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砂漠の月  作者: ちあき
第一章 砂漠の夢
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リョウの本気

結果から言うと、リョウのご馳走大作戦は見事に大失敗した。

今目の前ではせっせと飛び散った汚れを拭くセオがいる。


「セオ…ごめんね…」


しゅんと項垂れたリョウはセオを手伝おうとして高く積んだ皿に手を伸ばした。

少し触れただけで汚れた皿は不安定に揺れる。

セオは勢い良くがなり立てた。


「もういい!!触るな!!お前はこれ以上余計なことをするな!!」


言いながら揺れる皿を数枚取ると流しの中に放り込む。

怒ってはいるがセオの動きは一切の無駄がなく手早かった。

隣で見ていたセリーはふわりとリョウの隣に降りた。


「懐かしいわ。テディがいた頃はしょっちゅう見た光景よ。リョウ、セオはとても手際良くピカピカに戻してくれるから大丈夫よ」


セオは余計不機嫌になると力の限りこびりついた焦げをこすった。


「セオのお父さんは不器用な人だったの?」

「不器用というか、機械いじり以外は本当に何やっても駄目でとても見ていられなかったわ」


てきぱきと片付けをするセオを見ていると、その時から苦労していたのがよく分かる。

リョウはなんだかセオパパに親近感が湧いた。


「地力って扱うの難しいんだなぁ。まさか肉が炭になって破裂するなんて思わなかった」

「そのうち慣れるわよ」


セリーはくるりと宙に舞うとリョウの肩に触れた。


「そうだわ。今夜外へ出てみる?あなたの力、どれだけのものか私が試してあげるわ」

「え、おれコンロ温める以外何か出来るの!?」

「それはまだ分からないけどね」


二人が楽しそうに話していると、セオが眉間に深い深いシワを刻みながら首を振った。


「セリー、いい加減にしろ。そいつは無理やり俺の血を混ぜられたんだ。何が起きても知らんぞ」

「勿論無茶はさせないわ。でもリョウには自分の力をコントロールすることも覚えてもらわないと」


もっともらしく言うセリーを睨みつけると、セオは不貞腐れながら皿を洗い始めた。

リョウはセオがなぜそこまで頑なに反対するのかが分からずに困惑した。


「あのさ、セオ…」

「…」

「あ、それおれも流すよ。手伝わせて」


リョウがあれこれ話しかけてもセオはずっと不機嫌のまま口をきいてくれなかった。

それどころかキッチンが元通り綺麗になると、すぐにまた倉庫部屋に篭ってしまった。

セリーは放っておいていいと言ったが、リョウは諦めきれずにセオを追った。


「セオ…」


ノックをし、呼び掛けても返事はない。


「セオ、聞こえてるんでしょ?ねぇ、そんなに俺がここにいるのは駄目なの?」


中からは何も聞こえない。

リョウは扉におでこをつくと小さく吐息をこぼした。

呼びかけても呼びかけても、返事すらされない。

これは自分を拒否する反応。

リョウにとっては切ないくらいよく知ったものだ。


「ねぇってば…」


さみしい。

セオに本気で拒否されていると思うと、リョウの心は悲しみに痛んだ。

伏せた瞳はゆらゆらと揺れ、両手で守るように体を抱きしめる。

…だが切ない背中が丸まり扉にもたれていたのは、時間にしてたった五分だった。


「もう、我慢できない」


ぐいと顔を上げたリョウは、すたすたとキッチンに戻った。

大きな調理用バサミを取り出すと、足音荒くセオのいる扉へ帰ってきた。


「人が呼んでるんだから、返事くらいするのがマナーだろぉ、がぁ!!」


大きく扉に蹴りを入れると僅かに開いた隙間にハサミの刃先を滑り込ませる。

それを横向きにすると無理やり隙間を大きくした。


「開けろぉおぉ!!!まだ閉じこもるんなら、このまま無理やりこじ開けてぇえぇ、やるよぉ!!」


渾身の力で挑んでいると、がちゃんと鍵が開く音がした。

同時に勢い良く扉が開く。


「お前、なんてことするんだ!!壊す気か!!」


まさかの蛮行に慌てたセオが中から飛び出してきた。

リョウはハサミを床に捨てるとすかさず大きな体にしがみついた。


「だって!!セオ出てこないし!!いつまでも怒ってるし!!喋ってくれないし!!」


これは演技でも何でもないリョウの本気だ。

セオは今にも泣き出しそうなリョウに狼狽した。


「お、怒りもするだろうが。俺は駄目だと言っているのに…」

「だから、どうして駄目なの!?ちゃんと分かるように説明してよ!!それにどうしても、どうしても出て行けって言うなら、おれ最初から助けてなんていらなかった!!だっておれは…!!おれは、これ以上生きていくつもりなんてなかったんだから…」


語尾は聞き取れないくらい小さな声になった。

家を飛び出した時、リョウは死んでもいいと本気で思っていた。

そうじゃなきゃ誰があえて砂漠になどくるものか。

セオはどうすることもできずに固まっていた。

こう泣きつかれてしまっては流石に無碍にもできない。

それに新都で襲われたことを思うと、リョウに余程の事情があるのも間違いはないのだろう。


「…もういい、分かった」

「え…」

「だがどうなっても俺は知らんからな」


投げやりな言葉だったが、リョウの目は大きく開いた。


「じゃあ、一緒にいていいの?」

「…仕方がないからな」

「ほんとうに??」

「…」


セオが僅かに頷くと、リョウはこれ以上にない笑顔に変わった。


「ありがとうセオ!!おれ、やっぱりセオが大好きだ!!」

「懐くなっ」

「セオ、セオおれさぁ…」

「なんだ?」


こてんとセオの胸に頭をつけると、リョウは力ない声を出した。


「はらへったぁ」

「…」


リョウが凶暴化した理由の一因がここへきて判明する。

とりあえずまた暴れ出されても困るので、結局セオは綺麗にしたばかりのキッチンにリョウを引きずりながら戻る羽目になった。

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