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間に合ったーーー!
すいません最終話です!
暗くて、読む人によっては胸糞悪いかも?
この作品は、予想外に多くの方に感想やブクマや評価を頂けて、大変嬉しかったです!
ありがとうございました!
【ピンク女 マニュエル視点】
この施設に入れられて、どれくらいの年月が過ぎただろう。
脱走防止の為か、窓は高い位置に小さな窓が有るだけで、外の季節さえ見えない。
真っ白いこの部屋には、私を観察するためのガラス張りの窓が有るだけ。
1日に2度、食事がドアの小さな扉から差し入れられ、壁に設置された水晶のような石に、1日2度魔力を込める事以外何もやることがない。
◆◆◆◆◆◆◆
私は前世の記憶を持ってこの世界に転生した。
死んだ時の事は覚えてないけど、たぶん事故か何かで死んだんだと思う。
親や友達の顔も覚えてないし。
それまでは普通に高校に通うJKだったし。
乙女ゲームが好きで、恋愛漫画が好きな普通の女の子だった。
男爵家の長女として生まれて、家はそれなりに裕福だったけど、貴族としては底辺の男爵家。
14こも上の兄とはほとんど接点がなく育ち、父と母にはただただ甘やかされた。
鏡を見れば、ピンクの髪にバッサバサの睫毛のぱっちりした目が、こっちを見ていて、勝ち組間違いなしの美少女だったし、もしかしてこれって、漫画や小説にある乙女ゲーム転生じゃない?と思った。
5歳の頃、儀式とか言うので魔力有の判定を受けたし、教会に通うのは面倒だったけど、10歳でも魔力有りになったし。
顔合わせとして伯爵家に行ったら、ピッカピカの美少年がいたし!
ここからは私がヒロインの物語が始まるんだと確信した。
ただ、どの乙女ゲームかは分からなかったので、乙女ゲームにありがちな、苛めには負けない美少女設定を意識してみた。
お茶会に呼ばれた子供達は、伯爵家の美少年以外は全然パッとしなかったけど、私はヒロインだから、分け隔てなく話しかけてあげたのに、いまいち親しくなれなかったし。
女子には凄く嫌な目で見られたし。
ああ、こんな頃から苛めにあってたのね、と納得した。
それでもめげずに頑張るのがヒロインよね!
なんだかやたらと運動神経の良い、猿みたいに木登りする女が居たけど、あれは何だったんだろう?
12歳、王都の魔法学園初等部に入学。
魔力判定検査では、当然レア魔力の闇属性。
ヒロインなのに光属性じゃなかったのは不思議だけど、ゲームの特色をこんな所で出してこなくてもいいと思う。
担当教師はヨボヨボの爺さんだし!光属性担当の、神父みたいな超イケメンと取り替えてって言っても誰も聞いてくれないし!
光属性になったとか言う平民に、ちょっと文句を言ってやったら、友達らしい暴力女が出てくるしで散々よ!
寮生活は、今までメイドがしていたことまで自分でしなきゃいけないし、高位貴族はメイドを1人付けられるのに、私が下位貴族だからって差別されるし!
伯爵家のミルコは、どうにも照れ屋で素直に私を好きって言えないみたいだから、私から積極的に話し掛けてあげてるのに、中々受け答えが上手く出来ないみたい。
まあ、美少年は趣味じゃないからキープだけしておけば良いよね!
高等部入学の前に、デビュタントのパーティーがお城で開かれた。
私は、お母様にデザインを送って特注のドレスを仕立てて貰ったけど、全員が白いドレスを着なきゃいけないって言うのが納得いかなかった。
まあ、その分露出を多目にすれば、目立つだろうから、私に注目が集まるだろうけど!
お城のパーティーは、お城だけあって、どこもかしこもピカピカで華やかで豪華で、これって、上手くやれば将来私はここに住めるんじゃない?とワクワクした。
パーティーでは、攻略対象と思われる男子を何人か見つけた。
まだ出会いのイベントが起きてないからか、お近づきにはなれなかったけど、ミルコ並みにピカピカの美男子だった!
高等部入学。
属性担当の教師は引き続きヨボヨボの爺さん。
言ってることが全然分からないし!
私はヒロインなんだから、イケメン教師がもっと分かりやすく教えてくれれば良いのに!
普通の乙女ゲームなら、攻略対象との出会いは、桜の下って決まってるのに、私が無邪気に桜の下で踊ってやったのに、誰も来やしない!
新入生歓迎会ってイベントでは、定番なゴール位置に先回りしたのに、ドアが全然開かないし!
攻略対象との出会いがあったのに、何故か逃げられたし!
どいつもこいつも照れてる場合じゃ無いでしょう!私が誰かに奪われても良いわけ?!
その後も何人かの目を付けた攻略対象に声をかけたんだけど、何だか反応が鈍い。
乙女ゲームの内容をちゃんと思い出せないせいで、イベントを逃したのかも?
だからって、こんなに好感度が低いってあり得る?
