花城胡華1
「姫様!華姫様!お待ちくだい!」
「嫌です!華は遊びたいのです!」
ここは、とある王国に属する花城家の城内。花城家は、代々この竜田の国を治めてきた。
「華姫様!お戻り下さい!」
華姫とは、その花城家の次女、胡華の事である。まだ6歳と幼い胡華は、基本何でも上手くこなせるが姉の瀬奈や母の由良と違って奥御殿に閉じ籠っているのではなく、城内を探検するのが好きなのである。むろん、侍女に追い掛け回されるはめになるのだが…
「華姫様ー!」
花城家の現当主は小花の父、花城真幸である。真幸は若い頃に侍女として勤めていた由良に惚れ、真斗、真則、瀬奈、真哉、胡華、星、そして真希と言う7人もの子宝に恵まれた。真幸も由良も美男美女であった為、皆整った顔立ちをしている。中でも胡華は6歳にして誰もが振り返る程の美少女で、頭が良い。なのだが…
「華姫様!どこでございます!?」
「こっちですよー!あははっ」
悪知恵もよく働くのである。
◇︎
もう居ないかな、と辺りを見回し、胡華は登っていた木から降りてきた。さっきまで胡華を追い掛けていた侍女の栄は勘違いしたのか、全くの逆方向へ行ってしまっていた。
「あっ小鳥さん!」
手を伸ばすと、その鳥は胡華の手のひらに乗っかってきた。
「へへっ可愛いなぁ」
鳥の頭を優しく撫でてから、空へ放つ。
今日は、ちょっと城下町にお散歩にでも行っちゃおうかな、でも父上に叱られちゃう、そんな事を考えながら城内を巡っていった。
胡華は暇なのだ。貝合わせや琴を演奏する事は好きなのだが、それを一日中奥御殿に閉じこもってやるのは嫌なのである。それなら、と始めた城内探検にハマり、今では毎日それを行っている。
「あっ華姫様!」
「ひぃぃ!」
大庭園の辺りで、運悪く栄に見つかってしまった。しょうがない、ここは城外へ一時避難してしまおう。
「華姫様ーー!って何やってるんですか!?」
「また、後で!晩ご飯には戻ってきますと母上に伝えといて下さい!」
そう言って、胡華は庭の柵を飛び越えた。
「華姫様!?!?お戻り下さい!」
そう言った栄の声は聞こえなかったふりをし、城の裏の方へと走り出す。後ろを見ると、栄が柵を越えようとしていた。早く逃げなくては!
「あっ」
「きゃっ」
城の裏方へと繋がる道を曲がった時、誰かにぶつかってしまった。変なの。こんな所には普通誰もいないのに…
「すみません、大丈夫ですか?」
そう言って見上げると、顔立の整った凛々しい少年が立っていた。
「大丈夫です。そちらこそ、怪我はありませんか?」
「大丈夫です…」
胡華の返事と重なるようにして、栄が柵を乗り越え地面に足を着く音がした。
「わっ!ちょっちょっと来てっ!」
「えっ!?」
困惑するその少年の腕を引っ張りながら、胡華は近くの茂みに隠れた。
◇︎
しばらく茂みに隠れ、栄が諦めて去っていったのを見送ってから胡華は巻き添いにしてしまった少年に謝った。
「全然大丈夫ですよ。ところで、貴方は確か、真幸殿の姫君の…」
「胡華です。貴方は…?」
ついでに、彼の名前も聞いておく。
「飛山藍人です。先程は大変なご無礼を…」
「全然大丈夫ですけど…って飛山!?あっもしかして飛山藍機殿のご嫡男ですか?」
「いえ、私は次男です。兄がおりますゆえ。」
飛山家は、家老を花城家が竜田の国を任されてから代々勤めてきた名門家だ。藍人の父、藍機とは小花も何度か対談した事がある。
そんな飛山家と花城家は固い絆で結ばれていて、これまでも幾度か嫁を出したり貰ったりしている。
「あ…では私は父上の元へ戻らなければいけないので。」
「はい、引き留めてしまってすみませんでした。」
「いえ、大丈夫ですよ。では。」
もう少し話してみたかったな、なんて思っていた。
◇︎
「華!何処へ行ってたの!?父上が呼んでるわ!」
奥御殿に帰るなり、胡華は姉の瀬奈に腕を引っ張られ、父の真幸の所へ連れてかれた。
「父上。華を連れて参りました。」
「おぉそうか、華、こっちへ来い。」
どうしたのだろう?真幸は満面の笑みで胡華を手招きしている。一方の瀬奈は、少しソワソワしている様子だ。
「華、実は今日、淡谷の国の松山憲平殿にお会いしたのだよ。そして対談の結果、瀬奈を憲平殿のご嫡男、定平殿へ嫁に出すことにした。」
「誠ですか!!!」
「あぁそうだ。めでたいめでたい!祝言は高峰寺で三ヶ月後に行う事になったぞ!」」
「姉上、おめでとうございます!」
「ありがとう、華。」
「いや〜めでたいめでたい!」
真幸は前々から手を結んでおきたかった松山家とこの話に成功して満更でも無い様子である。胡華は、やっと嫁ぎ先が決まって嬉しそうな瀬奈に向かって微笑む。
祝言まで、あと三ヶ月。藍人殿には会えるかな…?胡華は少しワクワクしていた。




