第12話 尊い
攻略を、やめてから。
三学期は。
驚くほど。
穏やかに。
過ぎて、いった。
わたしは。
もう。
何も。
仕組まない。
ただ。
のんびりと。
毎日を。
過ごす。
森本と、駄弁って。
東海林と、萌えて。
気が、向いたら。
遠くの、尊さを。
眺める。
……それだけで。
十分。
幸せ、だった。
◇
その日は。
三学期に、しては。
妙に。
暖かい、日だった。
二月の、終わり。
なのに。
まるで。
春みたいな。
陽気。
教室の、窓から。
やわらかい、日差しが。
差し込んで。
みんな。
少し。
眠そうに。
して、いた。
「あっちー……」
隣の、席で。
男子が。
ぼやいた。
「なんだよ、この、暑さ。まだ、二月だろ」
何人かが。
ブレザーを、脱いで。
シャツに、なる。
……そんな。
のどかな。
昼下がり、だった。
◇
放課後。
わたしは。
図書室に、いた。
相変わらず。
何を、するでも、なく。
窓際の、席で。
ぼーっと。
文庫本を。
めくって、いた。
……と。
資料コーナーの、ほうから。
声が。
聞こえて、きた。
「うわ、ほんと、暑いな。……ここ」
……不破の、声。
「換気しましょうか。……窓、開けますね」
……日下部の、声。
二人は。
例の。
歴史の、課題で。
資料を、探しに。
来て、いる、らしい。
……もちろん。
わたしは。
何も。
仕組んで、いない。
ただ。
偶然。
居合わせた、だけ。
◇
わたしは。
本の、陰から。
そっと。
二人を。
見て、いた。
(癖、である)
不破が。
暑さに。
顔を、しかめて。
ブレザーを、脱いだ。
シャツの、袖を。
無造作に。
まくり上げる。
日下部も。
ネクタイを。
少し、緩めて。
「本当に、暑いですね」と、笑った。
二人とも。
いつもより。
少し。
気を、抜いた。
ラフな、姿。
……ふむ。
悪くない。
悪く、ないわ。
(※審美眼)
◇
二人は。
並んで。
高い、書架の、前に、立った。
「えーと。……郷土資料は、この、辺か」
「上の、段ですね。……僕、取ります」
日下部が。
背伸びを、して。
一番、上の、棚に。
手を、伸ばした。
……でも。
少し。
届かない。
「……あれ」
「貸せ。俺の、ほうが、背、高い」
不破が。
日下部の、後ろから。
手を、伸ばした。
……そのとき。
だった。
◇
背表紙に。
伸ばした。
不破の、手と。
まだ。
引っ込めて、いなかった。
日下部の、手が。
……ふ、と。
触れた。
ほんの。
一瞬。
指と、指が。
重なる。
二人とも。
びくっと。
手を、引いた。
「……わ、悪い」
「……いえ」
不破が。
ちょっと。
気まずそうに。
目を、逸らす。
日下部が。
……ほんの、少し。
頬を、赤らめて。
微笑んだ。
「……不破くんの、手。……大きいですね」
「……うるせえ」
……。
……。
……。
◇
――尊い。
その、瞬間。
わたしの、中で。
何かが。
ふるえた。
……見た。
いま。
見た。
わたしが。
ずっと。
ずっと。
見たかった。
あの。
尊い、瞬間を。
でも。
それは。
わたしが。
仕組んだ、ものじゃ、ない。
班分けを、いじって。
二人を、無理やり、二人きりに、して。
作った、ものじゃ、ない。
……ただ。
暑い、日に。
偶然。
手が、触れて。
少しだけ。
照れて。
……それだけの。
何気ない。
本物の。
一瞬。
……ああ。
これだ。
わたしが。
本当に。
見たかったのは。
これ、だったんだ。
◇
わたしは。
気づけば。
泣きそうに、なって、いた。
……なんで。
だろう。
ただ。
男の子、二人が。
手を、触れただけ。
なのに。
どうして。
こんなに。
胸が。
いっぱいに。
なるんだろう。
……ずっと。
力んで、いた。
「見なきゃ」「作らなきゃ」「攻略しなきゃ」って。
でも。
本当に。
尊いものは。
そんな、風に。
手に、入れるものじゃ、なかった。
ただ。
ふっと。
訪れて。
ふっと。
心を。
満たして、いく。
……ああ。
満たされて、いく。
……わたし、いま。
ものすごく。
幸せ、かも。
◇
その、瞬間。
ぐにゃり、と。
世界が。
歪んだ。
……あ。
と。
思った。
いつもの。
リセットの。
感覚。
でも。
何かが。
違った。
今までの。
「失敗して、引き戻される」感じ、じゃ、ない。
もっと。
……温かくて。
満ち足りた。
……解放される、ような。
――ああ。
そう、か。
わたしは。
ようやく。
わかった。
これは。
リセットじゃ、ない。
……これは。
「脱出」だ。
わたしは。
とうとう。
満足したんだ。
心の、底から。
だから。
この、ループは。
……終わる。
◇
溶けて、いく、意識の、中で。
わたしは。
思った。
……なんだ。
簡単な、こと、だった。
満足すれば。
抜けられる。
最初から。
わかって、いた。
でも。
わたしは。
それを。
「攻略」しようと、して。
「作ろう」と、して。
力めば、力むほど。
遠ざかって、いた。
……本当の。
満足は。
力を、抜いた、その、先に。
何気ない、日常の、片隅に。
……ちゃんと。
待って、いた。
――さようなら。
わたしの。
何度も、繰り返した。
大好きな。
三学期。
(第12話 了 / 脱出)
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【 湊ミライの ループ攻略メモ 】
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一、 これは わたしの願望が見せる世界
二、 心底"満足"すれば抜けられる ←達成!
(満足=不破×日下部の尊さを見届けること)
三、 思惑を勝手に見抜かれたら即リセット
四、 自分から明かして引き入れた味方はセーフ
五、 見抜かれても 相手が"同好の士"ならセーフ
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★ クリア条件、判明
・尊さは "作る" ものではなく "訪れる" もの。
・力を抜いた 何気ない日常にこそ、本物があった。
・攻略をやめた 瞬間に、答えは 向こうから来た。
→ 心底 満足。ループ、脱出。
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