私ちゃんと苛めに耐えてるじゃん!
こっちから話し掛けてやってるんだから、もう少しにこやかにしなさいよ!
段々イライラしてきて、当て付けにその辺のちょっとだけ顔の良い男子に話し掛けてみた。
普通にデレデレしてきて、私に魅力が無い訳じゃなかった。
モブだとしても、囲まれれば悪い気はしないし、女どもの嫉妬剥き出しの視線には、余裕の笑みを返してやった。
そうよ!そうそう!これが乙女ゲームでしょ!ヒロインが幸せになってこそでしょ!
なんとかモブでやり過ごし、2年の進級試験。
魔法実技の試験を担当した教師は、何故か最初から凄く嫌な目を私に向けてきた。
他の生徒の時は普通だったのに、私の順番の時だけ、顎をしゃくって指示してきて、ムカついたからありったけの魔力をそいつにぶつけてやった!
そしたらそいつ、頭を掻きむしって涎を垂らし、暴れ始めたから即行で逃げたら、なんか兵士みたいな奴等に捕まって手錠をかけられて、変な建物に連れていかれた。
これって誘拐じゃない?じゃあ助けに来てくれるのは、好感度が高い攻略対象者?
って期待してたのに、来たのはいつものヨボヨボ爺。
何故か私が学園を退学になるとか言ってるけど、私が退学になって、乙女ゲーム成り立つ訳無いでしょ!馬鹿なのかしら?
訳の分からない説教をしてくる爺より、その助手とか言うイケメンの方が良いんじゃない?
だから、この人が教えてくれるなら、って希望したらすんなり通った。
最初っからこの人を連れてくれば、なんの問題も起こらなかったのに、あんた達の怠慢のせいで、無駄な時間を過ごしたわ!
遊びに行けないのは不満だったけど、イケメンが私に付きっきりで指導とか、美味しいシチュエーションじゃない?
これを知った攻略対象が嫉妬して、私を取り合うんじゃない?
そう考えたら、魔法の訓練も悪くないわね!
夏休みが丸々潰れたのは不満だけど、イケメンとの一夏って中々エッチな響きよね!
新学期になって、新入生歓迎会。
またゴールに向かってまっすぐ行ったら、なんと、王子様登場!
ここで会えるとは思わなくて、凄くビックリしたけど、とびっきり可愛い顔で挨拶してあげた、のに、この王子様ってツンデレなの?今時古くない?追い返されてしまって不貞腐れてたら、1年の時にそこそこ仲良くしてた男子が寄ってきて、慰めてくれた。
そうよね、私ってばヒロインなんだから、大切にされるべきよね!
一生懸命私の気を引こうとする男子に、たまにはご褒美をあげなくちゃって、誘われるままに街へ出てラブホ?的なホテルで仲良くしてあげた。
それからは、徐々にイケメンが私の周りに集まり出して、私の気を引こうと、次々にプレゼントしてきたり、デートに誘ってきたり。
たまに婚約者だって言う女が文句を言ってきたけど、本命じゃないからその内返してやるのに、いちいちうるさかった。
イケメンは友達もイケメンなのか、どんどんイケメンのランクが上がっていって、中には目を付けていた攻略対象も交じってきた!
そうそうこれこれ!
イケメンに囲まれて愛されるヒロイン誕生!
でもまだ足りない。
王子のクラップとか、侯爵家のライオットやエンデだって攻略対象のはず!
それが揃ってこそのヒロイン!
なぜ彼等が来ないのかを考えたら、乙女ゲーム定番の、悪役令嬢が居ないからよ!
王子の婚約者の高位貴族の意地悪令嬢。
その辺のモブイケメンに聞いてみたら、この学園で1番身分の高い令嬢は、レイチェルって令嬢だと判明。
分かったからには即行動!
レイチェルって令嬢には恨みは無いけど、世界が私をヒロインと決めたんだから、仕方がないのよ!
すれ違う時にわざと転ける。
物を盗まれたと騒ぐ。
待ち伏せして近くの池に落ちてみる。
そんなことを繰り返せば、周りのイケメンは私を庇って、レイチェルを批難する。
そしてどんどんイケメンが集まってきて、とうとうライオットやエンデも私の周りに加わった!
王子のクラップだけは、未だに近寄ってこないけど、もうほとんどのイケメンを制覇したと言って良い!
ああ私ヒロインしてる!
もうすぐクラップが卒業してしまうのに、中々攻略出来なくてイライラして授業をサボってふらついてたら、バッタリとクラップに会った。
他に邪魔する生徒は居ないし、これってチャンスじゃない?
クラップが行ってしまう前に、急いで抱き付いてキスをしてやった!
たったそれだけの事で、クラップは私の虜になった!
そうよね!私がヒロインだもの!
クラップは王子のクセに、凄く奥手だったのかも!
だから私が背中を押してあげなきゃ!
すぐにでもレイチェルとの婚約を破棄させて、私をお姫様にしてくれなきゃ!
