八話 本編開始。
両親に会ったという人間は、数か月探したが見つからなかった。
役所にお願いするにも、公爵家に関わるの嫌がるだろうしなぁ。
下手したら「公爵家の婚約者を騙った無礼者」として極刑になるかもしれないし。
そうしていくうちに、私も23歳。
結婚適齢期ギリギリになった。
前世の世界では「人の噂も七十五日」なんてことわざがあったけど、この世界では違うらしくて「ドロシー・テレーシアには婚約者がいる」という事は世間では暗黙の了解となってしまった。
つまり、相手を見つけることも出来ないのだ。
最終的には「婚約者に逃げられて、泣く泣く他の男と結ばれた」という感じで結婚することにはなる、なんてことになるかも知れない。
だが、未来を嘆いている時間はない。
未来の時はその時に考えればいいのだ。
今日も領地経営もしつつギルドマスターとして働かなくてはいけない。
領地の近くで新しいダンジョンが誕生し、しかもかなりレア度の高い鉱石やモンスターが出てくる。
それを狙って各地から冒険者が集まり、私たちのギルドは今までにないほどの賑わいとなった。
それに合わせて集会所や近隣の宿屋などの施設を増設して整え、いつしか王国からも目を置かれるほどの大規模なギルドとなった。
そうしてせわしなく生きていくうちに時は流れていくうちに、噂も気にならないようになった。
「女将さーん、今日のクエスト申請、よろしくお願いします」
「はぁい。ただいまー」
現在、私はこのギルドで冒険者の方々から「女将さん」と親しみを持って呼ばれている。
彼ら曰く「親身で丁寧で、他のギルドマスターのように偉ぶった感じがない」ところから、そんな風に呼んでくれているそうだ。
ちょっと照れるけど、嬉しいなぁ。
気づけばテレーシア領のギルドは、原作よりも規模が大きくなって、行きかう人々の顔も皆活気に満ちていた。
民度も格段に良くなっている気がする。
……まあこれは原作のドロデスのやり方が悪すぎたってだけだけど。
それでも自分の力で職場が豊かになっていくのって、やっぱりいいなぁ。前世を思い出す。
そんな中、集会所のドアが開いた瞬間、一斉に歓声が湧く。
「あ! ルルさんおかえりなさい!」
「神童ルル様の御帰還だ!」
「お前らなぁ、ルルじゃなくて俺らのことも言えよ!」
一斉にルルくんに視線を集中させる冒険者たちに、帰還したばかりの槍使いが苦笑交じりに非難する。
13歳の頃から成長して、ルルくんは現在16歳。
もう一人で冒険者として活躍することが可能な年齢だ。
ルルくんはあれからメキメキと成長していき歴代最年少でS級魔術師の資格を得た。
しかし特定のパーティーに所属することはなく、その日に彼が決めたパーティーと組んでいる。
ルルくん曰く「一つのパーティーに所属しているとそこがやっかみを受けそうだし、教育も出来そうだから」そうしているそうだ。
周りのことをよく見ている彼らしいな、とルルくんの心遣いに私も感心する。
今日彼と組んだパーティーが受付で報酬を受け取っている間、ルルくんは大勢に囲まれていた。
「ルル! 今度は俺らと組まねえか? どうしても欲しい素材があってよお」
「ねえ、ルル様。私たち、S級クエストを受けたくて……でも不安なんです。だから一緒に来て下さい! お願いします!」
「一週間だけ僕たちのギルド専属の魔術師になってくれるかい? 言い値を出すから、なあ、頼むよ。悪い話じゃないだろ? 若い君のキャリアにもなるからさぁ」
彼らはギラギラとした目でルルくんに縋る。引っ張りだこ状態だ。
私の予想通り、いやそれ以上にルルくんは成長した。
魔術だけじゃない、男性としてもだ。
背はスラリと伸びて、体を鍛えているからか筋肉がついて逞しくなった。
顔立ちもクールで、16歳とは思えないほど色香が漂っている。
女性で構成されるパーティーが彼を狙っているのは、ルルくんの魔力だけが目当てじゃないだろうなぁ。
そしてルルくんは彼らにニコリと笑って、手を突き出す。
「お気持ちはありがたいけど、全てお断りします」
きっぱり、かつ二の句を許さない言葉に、皆何も言えなくなっていった。
本当にしっかりした子だな。
そう思って彼を見ていると、ふと視線が合った。
ルルくんはこっそりと私に手を振る。
初めて会った時とは違い綺麗に切られた黒髪が揺れ、深紅の瞳が細められた。
……こんなの見たら女の子の心臓持たないでしょ。
私もそっと手を振り返す。
そうしてルルくんはリーダーから今日の分け前を貰い、私も仕事に戻った。
仕事の合間、作業台のカレンダーが目に入る。
今は、レオポルド暦300年。
つまりはレオポルド王国が建国して300年になる。
この年は特別な年だ。
そう。
主人公たちのパーティーがこのギルドに登録しに来る年。
ブレプリの物語が始まる年なのだ。




