中で、白い青バエのウジ虫が、びっしりと数十匹も蠢き、肉を貪っていた。
「ひっ……!」
ひかりは一瞬、本能的な嫌悪感で身を引いた。令和の美容師が、こんな地獄絵図を見るわけがない。薬品は完全に枯渇し、赤痢用の塩酸ベルベリンも、マラリア特効薬のキニーネも底を突いていた。
佐藤一等兵は、虚ろな目を金髪のひかりに向け、カサカサにひび割れた唇を動かした。
「看、護婦殿……。私は、もう駄目です……。足が、動かない……。お国のために……大君のために、私はここで、名誉ある戦死を……玉砕を……」
佐藤の目から、一筋の涙が泥の中にこぼれ落ちる。それは、完全に「生きることを諦めた弱い男」の顔だった。
その瞬間。
柴山ひかりの脳内で、何かがブチリと切れる音がした。
恐怖も、混乱も、激臭への不快感も、すべてが「怒り」という爆発的なエネルギーに上書きされる。
「……あ?」
ひかりは泥の中に膝をつくと、佐藤一等兵の胸ぐらを、ピンクのネイルが突き刺さるほどの力でガシッと掴み上げた。ガリガリに痩せた佐藤の身体が、ひかりの腕力でいとも簡単に浮き上がる。
「な、看護婦殿……?」
「あ? 名誉ある戦死ぃ? 玉砕ぃ? ふざけたこと言ってんじゃないよ、このスカポンタンが!!」
壕の中に、ひかりのドスの利いた怒声が響き渡った。死に立ち向かっていたはずの周囲の重傷兵たちが、ビクッと身体を震わせる。
「男のくせに、ウジウジ泣き言言ってんじゃねえよ! 死ぬのが名誉だぁ? んなワケねえだろ、死んだらただのゴミなんだよ! ウチはな、テメエみたいな弱い男が、死ぬほど大嫌いなんだよ!!」
「は、しかし……薬も、弾も、食糧も……」
「うるせえ! 死ぬ気があるならな、その傷口に湧いてるウジ虫まとめて噛み殺して、飲み込んで、生き残る根性見せろやコラァ!!」
ひかりは佐藤を泥の上に突き戻すと、右手に持っていた「竹のヘラ」を逆手に握り直した。
「いいか、ウチのシマ(野戦病院)に入った以上、ウチの許可なく勝手に死ぬんじゃねえよ」
ひかりは迷いなく、佐藤の腐りかけた傷口に竹のヘラを突っ込んだ。
「ぎゃあああああああああッ!!!」
麻酔のない、生身への激痛。佐藤が絶叫を上げる。
だが、ひかりの手は止まらない。鋭いメンチを切りながら、ピンクの爪先を泥で汚し、竹のヘラで傷口から蠢くウジ虫を容赦なく毟り取り、床の泥へ叩きつけていく。
「ウジ虫ごときが、ウチの患者の肉を美味そうに食ってんじゃねえよ! 気合い入れろ佐藤! 痛えってことは、まだ生きてんだろ!!」
それは一見、あまりにも凄惨で野蛮な光景だった。しかし、薬品のないこの地獄において、ひかりの行った行為は、結果的に「壊死した組織をウジに食べさせ、さらに残った異物を掻き出す」という、中世さながらの、だが唯一の有効な救命処置(マゴットセラピーの応用)になっていた。佐藤の瞳に、激痛と共に、生きようとするドス黒い「執念」の光が逆流していく。
「何事ですか、木村さん!!」
そこへ、壕の奥から厳しい声が響いた。
陸軍病院から前線へ派遣されたベテラン主任看護婦、大森節子だった。髪をきっちりと結い、泥まみれになりながらも「帝国淑女」としての気品を保とうとしている大森婦長は、ひかりの金髪と、その不謹慎な怒声に顔を真っ青にしていた。
「薬品も包帯も底を突き、軍医殿も昨日の爆撃で戦死されたのです! 私たちに残されたのは、ただ静かに患者たちの最期を看取り、お国のために命を捧げることだけ……それを、その品性のない格好と大声は、一体何の真似ですか!」
大森婦長の「正論」に、ひかりは竹のヘラを持ったまま、ゆっくりと立ち上がった。そして、年上の婦長に対しても一歩も引かず、顎を突き出してメンチを切った。
「ハァ? 薬がないならな、その辺のジャングルから薬草でもヤシの実でも、何でも毟ってくりゃいいじゃん! 静かに死を待つぅ? んな気色悪いオカルト宗教みたいなこと言ってんじゃないよババァ! 生きる気合いが足りねえんだよ!!」
「な、何を不敬な――!」
ズズズズズズズズン!!!!!
