おしろい花③
「実は義母上のご様子がおかしい、何か知らないかと父上から聞かれているのだ…」
「えっ…」
「この間の満月の次の日から、だ。そして3日前から特におかしいらしい」
ナオミは苦悩した。母が封印してきた望郷がナオミの一言で溢れだしたからだ。
「ナオミ…これは義母上ご自身が解決しなければならない。お前は結婚式の準備に全力を注がなければならないよ」
王子は優しくナオミを諭した。ナオミは優しい王子の言葉に涙が出た。
かげろうのような世界が出現し、故郷日本が現れたことを王妃が知り、里心がついたのだろう…と王子から聞いた王はこれまた渋い顔をした。
ある夜、王と王妃二人の時…
「リナ…」
「はい」
「私達が初めて会った時のことを覚えているか?」
「はい?どうされたんですか?急に…」
「いや、ふと思い出してね…。あなたに初めて会った時…私はあなたに恋をした。でもあなたは兄上の方を向いていた…」
「トマス…」
「母は違えども兄上と私は仲が良くて…兄上なら仕方ないと一度は諦めた。兄上のように妃を離縁してでも…と思ったよ」
「マーシュの母がなくなって…また正室を持たねばならない時に兄上が急死された…」
「兄上が私にあなたを託されたように思ったのだ。勝手な話だが」
「私は…あなたのお気持ちに気付いていました。でも…あのときは…」
「うん、わかっているよ…」
王は優しく王妃の肩を抱いた。
「トマス…」
包み込むような優しさに王妃は胸がきゅっと締め付けられ、王に寄り添った。
「私はあなたに愛され、あなたと夫婦になれて良かったと思っています」
王は意を決して言った。
「日本に帰りたいか?」
王妃は目を見開いた。そしてナオミからお聞きになったのだと理解した。
「私は…父と母に会いたいと思っています。帰りたい気持ちもあります。でも帰りたくない気持ちもあります」
「私はそなたを失いたくないのだ…」
王は王妃を抱き締めた。




