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活力の夏

 気づいたら、8月ももう半ばくらいだねえ。

 お盆を迎えたら、もう一年が残り4か月ほどしかない、なんて毎年信じられないなあ。

 僕たちが新学期といったら4月はじまりに慣れているせいかもね。4月からならまだ一年の三分の一しか過ぎていないのだから、節目を意識するのには時期尚早な感もあるかもしれない。

 しかし、一年でもっとも暑さを意識するだろう時季。ここを過ぎれば、気候的にも気持ち的にもしんみり冷えていく。人もそのほかも、一年のうちでアクションを起こすなら、絶好のタイミングといえるんじゃないかな?

 暑さに背中を押された、魔法じみた現象。僕たちもそれに対応していく備えは、しておいたほうがいいかもしれないね。

 ちょっと前に父さんから聞いた話なんだけど、耳に入れてみないかい?


 昔から日に焼けやすいお父さんは、日焼け止めのお世話になっていたそうだ。

 当時、住んでいた家の近くにあるドラッグストア――ちょうどお父さんが子供のころは、お店が本格的に広がり出していた頃合いだった――で、専用の日焼け止めを買っていたらしい。

 過去、何種類も試したところ「A」という日焼け止め以外、さしたる効果を示さなかったみたいだ。少なくとも、お父さんの肌はね。

 Aは人気がないのか、あるいは逆に人気のためにストックがあって、常に数を用意しているためか。店に出向けば確実に置いてあり、購入には困らなかった。

 お父さんのまわりで、日焼け止めといったらクリーム状だったが、Aはすっきり霧吹きタイプ。虫よけスプレーに近いいで立ちだったけど、顔に使う際には一度手に出して、ちょっとずつなじませるよう注意があったとか。

 実際、手で薄く伸ばしたあとに顔へなじませていくと、かすかにピリピリと刺激を感じたって話していたよ。

 ややもすれば、こんがり焼けてしまうお父さんにとって、Aは心強い味方だった。けれども、それ以上にAはすごい効果を持っているんじゃないか……と感じてしまうできごとに出くわすときがきたらしい。


 夏休みなかばを迎えたその日。

 ふとんで目覚めたお父さんは、窓から差し込む朝日を「青い」と思ったそうなんだ。

 白、黄、赤、などといった陽からイメージされる彩りとはほど遠い、涼しげなカラー。それも目を覚ました直後の数秒程度で、その先は見えなくなってしまったらしいのだけどね。

 それだけでも首をかしげたお父さんだけど、洗面所へ向かって、またおかしなことに出くわした。

 日焼け止めが切れている。買ってから少し経つが、昨日の時点でまだまだ容量はあったはずだ。朝、使ったときに確かめたきりで、ここに置きっぱなしだったから、ほかの誰かが使ったという線もなくはない。だが、もしそうならなぜ今回に限って?

 腑に落ちないまま顔を洗い、ドラッグストアの営業開始時間になったら、すぐ外へ繰り出す予定だったという父。それでもいちおう、朝ご飯を用意してくれた祖母に、日焼け止め使用の犯人がいるのではないかと、探りを入れてみた。

 案の定、覚えがないと返されるものの、その異様な減り方や、起きた際の青い日差しに関しては祖母も気にかかったらしく。買い物へ行くときには、日傘なり帽子なり長袖なりで日差しを防ぐことをすすめられる。

 念のため、ほかの家族が使っている日焼け止めの容器を改めると、やはりいずれも空っぽだった。


「浴びせたがっているねえ」


 祖母はそうぼやいて、自分もまたドラッグストアへ向かうことにしたみたい。日傘、帽子、長袖の完全装備を整えてね。

 父は、日傘に頼るのは女々しいということで、帽子と長袖のみ。移動時間も加味して、開店ちょうどに合わせたタイミングで家を出たんだ。


 計算通りに入店、即買い物を済ませて帰ってきた二人。所要時間はおおよそ15分ほどだったろう。

 それでも、二人して洗面所の鏡をのぞいてみると顔が全体的に赤みがかる日焼けをしてていたというんだ。ただの日焼けでもなさそうだったのは、この焼けた部分のそこかしこに、青みを帯びたまだら模様がのぞいていることだった。

 シミ、ほくろのたぐいとは思えない。こちらがじっと見ているだけでも、模様は皮膚の下でおのずからモゾモゾと動く様子を見せたからだ。


 そこからは父と祖母、二人して大々的なお肌の手入れだった。

 洗顔料、化粧水、乳液、クリーム……祖母が日ごろ使っているらしきものを、父もはじめて使うことになる。主に、その動いて回る模様に対して用いた。

 そして父が買ってきたA。未開封にもかかわらず、いざ使おうとしたとき、容器越しに明かりにかざすと、瓶の中身の三分の一がなくなっていた。

「やはり、そいつがこいつらの嫌がるもんらしい」と、祖母はそれを例のまだらの上へたっぷり吹きかけるように指示を出す。

 すると、先の化粧類たちと混じるようにして、青く汚れた水がダラダラと二人の皮膚からあふれ出た。

 こぼれては流し、こぼれては流しを繰り返し、元の肌の色に戻るときにはAがほとんど底をついている有様だったとか。


 夏は誰しもよく動く。

 今回のケースもまた、そのひとつにすぎないだろうと祖母は語った。

 お父さんはそれからもAを使い続けたらしいけど、最近は販売が禁止されてしまったらしくって、他のものを使っているけれども、やはり効果は及ぶべくもないらしいとか。

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