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砂漠の月  作者: ちあき
第六章 放たれたカナリア
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夜明け

信者が慌てて部屋に駆け込んできた時には、セオは既に起き大体の事態を察していた。

部屋を出ると右往左往する人を掻き分けバンビとハイトラの部屋へと向かった。


「おい、起きているか」

「セオ!!」


騒ぎに気付いた二人も既に着替え終わっていた。


「セオ、この騒ぎって…」

「新都軍が森に入ったようだ。夜明けと共に現れるぞ」

「そんな…じゃあルナハクトは!?」

「分からん」


セオは手を伸ばすとバンビが首からかけていた結晶石を取った。


「あ…」

「リョウも今頃叩き起こされているはずだ。演説を終えたらあいつを迎えに行ってやれ」

「セオは!?セオはどうするつもりなの!?」

「俺は別の場所でリョウを見届ける。御丁寧にも席を設けてくれるそうだ」


セオのご機嫌を取りながらも見張りの囲いからは一歩も出す気は無いということだろう。

セオはまだ何か言いたげなバンビの頬に軽く触れた。


「…リョウを頼む」


バンビはぐっと胸が詰まると俯いた。

セオは片膝をつくと真っ直ぐハイトラを見つめた。


「ハイトラ、リョウとバンビを守ってくれ。それから…約束を守れなくてすまない」

「セオ…」


ハイトラは両手を伸ばすとセオに飛びついた。


「セオ、本当にこれでお別れなのか!?オレ、セオと砂漠に行きたかったんだ!!本当に…楽しみにしてたんだぞ!!」

「すまない」


セオはハイトラを抱きしめ返すとその手を離した。

そして二人に背を向けると足早に部屋を出て行った。


「セオ!!」


バンビは悔しさと悲しさで涙が滲んだ。


「…な、なによ。自分一人で解決した顔しちゃって…!!だ、だいたいねぇ、初めから別れるつもりだったんなら、や、優しくなんてしないでよぉ!!」


いつだって守ろうとしたくせに。

優しく触れて笑いかけたくせに。

温かい体温を残していったくせに。


「ばんび…」


ハイトラはバンビの手を掴んだ。


「ばんび、泣くな」

「うっ、うっ…泣いてないわよぉ!!」

「オレたちが行かないとリョウは一人ぼっちだ。迎えに、行こう?」


バンビはハイトラの手をぎゅっと握り返した。


「…うん、うんそうよね。とにかくリョウを迎えに行かないと」


バンビは涙をごしごし拭うと西の部屋を出た。

セオは指示された通り身廊まで戻った。

そこで大勢の信者に囲まれ、両手に縄をかけられる。

そしてそのまま大聖堂を出るとサンクラシクス軍の集う森の入り口まで歩かされた。


「セオ様はあちらです」


案内されたのは即席で作られた天幕だ。

見張りの壁は厚く、リョウの姿はまだない。

空は少しずつ白み始め、何もかも覆い隠していた闇が薄れ始めた。


「夜明けか…」


セオはぽつりとこぼれ落ちた言葉に俯いた。

願わくば、闇など晴れないで欲しい。

どうしようもない孤独感を押し殺す顔なんて、誰にも見えないようにもう少しだけ隠しておいて欲しかった。






ーーーーーーーーーー





呼び出されたキイラギは眉を吊り上げ激しく大司教に噛み付いていた。


「こいつをこんな状態でまだ皆の前に引っ張りだすつもりか!!」

「仕方がありません。今更シエル様が倒れたなどと皆に言えるわけがありませんからね」


意識のないリョウを抱え上げた大男がセガンの後ろに続いて森へ向かう。

リョウはいつもの黒いレースの服ではなく、戦女神が纏うと言われる折り重なった真っ白な服を着せられていた。

これはその服に一滴の汚れもつけさせないという決意の現れでもある由緒正しき礼装だ。

キイラギは従者の太い腕を掴んだ。


「待てよ!!そいつがどれだけの血を吐いていたかお前も見ただろう!?」


セガンは苛々した様子でキイラギを嗜めた。


「こんな時に騒ぐのはよしなさい。大体、数分間決められたセリフを話すだけだ。その後でならまた血を吐こうとも、倒れようとも構わん。今は何があってもサンクラシクス軍の士気を高めることが最重要なのだ」

「皆の前でこいつがぶっ倒れる方が問題だろうが!!」

「ですから、そうならないように貴方がそばで支えなさい。問題ないでしょう?婚約者殿」

「こいつの意識が戻らなければどうするんだよ!!」

「今のうちに休ませておけば後で少しくらい強引に起こしても大丈夫でしょう。クオリカ、ここへ」


呼ばれたのは蒼白な顔で後ろをついてきたクオリカだ。


「は、はい…」

「後は頼んだぞ。どんな薬を使ってでもシエル様に演説をさせなさい」

「で、ですが…」

「失敗すればお前共々シエルの首が飛ぶだけだ。いいな!!」


セガンは辿り着いた舞台袖の天幕にリョウを放り込むとそのまま連隊長の元へ走り去った。

もう兵達は殆どが出揃いつつある。

見送りの数と合わせると高台を埋め尽くすほどの数だ。

空が明るさを増し慌ただしくも全ての準備が整うと、開戦の儀式は粛々と始まった。

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