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砂漠の月  作者: ちあき
第四章 ウォーター・シスト
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強硬な手段

大聖堂内でも、セオが信者数人に周りを囲まれていた。


「何だお前ら…」

「失礼。貴方はシエル様とご一緒にいらっしゃった方ですね?」

「それがどうした」

「いえ、せっかくですので貴方様もこの大聖堂で少し休まれていかれてはと思いまして」


言葉とは裏腹に男たちの目は鋭い。

気配に敏感なセオはすぐにただの民間人ではないと察した。


「余計な気遣いはいらん。それにあれはシエルではないぞ」

「あれはシエル様です。…シエル様でなくてはならないのです」

「なに?」


背に鋭利な刃先が当てられる。

セオは瞳を剣呑に光らせた。


「何のつもりだ」

「お静かに。貴方が騒げばシエル様がどうなるか分かりませんよ」

「神に仕える信者の割には生臭い脅しをするな」

「こちらへ。決して悪いようには致しません」


セオは出入り口をちらりと見た。

こんな所で剣は抜けない。

それにもしかしたらバンビたちが既に捕らえられている可能性もある。

セオは刃先に突かれる形で、その場から連れ出されるしかなかった。

無理矢理祭壇に上がらされていたリョウは、勿論そのまま帰ることなど許されず裏口から通路へと強制的に出された。

さっきまで場を取り仕切っていた男が同じ通路へ出てくると、リョウは猛烈に抗議した。


「一体どういうつもりなの!?おれはシエルとかじゃないってずっと言ってるのに!!」

「貴方はシエル様です」

「だから違うって!!おれの声聞こえないわけ!?大体本物のシエルをあんたが知ってるなら、おれが人違いだってこと分かってるんでしょ!?」


さっきまでリョウの前に跪いていた男は、その態度を一変させると高圧的な笑みを見せた。


「この際真実などどうでもいいのです。貴方にはただシエル様として、ここにずっと居て頂ければそれで充分です」

「ずっと!?冗談じゃないって!!」

「勿論、冗談などではありません。お連れ様にも既に御了承を得ています」

「えっ…」

「皆様にはただ今別室にてお寛ぎ頂いております。まぁ、この先も快適に過ごして頂けるかどうかはシエル様次第ですが」


リョウはぴたりと騒ぐのをやめると目を吊り上げた。


「セオたちに何かしたの?」

「とんでもない」


男はリョウが黙り込むと信者を二人呼んだ。

その二人に掴まれ三階へと連れて行かれる。

男はリョウを再奥の部屋に入れると信者たちを下がらせた。


「シエル様」

「…違う。おれはそんなんじゃないっ」

「粗雑な言葉も改めてもらいます。貴方も女性ならば己をわたくしと申してください」

「は?」


リョウは一瞬何を言われたのか本気で分からなかった。


「ですから、貴方も女性ならば…」

「いやいやいやいや、また!?おれ男だし!!森の奴らならまだしもそこ間違える!?」

「…なんですと?」

「シエル様って女の子だったの!?ほら、これで完全に人違いだって証明された!!」

「いや、しかし…!!数日前に街へ現れた貴方は確かに大神の花嫁衣装だったはず!!」

「え?おじさんよく知ってるね。確かにそうだよ」

「ではやはり!!」

「違う違う。あっちが間違えたの。どんな目してるのかと思ったらそういうことか」


男は真剣な顔をしたままリョウの服に勢いよく手をかけた。


「ちょっ、何だよ!?」

「嘘ではあるまいか!?」

「本当だってば!!なん…脱がして確かめる気!?やめろってば!!分かった!!自分で脱ぐ!!自分で脱ぐから!!」


リョウは必死で男の手を離れると、しぶしぶ服を脱いだ。

下着一枚になるとふてくされて唇を尖らせる。


「どう?これで分かるだろ?シエルに仕立て上げるにしても無理が出るのは明白だよ」

「…」


男は恐いくらいリョウを凝視している。

肌寒くなってきたリョウはすぐに服を着なおした。


「早くおれたちを解放してよ。外で余計なことは言わないからさ」

「…今更、今更引けはせぬ」

「どうして!?」

「オリーブ様とシエル様を失ってからの十一年間、我々は死人のように生きてきた。貴方はもはや三百万人の希望です。このウォーター・シストには貴方を心待ちにしている人々が大勢いるのですよ」

「さんっ…」


あまりの数字にリョウは目の前がちかちかした。

男は唸るようにリョウを睨んでいたが、やがて大きなため息を吐いた。


「…仕方ありません」


やっと諦めてくれるとほっとしたが、男は大仰に決意を新ためるとリョウの肩に手を乗せた。


「とりあえずその体でも一、二年は何とか誤魔化しは効くでしょう。今は生き返った皆を再びどん底へ落とすことは出来ません。心配せずともいずれは貴方を解放します」

「こ、困るよ!!今すぐ解放してよ!!」

「それは出来ません。貴方にはどんなことをしてでもここに留まって頂きます」


リョウは警戒して後ずさった。

男は不気味ににやりと笑った。


「そう怯えずとも貴方には何もしませんよ。ですが…」

「みんなに何をする気だよ」

「血の巡りが良くてよろしい。なに、貴方が大人しくしてさえいてくれれば無事に生きていられますよ」


リョウの顔色がさっと変わった。


「どうして…どうしてそこまでして…」


リョウにはこの事態が全く理解できなかった。

ただ、やはりここではい分かりましたと頷くことはどうしても出来ない。


「突然で貴方様も戸惑いは大きいでしょう。しばらくゆっくりとお考え頂き、後日また改めて貴方の御心をお伺いしましょう。…では、失礼します」


男は余裕たっぷりに言うと厳重に鍵を閉めて出て行った。

一人になったリョウはよろよろとベッドに腰掛けると頭を抱えた。


「セオ…」


バンビ、ハイトラ。

みんな無事なのだろうか。


「どうしよう。おれのせいで…」


苦悩にくしゃりと髪を掴んだが、胸にお前のせいじゃないだろと言ってくれたセオの声が鮮明に蘇る。

リョウは益々泣きそうになった。


「考えなきゃ…。何か出来る方法を…!」


バンビは言っていた。

ここの人たちはウワカマスラを生き神として崇拝していると。

となるとシエルとオリーブもセオと同じウワカマスラだったのは間違いない。

ただ、十一年前に謎の失踪を遂げたということと、セオが最後のウワカマスラだということを考えると、この二人が生きている可能性は低い。

恐らくさっきの男だってそんなこと分かっているはずだ。


「…あいつらは別にシエルにこだわっているわけじゃない。本当に欲しいのは皆の慰めとなるウワカマスラなんだ」


だから姿形が似ているだけでろくにこっちの素性も確かめず、どんな事をしてでも押し留めようとしている。

それが皆の大いなる救いとやらになると本気で信じているのだろう。

じゃあもし、セオが本物だと気付かれたら…?

今度は躊躇いなくどんな手を使ってでもセオを手に入れようとするはずだ。

やはりここは何としてもセオを先に解放させるべきだ。

だけど…。


「嫌だ…嫌だ嫌だ。こんな所に一人でなんて残りたくないよ!!」


リョウはふらふらと窓辺に寄ると遠くまで見える町並みを見下ろした。


「セオ、バンビちゃん、ハイトラ…。おれ、どうしたら…」


窓に額をつき頭を冷やそうとしても、結局リョウは考えをまとめることなど出来なかった。

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