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砂漠の月  作者: ちあき
第五章 不吉なシエル
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取り引き

セオは人目を偲ぶような暗い一室に案内されていた。

程なくして現れたのは大司教セガン。

二人は小さなテーブルを挟み険しい顔で向かい合った。


「…先程はうちの者が大変失礼なことを致しました」


セオから呼び出されたセガンは固い声で詫びを入れた。

セガンにとってもルテの強行は頭の痛い結果となってしまった。

成功したのならまだしも、これではセオがますます反発の意思を強めるだけだ。

何を言い出すのかと構えていたが、セオは予想外のことを言いだした。


「リョウを今すぐ解放しろ」

「は…?」

「お前の事だ。あいつが今影でなんと言われているのかくらい知っているだろう」

「…」


セガンは渋い顔になった。


「あんな噂…。シエル様をよしとしない者が流したのでしょう。あの方を今すぐ解放する事はできません。シエル様は今や信者たちにとって揺るぎない希望であり太陽でもあります」


どうやらセガンはリョウが裏で何をしていたのかまでは掴めていないようだ。

セオは慎重に言葉を選んだ。


「リョウは隠しているが体調を崩している。これ以上無理を強いれば倒れるぞ」

「何ですと?しかしそのような報告は…」

「リョウに会わせろ。俺が直接話しをする」

「お、お待ちくださいセオ様。流石にそれは…」

「今動かないと手遅れになるぞ」


セガンは強気なセオに内心残念に思っていた。

何とか穏便に付き合っていきたかったが、このままではやはりリョウのように縛りが必要だ。

この際治療目的で寝込んでいる女を匿うべきかと本気で思案していると、セオは冷たい目で腕を組んだ。


「何を企んでいるのかは知らんが、俺が言いたいのはこれは取引だということだ」

「取引?」

「そうだ。お前は出来るだけ周りが納得できるような理由をでっち上げリョウを解放しろ。それからバン…さっき薬を飲んだ女と、その側にいる少年もリョウと共にここから出せ」

「何を馬鹿なことを…」

「代わりに俺が残ると言ってるんだ」


セガンはぴたりと口を閉ざした。

それから目を光らせると穴が空くほどセオを見つめた。


「…それは、貴方がシエル様の穴を埋めてくださるということか」

「あいつのように他人の物真似をするつもりはない」

「誰もが貴方様が本物だと知らしめる必要はあります」

「光って見せればいいんだろ。それ以上を望まないのなら大人しくしていてやるさ」

「…」


セガンは目まぐるしく頭を回転させていた。

これはリョウを持て余しつつある現状を思うと願っても無い申し出だ。

それにもしセオが言うことを聞かないならば、最終的に薬で無駄な思考が働かないようにすればいい。

何せ必要なのはその存在と血なのだ。


「…こちらも多くの命を預かっている身。すぐに要求に応えるわけには参りません。ですが私とてシエル様の身を案じる一人です。いつまでもこのままではいけないとは思っていました」


セガンは深く考え込むふりをすると、懐から小さな手帳を取り出し開いた。


「…次の休日、月に一度の大集会があります。シエル様にはここで演説をして頂く予定ですが、それが終われば体調不良を理由にしばらく前線から退くと皆にお伝えしましょう。後は人知れずここから出て頂ければシエル様はひっそりと解放されます」

「…」

「お気に召しませんか?」


長い睨み合いの末、セオは小さく頷いた。


「…分かった。それでいい」


大司教は詰めていた息を吐くと、笑みを見せた。


「リョウ様には明日会えるように手配しておきます。セオ様も今しばらく西の部屋をお使いください。大集会までにはお連れ様の容態も回復していることでしょう」

「その事だが、部屋をもう一つ用意してくれ。俺はそっちに移る」


今までなら決して通らなかった要求だがセガンは快く引き受けた。

話が終わるとセオはさっさと退室し、用意させた部屋へと向かった。

翌朝。

西の部屋へ戻るとハイトラが飛んできた。


「セオ、遅いぞ!!」


声を潜めてるあたりまだバンビは眠っているようだ。


「ばんびは一体どうしちゃったんだ!?一晩中おかしかったんだぞ」

「悪い」


あのバンビの相手を一晩させたかと思うと流石に申し訳ない。

ベッドを覗くと昨日よりだいぶ安定した呼吸が聞こえてきた。


「ハイトラ、もう少しだけバンビについていてやってくれるか」

「セオは?」

「俺はこれからリョウに会いに行く」

「…本当に、あの嫌な奴と話がついたのか?」

「ああ。次の大集会が終わればリョウは解放される。後はリョウ自身が出る気になれば問題なしだ」

「…」


ハイトラは不思議そうに首を傾げた。

この大聖堂がそんなにあっさりリョウを手放すとは思えない。

だがセオが嘘をつく理由もない。

なんだか腑に落ちなかったが、セオは突っ込んで質問されることを避けるように部屋を出て行ってしまった。

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