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ある意味最強のヒロインです

「元気になったようだね。」


 思わずマッチャさんを突き飛ばし、元気になった僕の身体の一部分を隠す。気付かれ無かったかな、気付かれ無かったよな。


 声の先には憐れみの目線を向ける公爵様の姿があった。見られた、見られたかな。


「フフフ。見た・・・誰よ。この醜い顔はっ!」


 僕は咄嗟にマジックボックスから鏡を取り出す。クロノワール様が時折見せるブリブリの仮面の上に幼い男の子が羽虫を見つけたときのような顔だったはず。気持ち悪いんだなコレが。


「なんだボクちんじゃない。ボクちん・・・こんな顔を・・・。」


 ちょっとショックだったかな。元が物凄く良いのに残念系美少女だと思うのはこういうところなんだよな。


「くれるの? ありがとう。初めてのプレゼントだね。」


 あっあれぇ・・・プレゼントだと思われた?


 確かにこの為だけに購入したから、装飾も良くそれなりの値段をするものだったけど。


 ポジティブシンキングにもほどがあるでしょうと思ったら、隅っこのほうに行ってブツブツ言っている。


 これなら見込みがあるかな。


「私にも欲しいな。ご褒美に犯らせてくれるのかと思ったら違うし、他のモノでいいからご褒美をくれ。」


 相変わらず、外面は下品なマッチャさんだな。でも助けて貰ったのは確かだし。


「じゃあ。シロさんと3人でデートに行きましょう。」


 シロさんと2人でデートだとどんな状況になるか大体想像が出来てしまう。でもマッチャさんがいれば、それなりに楽しいものになるかもしれない。


「ボクちんも。ボクちんも。」


 さっき隅っこに居なかったかクロノワール様。もう復活して来たらしい。速っ。















「誰も 居ない 」


「誰も居ない。」


「つまんな~いっ!」


 裏後宮の翌日の担当だった僕は、シロさん、マッチャさん、クロノワール様を連れて、いつも屋台が沢山並んでいる市場の周辺に来ている。


 誰も居ないのには訳がある。シロさんが出てきているから、戒厳令が敷かれているためだ。


 それでも屋台だけは並んでいる。


 お庭番には屋台を曳くことを表の家業するものが多いため、屋台の鉄板の上には、ホットケーキから串焼き、お好み焼きやたこ焼き、鯛焼きにホットドッグといろんな食べ物が出来上がった状態で置いてある。


 つまり、僕たちが近付くとお庭番たちは退避しているのだ。屋台の食べ物が欲しければ代金を置いて買えばいいことになっている。


 誰も欲しいって言ってくれない。デートの醍醐味と言えば買い食いなのにどうして?


「どうしたの? 遠慮しなくてもいいんだよ。」


「だって! あれもこれも勇者アレクサンドラが裏後宮で良く作ってくれたものばかりなんだもの。」


 何してくれてんの?


 アレクサンドラ様っ。


 実は僕も作れたりする。皇族は皆さん作れるんじゃないかな。代々アレクサンドラ様の味を守り続けてきているから。


「あっ。あそこに人がいます。いか焼きですよ。いか焼きどうですか・・・何で公爵様が焼いているんですか?」


 いか焼きの屋台を曳いていたのは公爵様だった。しかも、ネジリハチマキに作業ツナギに腹巻きまでしている。


 いか焼きと言っても、『いか』という動物を焼いたものじゃない。帝国の砂漠に生えている草を焼いたものだ。これもアレクサンドラ様のレシピにある醤油というものに浸して焼くだけである。


 食感が似ているということだったが誰も元の食べ物を知らないというからほとんどレシピ通りに作られる。屋台の中でも一番簡単な部類だ。


「私はコレしか焼けないんだよ。」


 そう言いながら醤油の付いた手を作業ツナギで拭っている。


「えっ。皇宮の庭で開かれるアレクサンドラ誕生祭では、皇族の皆様方が競うように毎年趣向を凝らした屋台を曳いているじゃないですか。」


 公爵家のみならず皇族の血筋なら誰でも参加できるお祭りだ。皇帝も皇太子も王女も参加するため、諜報部でも当然のように警護に駆り出されるという。


 僕も毎年参加しているから、公爵家の屋台は見たことが無かった。


 それに諜報部には屋台手当あり最低限ホットケーキとたこ焼きを焼いて合格点を貰わないと最低ランクの給与しか貰えないはずだ。僕は資格があるようなポピュラーなものなら全て焼けたから、屋台手当は最高金額を頂いている。