二人の激突を切り裂くように、壕の外部で、空気を引き裂くような大爆発が連鎖した。
凄まじい衝撃波。天井の丸太から、大量の泥と砂がひかりたちの頭上にバラバラと降り注ぐ。
米豪軍による、圧倒的な物量(火力)の暴風が、ついにブナの陣地へ直接襲いかかったのだ。
壕の外からは、日本軍の九二式重機関銃が「ダダダダダッ!」と必死に抵抗する発射音が聞こえるが、それもすぐに、敵のM3軽戦車が放つ37mm戦車砲のゼロ距離射撃によって、トーチカごと木端微塵に粉砕される音が響く。
上空からは、B-25ミッチェル爆撃機が超低空で侵入し、12.7mm重機関銃の掃射で、ジャンプルの木々をなぎ倒しながら、地上の人間を肉片へと変えていく。
「伝令! 伝令ッ!! 第五陣地、敵戦車により突破されました!」
泥まみれになり、血を流した兵士が壕に転がり込んでくる。
その直後、軍刀を厳かに引き抜き、発狂寸前の鋭い眼光を放つ将校が壕へと飛び込んできた。ブナ守備隊の小隊長、横山少尉だった。
「もはやこれまで! 陣地は包囲された! 残存兵はこれより、全員爆薬を背負って敵戦車へ突撃(バンザイ突撃)を敢行する! 一死もって重恩に報い、名誉ある玉砕を遂げるのだ! 動ける者は銃を持て! 看護婦も、敵に捕まる前に自決せよ!!」
横山少尉の叫びは、軍人としての教本通りであり、この戦場で「狂気」に囚われた男の最終結論だった。
兵士たちが、絶望の中で諦めの表情を浮かべる。
だが――。
その狂気の将校の前に、一人の金髪の少女が、泥を撥ね上げて立ち塞がった。
柴山ひかりは、抜かれた軍刀の切っ先が目の前にあるにもかかわらず、全く怯まなかった。それどころか、横山少尉の胸ぐらを掴み、その顔面へ限界まで顔を近づけて、ドスの利いた声でメンチを切った。
「……おい。そこの特攻服着た、頼りねえ面した隊長」
「な、何奴……! 貴様、看護婦の分際で軍官に向かって――」
「あ? つまんねえ面子のために、ウチの患者を犬死にさせる気かって聞いてんだよ、コノヤロー!!」
ひかりの圧倒的なヤンキーの気迫に、ガチガチの軍人であるはずの横山少尉が、思わず一歩気圧される。
「玉砕だの自決だの、クソ喰らえなんだよ! 確かに全員ハラ減って動けねえし、状況は最悪だけどさぁ……。ウチがここにいる以上、気合い入れりゃ、なんとかなるっつーの!!」
押し寄せる米軍の砲撃の炎が、壕の隙間から差し込み、ひかりの金髪ウェーブと、泥に汚れた赤十字の腕章を真っ赤に照らし出す。
絶望に染まった緑の地獄に、令和の最凶白ギャルヤンキーの、生への執念の咆哮が、確かに轟いた。
(第1話へ続く)
第1話:玉砕なんてクソ喰らえ
「……な、何奴……! 貴様、看護婦の分際で軍官に向かって――」
横山少尉の言葉は、最後まで続かなかった。
乾いた、凄まじい衝撃音が地下壕の中に炸裂した。
ひかりの右ストレート――ではない。ピンクのスカルプネイルを施した右手のひらが、横山少尉の左頬を完璧な角度で捉えていた。身長155センチの痩身とは思えない、地元の修羅場を潜り抜けてきた元ヤンキーのヘッドとしての、腰の入った「本気のビンタ」だった。
「がっ……!?」
横山少尉の身体が大きくよろめき、軍帽が泥の中に転がり落ちる。
壕の中の空気が、米軍の砲撃の地響きさえ消し飛ぶほどに凍りついた。
佐藤一等兵は恐怖のあまり顎をガタガタと震わせ、大森婦長は驚愕のあまり声を失って口元を押さえている。軍紀が絶対の帝国陸軍において、一介の従軍看護婦が、前線指揮官である将校を殴り飛ばすなど、文字通り「ありえない」狂気の沙汰だった。
横山少尉は、泥まみれの床に手をついたまま、呆然と自分の頬を押さえていた。
痛い。脳が揺れるほどの衝撃。これほどの痛みを伴う制裁を受けたのは、それこそ血の滲むような陸軍士官学校の狂気的なシゴキの洗礼以来のことだった。士官学校を優秀な成績で卒業し、大本営の教本通りに「名誉ある戦死」を部下に説いていたエリートのプライドが、金髪ウェーブの白ギャルの一撃によって文字通り粉砕された瞬間だった。
「き、貴様ぁ……ッ! 軍法会議どころか、その場で不敬罪として斬り捨ててくれるわ!」
横山少尉が怒髪天を突き、泥まみれになりながら軍刀を握り直そうとした。
だが、ひかりは全く日和らない。それどころか、さらに距離を詰め、横山の胸ぐらを両手でガシッと掴み上げて、顔面が触れ合うほどの距離で激しいメンチを切った。
