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砂漠の月  作者: ちあき
第六章 放たれたカナリア
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衝撃の事実

リョウは朝日に照らされて目を覚ました。

いつ眠ったのかも、今が何日なのかも分からずに飛び起きる。

途端にぎりっと腹が痛んだ。


「うっ…痛ぁ…」


這いながらベッドから出ると、テーブルの上に完成された原稿が置いてあることに気づいた。

それは生真面目な性格を表したようなかっちりとした綺麗な文字で綴られていた。


「あれ…?いったい誰が…」


考えても全く思い当たらない。

リョウはテーブルに置かれた古い本に手を伸ばすと、運ばれてきた朝食も薬も口にしないまま黙々と読み始めた。

あっという間に昼が過ぎ、運ばれた二度目の食事もカラカラに乾いた頃、キイラギが部屋を訪れた。


「また食べなかったのか?」


リョウは本を閉じると伸びをした。


「後で食べるよ。まだ途中なんだ」

「原稿なら仕上げておいただろうが」

「え?じゃあやっぱりこれ書いてくれたのキイラギだったの?」

「俺はお前よりは教会のことを知っている。その原稿には何の不備もないはずだ」

「ありがと。じゃあ大丈夫かな。もし誰かの仕掛けだったらこのまま使うのも危ないと思って」

「…」


リョウは顔を洗うために立ち上がったが、その足取りがあやしい。

普通を装っているが一回り痩せたリョウの顔色は紙のように真っ白だった。


「そういえば見せたいものがあるとか言ってたよね。それって何?」

「そんな体ではここから出ることも出来ないのではないか?」

「外へ出るの?」

「外…といえば外になる。祝福の間からの抜け道だ」

「え?それって棚の上の窓の事?」

「知っているのか?」

「あ…」


これではそこから抜け出していた事がバレバレだ。

リョウは誤魔化すように視線を逸らしたが、キイラギは意外にも不敵に笑った。


「そんなところまで似ているのか」

「へ?」

「リョウ、少しは歩けるのか?」

「えと、ゆっくりなら何とか…」


キイラギは一つ頷くとリョウに手を貸しながら部屋を出た。

だがやはりリョウは途中で何度もしゃがみこんでは腹を押さえていた。


「う…ぅ」

「しっかりしろ、もう少しだ。今朝はちゃんと薬は飲んだのか?」


リョウは答えず脂汗を滲ませている。


「…やはり部屋へ戻るか」

「ま、待って。平気…、まだ、あそこへは戻りたくない…」


リョウは無理矢理立とうとしたが、キイラギは以前と同じようにひょいとリョウを抱え上げた。


「キイラギ…」

「黙ってろ。上までなら運んでやる」


黙々と階段を上がり、祝福の間に入ったところでリョウを下す。

キイラギは扉に鍵をかけてから棚に足を掛け、リョウが抜け出すために使っていた小窓を開いた。


「来い」


リョウを呼び寄せると引っ張り上げる。

そこから外へ身を乗り出すと、キイラギはリョウがいつも渡る塀と反対側を向いた。


「そっちに行っても行き止まりなんじゃ…」

「あそこに開かない窓があっただろう?俺はその鍵を持ってるのさ」


キイラギの言う通り、抜け出した小窓の少し奥には開かない窓があった。

あまり気にも止めていなかったが、キイラギは懐から銀色の鍵を取り出すと簡単にその窓を開いた。


「本当に開いた…」

「この部屋は祝福の間の隣にあるんだが、増築した時の都合なのか扉がない。入れるのはこの窓だけだ」

「へぇ。なんだか秘密の部屋みたい」

「その通りだ」


キイラギに続いて中に入ると、そこは子供部屋のようにおもちゃが沢山転がっていた。


「ここは昔遊んでいて偶然見つけた秘密の隠れ部屋だ。俺とユキネは祈りをサボってはこっそりおもちゃや宝物をここへ運んでいた」


古びた人形を手に取るキイラギは心なしか目元が優しかった。

だがすぐに厳しい顔に戻るとガラクタの中を漁り始めた。


「俺はユキネが腹にいる時から許嫁としてサラの…ユキネの母の近くにいた。もちろんユキネが生まれる時もだ。だから…」


一つの錆びたアルミ缶を取り出すと、リョウを振り返る。


「俺は闇に葬られた事実を知っている」

「事実?」


キイラギは床に座り込むと缶の蓋を開け中を一つずつ出した。

そこにはボロボロに色褪せた写真が何枚も入っていた。


「これは何?」

「サラやユキネをカメラで撮ることは厳禁されていた。だからこれは本当に極秘にプライベートで撮った本物のサラの写真だ」

「え…!?」


リョウは驚いて写真を何枚か手に取った。

そこには髪の長い女の人が写っていた。

本を読んでいるところや無邪気に笑いながらお餅を頬張っているところなど、確かにプライベートな写真ばかりだ。


「あ、これ、もしかしてキイラギ!?」


サラの隣には幼いキイラギも写っている。

不思議な思いで眺めていると、ふとサラのアップが映った写真に目が止まった。


「え…」

「こうして見ると、皆が言う通り確かにお前はサラそっくりだな」


その笑顔は、本当にリョウによく似ていた。

いや、偶然にしては似過ぎている。


「お前がヒガなのだと言うのなら似ていても不思議ではない」

「…それって、どういうこと?」


キイラギはどう言おうかとしばらく考えてから口を開いた。


「サラは昔、一度だけ大病にかかった事がある。ウォーター・シストじゃ手の施し用がなかったが、新都には特効薬が開発されていた。背に腹は変えられんということで、サラは極秘で新都へ連れていかれた」

「新都へ…!?」

「そうだ。その時世話になったのが砂漠から一番近い権力者、つまりヒガ一族だった」

「え!?」

「ヒガは官僚の中でもまだ話が分かる一族だったのだが、これが大きな間違いだった。何をどう間違ったのか、病魔に打ち勝ったサラは代わりに身籠って帰ってきてしまった」


リョウは息を飲んだ。


「そ…それってまさか…」


キイラギは一枚の写真をリョウの前に置いた。


「これがサラの相手だ」

「…」


その写真に写っていたのは微笑みながら肩を寄せ合う二人の男女だ。

一人はサラ。

そしてもう一人は…


「父上…」


それは紛れもなくリョウの父だった。

歳はかなり若いがこの顔を見間違うはずがない。


「新都人の、ましてや官僚一族の子を身篭ったなどとはウォーター・シストでは口が裂けても言えない。サラは帰ってきてからはごく一部の人以外の前には出ず、ひっそりと子を産んだ」

「…」

「生まれてしまえばウワカマスラが増えた事で世間は湧く。そうなれば誰が父親なのかは大した問題ではない。…だがここでまた問題が起きた」


キイラギはもう一枚の写真をリョウのそばに置いた。

そこには生まれたての赤ちゃんが写っていた。

おそらくユキネと、それからもう一人…。


「双子…」

「そうだ。これこそが誰にも知られていない事実。ユキネはウワカマスラでは最も恐れられている黄金と蒼の双子として生まれてきたのだ」


リョウの手はガタガタと震えだした。

ここまでくればキイラギの言いたい事など嫌でも予想がつく。

出自さえはっきりとせず、父の隠し子だったという自分。

誰に何を聞いても、母親のことは一切教えてもらえなかった。

それは、その理由は…。


「お前がヒガを名乗るなら間違いはない。お前は十四年前ユキネと共に生まれた、密かに闇に葬られたはずの破滅の双子の片割れだ」


リョウの中で、何かが音を立てて壊れていく気がした。

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