「襲爵した年以降、結婚する前までは辞退していたな。今はリオーナが頑張っているよ。怖がって誰も近寄ってきてくれないから散々な結果に終わるし、当日は警備の指揮で大わらわだから無理なんだよ。」


「この子は皇族のなかでも一番と言っていいくらい不器用でね。本当にいか焼きしか焼けないんだよ。ほら焦がすなっていっているでしょ。」


 今度はいつもの姿の幻惑王がその隣でキャラクターカステラを売っていた。公爵様と比べると物凄く手際がいい。真っ白なワンピース姿だというのに一点の汚れも無い。公爵様とは大違いだった。


「これはなんていうキャラクターなんですか?」


 形はデフォルメされているがネコのようだ。但し耳が無いのだ。


「それは聞いてはいけないことになっている。」


「これもですか。」


 屋台にはキャラクターを焼き付けられる焼き印もあるのだが、そのキャラクターの名前は誰も知らない。アレクサンドラ様が教えなかったらしい。


「コレください。」


 1人の女の子がキャラクターカステラの袋を指し示す。袋にはデフォルメされたメスと思われるネコのキャラクターが描かれている。こちらのネコは耳がある。


「「「「えっ。」」」」


 ええっ。この子、戒厳令のことを知らないのか?


 今は僕と一緒だから死の恐怖は漂っていないが少しでも刺激を与えると家の中にいても足はガクガク、歯はガチガチと鳴らすはめになる。


「あっ『モトラくん』」


 この声には覚えがある。父方の従姉妹の・・・誰だっけ?


 母方の従兄弟や又従兄弟たちはポルテ商店の仲間だから頻繁に会う機会があるのだが、父は養子として入っているから父方の従兄弟たちは疎遠になっている。


「貴方のミユミユよ。」


 そうそうミーシャ・ユーストリングスさんだ。ミーシャという名前も可愛いと思うのだが、この国の女の子の名前で1番ポピュラーなので気に入らないらしくミユミユと自称している。


 容姿は中の中と言ったところなのだが、長いつけまつげと下から見上げる癖で一時期凄いモテ期があった所為で自分を美少女だと勘違いしているらしい。


 ちなみに僕よりも僅かに背が高いので彼女の得意技のブリブリの下から見上げる技は効かない。


 それなのに勝手に僕の許嫁を自称している女の子だ。どうも彼女の知り合いのなかで一番の出世頭らしいのだ。何度止めてくれと言っても照れているだけなんだと聞いてくれないのだ。


「モトラくん、また出世したんだって? 皇太子殿下の護衛なんて凄いじゃないの。」


 僕が出世したりするとどこかで聞きつけてやってくる。普通ならば嬉しいのかもしれないが媚び媚びの目線で言われても気持ち悪いだけだ。


 なるほど、コレを見ているからクロノワール様も気持ち悪くなるのか。


「ええ、こちらにいらっしゃるのが上司のキャラバン公爵様です。」


 僕は、どこから見ても屋台を曳いているオッサンにしか見えない公爵様を紹介する。


「・・・・・いやだ。冗談は止めてよ。」


 いつもなら貴族の情報には飛びついてくる彼女だったが、目を細めてしばらく考え込み違うと判断したようだ。


 まあこの姿の公爵様を見ても素直に頭が下がるんだったら、尊敬できるんだけどなあ。


「そちらの鎖で繋がっている女の人たちは何?」


「僕の大切な恋人のシロさんと友達のマッチャさんとクロさんだ。」


「モトラくん。もう浮気? まあ男は甲斐性だからね。私はミユミユ。モトラくんの許嫁よ。」


 そう言って得意技のブリブリの上目遣い攻撃を繰り出す。この攻撃は女の子受けは物凄く悪いのだが本人は気付いていない。


「いい なずけ   」


 ヤバイ。一瞬にして周囲に死の恐怖が立ち込める。


「シロさんっ!」


 僕はシロさんの手を握り締め、キスをすると霧散した。


 それでも周囲は甚大な被害を出していた。お庭番が隠れていたと思われるところから、呻き声が聞こえるし、公爵様も幻惑王も屋台に捕まってしゃがみこんでいる。


 クロノワール様は周囲に黒い霧を発生させているし、マッチャさんの下半身と腕は壊死しかかっているようだった。


「えっ。みんないったいどうしたの? そんなに私、可愛かった?」


 そこに1人平然と立っている人間がいた。ミーシャだ。


 鈍感だ鈍感だと思っていたがまさか死の恐怖まで感じないほど鈍感だったなんて。

最強のヒロイン登場。

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