「あ? 軍法会議? 斬り捨てる? テメエの頭の中はそればっかかよ! いいか、よく聞け、このポンコツ大将!」
「な……っ!」
「部下を守るのは、ヘッド(総長)の努めなんだよ!!」
ひかりは、ヤンキー時代に何十人もの身内を率いていた「ヘッドとしての責任」という言葉を、この戦場の指揮官に叩きつけた。
横山少尉の脳裏に、その「ヘッド」という奇妙な単語がリフレインする。ヘッド――先頭、すなわち突撃部隊の最前線(尖兵)に立つ者のことか……!? 彼は彼女のヤンキー言葉を軍隊用語として誤認し、軍医も薬も失ったこの最前線の野戦病院を一人で背負おうとする彼女の「上に立つ者の凄まじい覚悟」に、肌が焼けるような圧力となって圧倒された。
「テメエのケツの下にいる兵隊たちはな、テメエの面子を保つためのチェスの駒じゃねえんだよ! 命を粗末にするな。テメエがここでカッコつけて『玉砕』なんてして死んでみろよ、日本にいるテメエの母ちゃんが泣くぞ、コノヤロー!!」
「母ちゃん」――そのあまりにも泥臭く、教本には絶対に載っていない単語が、横山少尉の脳裏に、遠い故郷で自分の無事を祈っているであろう母親のシワだらけの顔を強烈にフラッシュバックさせた。
「大君のため、名誉のため……」と、呪文のように唱えていた横山の唇が、ガタガタと震え始める。彼は、死ぬのが怖かったのだ。戦況が完全に詰み、米軍の圧倒的な物量に絶望したからこそ、「玉砕」という名誉ある自殺に逃げようとしていた己の弱さを、この24歳の金髪ヤンキーに完全に見透かされたのだ。
「……しかし、どうしろと言うのだ……」
横山少尉の手から、軍刀が力なく滑り落ち、泥の中に刺さった。唖然として、ひかりを見上げる。
「陣地は完全に包囲されている! 敵のM3軽戦車の37mm戦車砲は、我々のヤシの木で作ったトーチカを紙切れのように引き裂く! 上空からのB-25の12.7mm機銃掃射で、外に出た者は一瞬で肉片だ! 薬品もなく、三八式歩兵銃の弾薬も底を突き、ジャム(薬莢詰まり)を起こした銃ばかり……! 食糧もなく、兵は動けん! これで、どうやって生き残れと言うんだ!」
横山が叫ぶ戦況のディテールは、まさに絶望そのものだった。だが、ひかりは不敵にフッと笑い、ピンクのネイルで自分の鼻をこすった。
「ハァ? 敵の装甲アメ車がゴツくて、飛行機がうるさくて、鉄砲の弾がねえ? ……上等じゃねえか。ウチの地元のベースの周りにはな、そんなゴツいアメリカンな奴らがゴロゴロいたっつーの。ナメられてたまるかってんだよ」
ひかりは、泥の中に倒れていた佐藤一等兵の元へ歩み寄ると、ウジ虫を毟り取ったばかりの彼の細い腕をガシッと掴んで強引に引きずり起こした。
「痛っ……! 看護婦殿……!」
「立て、佐藤! 脚気がなんだ、マラリアがなんだ! 死ぬ気合いがあるなら、その気合いを生きるために回せ! いいか、テメエのその、銃のジャムの直し方だかなんだか知らねえけど、男ならウチのサポートくらいしてみせろ!」
「は、はいッ!!」
ひかりの圧倒的なド根性に気圧され、佐藤一等兵の目に、かつてない兵士としての「執念」が宿る。
ひかりは大森婦長を振り返った。
「ババァ……じゃなくて、婦長! 薬がねえなら、今すぐ動ける患者全員集めて、その辺のヤシの木の実を叩き割ってジュース集めな! 水分補給が先決だろ!」
「え、あ……はい! わかりました!」
厳格だった大森婦長も、ひかりの圧倒的な「現場を仕切るリアルなヤンキーヘッドのオーラ」に、思わず背筋を伸ばして従軍看護婦としての返事をしてしまった。
ひかりは最後に、まだ泥の中に座り込んでいる横山少尉を見下ろした。
「おい、ポンコツ隊長。いつまでシケた面して座ってんだよ。シャキッと立ち上がって、ウチらの脱出ルートを確保しな。玉砕なんてクソ喰らえなんだよ。皆腹減ってっけどさぁ……気合い入れりゃ、なんとかなるっつーの!」
ドォン!! と、壕のすぐ近くで再び敵の砲弾が炸裂し、凄まじい衝撃波が駆け抜ける。
しかし、野戦病院の中の空気は、もうさっきまでの「死を待つ地獄」ではなかった。金髪ウェーブを振り乱し、泥まみれの赤十字を掲げた最凶の白ギャル・柴山ひかりを中心に、男たちのド根性に火がついたのだ。
米豪軍の圧倒的な火力が迫る中、緑の地獄からの、前代未聞の「気合いの脱出サバイバル」が、今ここに幕を開けた。
(第2話へ続く)