提案したら素直に頷いたクラップは、そのまま食堂へ。
卒業パーティーじゃないのはちょっと不満だけど、ここでもまあ良いわ!
大勢の生徒が見守る中、クラップは大声でレイチェルに婚約破棄を言い渡した!
あああ!これで私はお姫様!
乙女ゲームのヒロインって、なんて気分が良いのかしら!
私は幸せの絶頂に居た。
その時、誰かに肩を叩かれて、振り向くと赤い眼鏡が見えて、腕を掴まれ、凄い衝撃を受けた。
なに、なに?と慌てている内に縛りあげられ、床に転がされた。
訳も分からず混乱していると複数の兵士に取り抑えられ、お城の牢屋に入れられた。
なぜ、なぜ?私は幸せの絶頂に居たのに、一瞬で奪われた!
誰のせい?誰が悪いの?どうして私が、ヒロインである私がこんな目に遭うの?!
許さない、私をこんな目に遭わせた奴を許さない!許さない!許さない!許さない!
呪詛のように許さないと呟き続け、代わる代わる誰かが来ても、呪い続けた。
数日後、汚い牢屋で、粗末な食事しか与えられず、お風呂にも入れない汚れた状態にイライラが溜まりに溜まっていた私の前に、クラップが来た。
やっと私を助けに来たんだと思った。
それなのに、クラップの隣には綺麗なピカピカのドレスを着た、見覚えのある女が、こっちを憐れんだような目で見下してきた!
許さない!許さない!許さない!許さない!
体中から呪詛が吹き出すような、目の眩む怒りだった。
何を言ったか覚えてないけど、この呪詛だけで人を殺せると思った。
だけど魔法は使えなくて、叫び声も続かなかった。
ゼイゼイと自分の呼吸音だけが響く牢屋に、静かな声がした。
「魔法で人の心を操って、自分のそばにはべらせて、本当に気持ち良かった?この国は、一夫一妻制なのに、そんなに沢山の男子に囲まれて、これからどうするつもりだったの?結婚するまでは肉体関係を持たないのが常識の国で、何人の男子と関係を持ったの?」
「なによなによなによ!何が悪いのよ?!」
一夫一妻制なんて知らないわよ!
どうせ王族ならば、沢山のお妃をはべらせてるんでしょ?!
「この世界に、生まれて育った記憶があるでしょう?それでなんで、前世の常識のまま通用すると思ったの?転生って、生まれ変わることでしょう?ゲームと違って、リセットボタンは無いんだから、失敗したら、それで人生終わりなのに」
こいつは何を言ってるんだろう?まさか!
「ウソ!あんたも転生者?!だからうまくいかなかったの?でもだって!この世界は乙女ゲームの世界じゃない!私がヒロインじゃない!!」
「違うよ。ここは乙女ゲーム、に、似てるだけの別の世界。誰もあんたのためになんか生きてない」
「………似てるだけ…………ヒロインじゃない?ウソよ!ウソウソ!ウソ?………………あぁ、あああ、あああああーーーーー」
嫌な事を言われて、耳を塞ぎたいのに、スルッと入ってきた言葉は、私を何よりも打ちのめした。
何で乙女ゲームじゃないなんて言うの?私がヒロインじゃない!私がヒロインじゃないなら、誰がヒロインなのよ!乙女ゲームじゃないなら、ヒロインは居ないってこと?
違う!私がヒロインよ!
◆◆◆◆◆◆◆
心がバラバラになるような痛みを感じて気を失ったんだと思う。
あの後気付いたらこの部屋に閉じ込められていた。
高い窓からの光で、昼間か夜かを知ることが出来るだけの窓。
真っ白の空間で、ただ時間が過ぎていくのを待っているだけ。
変化は1日に2度の食事と、たまに観察に来る嫌な目付きの、男か女かわからないローブを着た奴等だけ。
自分が未だ気が触れていないのが不思議な程、ここには何一つ無い。
これから私はどうなるのだろう?
いつか、ここから出される日は来るだろうか?
そしたら私は何をしよう?
乙女ゲームと思っていた世界は、全然別の世界らしい。
結局は、乙女ゲームの世界で自分がヒロインであると思い込んで、実際に目も眩むようなイケメンが居て、浮かれていただけで、全く現実が見えていなかった。
全ては自業自得。そう言われたっけ。
ならば、1からこの世界を知らなくては、ずっとヒロインだと思ってたから、何もしなくても強制力とかで、良いようになると思ってた。
逆ざまぁなんて話もあったくらいだから、正に今の私がそれなのかも。
いつかここから出られたら、この世界を知って、旅とかしてみても良いかも。
見たこと無い、前世と違うものを見てみたい。
いつかここから出られたら。
いつかここから出られたら。
はい、以上で終了です!読んで下さってありがとうございました!
ピンク女が、今後施設から出られるかどうかは未定です!
ただ、何時までも頭お花畑のままじゃ居られないよね!って話でした。