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一話 これってどういう状況ですか?

異世界転生っていうものがある。

現代で理不尽な死を迎えた不幸な人間が、剣と魔法の世界にいって、チートなスキルを貰って幸せになる、っていう救済だ。

大体その世界はオリジナルではなく、ゲームやらライトノベルやら原作があるものだったりする。

男性の場合は主人公よりも優れたスキルを持って見目麗しい女性から囲われ、四六時中ちやほやされる。

女性の場合は原作のヒロインよりも活躍し、地位と美貌をもったイケメンに言い寄られる。

私も、そうして転生した。

誰に転生したって?

ヒロインを虐めたりする悪役令嬢? 少しだけ違う。

転生ものでは脳味噌お花畑だったり逆ハーレム狙いのビッチに改変されがちな正統派ヒロイン? 違う。

はたまたその世界では空気だったモブ? ……そうだったらよかったな。

私が転生したのは、悪役ではある。

でも令嬢じゃない。女性キャラでもない。

私が転生したのは、映像化やゲーム化もされたライトノベル、『ブレイブプリンス~勇者への階段を三人の少女と共に~』、略して『ブレプリ』の世界だ。

冒険者の最高位である勇者を目指す主人公が、三人の少女とパーティーを組んで、共に戦い成長する、王道なストーリーだ。

ブレプリの魅力は個性豊かなヒロインとのラブコメもあるが、憎らしい敵を痛快に打ち倒すという、ざまあ要素にもある。

特に一巻でのボスはかなりの胸糞な悪役であった。


ドロデス・テレーシア。

主人公が最初に所属していたギルドのギルドマスターであり、ブレプリ至上最低の悪役として名高いクズであった。

ギルドの支配人、ギルドマスターであることと男爵と言う地位を利用して、ドロデスは傍若無人に振る舞っていた。

部下への暴力や受付嬢、女性冒険者へのセクハラなんていうのは日常茶飯事。

自分の気に食わない人間に絶対にクリア不可能なクエストを課すなど無理難題を追しつけ、失敗するとそれを理由にギルドから追放する。

挙句の果てには、簡単なクエストと言って主人公の三人のヒロインたちをゴブリンの巣に追いやった。


『魔物に犯されて傷物になった三人を奴隷として飼ってやろう。飽きたら売ればいい』


ゲスい笑顔でそう言うドロデスに、読者の怒りは頂点に達した。

三人のヒロインの危機に駆け付け、覚醒した主人公がゴブリンを一掃。

ドロデスに対し堪忍袋の緒が切れた主人公は、同じく彼に不満を抱く他のギルドメンバーや反乱を持った市民を集め、ドロデスに反逆。

遂には主人公を闇討ちしようとして失敗。その上、罪を暴かれたドロデスは男爵家を取り潰され罪人として島流しになった。

……そう。

私はその最低最悪のクズ悪役、ドロデスに転生してしまったのだ。


「ドロシーちゅあん、朝ご飯できたわよ~」


一階から母親の声がする。

いかにも子供を溺愛して駄目人間にさせていく、そんな甘ったるい母親ってわかるよいな声だ。

え? 名前がドロデスからドロシーに変わってる?

それもそうだろう。

私は今、12歳の女の子。

私はどういうわけか、クズ男のドロデスが女体化した姿に転生してしまったのだ。


「ドロシーちゃん? まだおねむかしらー?」


まるで幼児に言うように母親が言う。

私は慌てて話を合わせる。


「い、今行くわ。髪のセットが出来てないの」

「わかったわ、待ってるからね」


ドアの前まで来ていた母親は、そう言って去っていく。

私はそれに一安心して、鏡を見た。

淡金色の癖っ毛と丸眼鏡。

そこまでは原作のドロデスと同じだ。

眼鏡の奥の憎たらしい三白眼は、今はクリクリとした年相応の少女らしい目になっている。

体型もごく平均的な女児の体だ。彼のような不快な威圧感はない。


「ドロデスのまま転生しなかっただけ、まだマシか……」


そう言って諦めた私は部屋を出て、豪勢すぎて胸焼けしそうな朝ご飯を食べたのだ。

部屋に戻った私は、痛む胃を抱えながら、これからすべきことを模索した。


(ギルドマスターは男爵家の家業。男爵家として生まれたものとして、私はそれを継がなくてはならない。ドロデスのようなことをしないのは当たり前だけど、ギルド運営をもっといいものにしないと)


前世では私は長きにわたって人事部で勤めていた。

社員採用、労務管理、人材育成、経営戦略と連動した戦略的人事をこなし、制度設計やオペレーションもしてきた。

戦略だけではなく、法令知識やコンプライアンス意識をもって社員の精神負荷を軽くして、働きやすい環境を作って来た。

そのせいで頭の固い、いわゆる非アプデな思想の人たちから結構な恨みを買って来たけど。

「他人の問題に顔突っ込むのが好きな性悪な行き遅れ」とか散々陰口言われたっけ。

職場環境をよくするには早い方がいい。

私は両親にギルドの見学を頼んだ。

母親と同じく、父親も子供である私に甘く、すぐに許可してくれた。

私は父親に連れられ、冒険者ギルドに向かった。

私は客である冒険者、職員である受付嬢の動きをよく観察し、改良点を見繕った。

後日、それらを纏めた稟議書を、現在ギルドマスターである父親に渡した。

最初は訝しんでいたものの「ドロシーのお願いなら」と言って、受け入れてくれた。

ギルドの集会所の整理整頓。

書類の整理方法から作業手順の統一。

個人情報を守った相談窓口の設置。

軽くこれだけ変えてみた。

すると翌日から、父親は笑顔で私に飛びついてきた。


「すごいぞドロシー! ドロシーの言う通りにしたらギルドの回転が良くなって、作業効率が上がったんだ!」

「すごいわドロシーちゃん! さすがは私の愛する娘だわ!」


二人に抱きしめられ「ぐえ」と情けない声が出てしまう。

それでも、自分の行動により成果が出たことに喜びを感じる。


(よし。いろいろわかんないことはあるけど、異世界転生らしく前世での知識を駆使して、破滅を回避するぞ……!)


そう決意するのだった。


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