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砂漠の月  作者: ちあき
第四章 ウォーター・シスト
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八官僚の緊急会議

八官僚の緊急会議。

それは新都のど真ん中に位置する、アロウ一族所有の超高級ホテルの最上階で極秘に行われることが多い。

メディアに通達されないことは勿論、要人たちも決して不自然ではない数の護衛を連れて裏口を通される。

完全閉鎖されたホテルは、客の代わりにびっしりと警備兵が配置されていた。

そんな中、ホテルの一室に早めの時間から忍び込んでいたクルハとコタローは時間が来るまでじっと息を潜めていた。


「そろそろ繋がるかな」


クルハは見慣れぬタブレットを取り出すと電源を入れた。

コタローは次々と起動していくソフトを見ながら危うく大声を上げそうになった。


「おまっ…これってもしかして!!」

「おー、相変わらず鮮やかだわ。ばっちりセキュリティカメラに侵入してる」

「やっぱりハッキングソフトだな!?こんなもの一体どうやって…!?」

「うるさいなぁ。騒ぐなら帰ってよね」


画面には重々しい豪奢な円卓と、錚々たる顔触れが映し出されていた。

クルハは解像度を上げながら胡座をかいた。


「うわぁ、いつ見ても怖い眺め。ザ・ワルの会議」

「ふざけてねぇで音拾えよ。ん?トイ一族は別の奴が参加してるな」

「あれは娘のエナだな。まぁ、うちもバルゴだし、急な収集だったからしょうがねえんじゃねーの?」


クルハはのんびりと音声を調節した。

こっちは会議の部屋にあらかじめ仕込んでおいた盗聴器だ。


「さて、感度は良好。そろそろ始まるぞ」


クルハの合図でコタローは佇まいを正すと画面に意識を集中した。

新都を支配する、現八官僚。

文官は五族。

コタローのカラズマ一族。

クルハのヒガ一族。

トイ一族。

アロウ一族。

そしてノンのタペストラ一族。

武官は三族。

パンドラ一族。

ゾラディウス一族。

グレイシス一族。


それぞれの一族に担う管轄があり、中でも財政を任されているアロウ一族は八官僚を取り仕切る立場になることが多い。

今回も時間になるとやや贅肉の目立つドアンナ・アロウが皆の前で立ち上がった。


「それでは始めるとしましょう」


合図とともに、まずはいつもの流れ通りそれぞれの近況報告が始まる。

それが済むとドアンナはすぐに本題へと取り掛かった。


「さて、今回お集まり頂いたのは他でもありません。兼ねてより話し合いが続いていたウォーター・シストについてです」


コタローは早くも出たその名に身を乗り出した。

ドアンナはやや勿体ぶりながら体を揺らした。


「グレイシス軍が先陣を切って砂漠へと足を踏み入れた事になりましたが、そちらの意見はございますかな?」


見るからに厳つい武人のソワ・グレイシスは立ち上がると息も荒く意見した。


「今回は砂嵐に邪魔をされ撤収を余儀なくされたが、何十年も力を蓄えてきた我が軍はルナハクトごときに遅れは取らぬと判断した。よって、これを機に新都の総力を持って砂漠を越え、ルナハクトを蹴散らし、森の向こうまで進軍することを提案する」


血の気の多い発言に頷くのは主に武官たちだ。

いつもなら文官は当たり障りのない穏やかな意見を出す方が多いが、ここにきてドアンナとバルゴが武官たちと共に頷いた。


「しかしウォーター・シストはもはや未知の場所。我々が負けることはないにしてもどのような抵抗を見せてくるのかが分かりません」


慎重に意見するのはコタローの父でもあるカラズマ・メイだ。

これには軍事部パンドラ一族の長が鼻で笑った。


「奴らに何が出来ると?ウォーター・シストは高等な文明も技術も残らず奪われたガラクタの街の集まりだ。それからどう変わってきたのかは知らんが、所詮奴らは新都に捨てられた負け犬だ」

「いくらなんでもそれは七百年近く前の話だぞ」

「ふんっ。それがなんだ。この新都だって七百年で更にここまで発展を遂げているではないか」


コタローは無意識にタブレットを掴むと食い入るように話を聞いていた。

聞きたかったことがまさに今話されている。

もっと詳しく知りたかったが、残念ながらドアンナは話を切り替えてきた。


「まぁ、お待ちください。その前に森の問題もあります。皆様も知っておられる通り、あの森はどれだけ慎重に進んでも人を迷わす不気味な森です」


これにはバルゴが手を挙げた。


「先日、その森を見張らせている者からおかしな報告が入りました」

「おかしな報告?」

「はい。なんでも一夜だけ森全体が眩しいほど光り輝いていたとか」

「森…全体が?一体何が起きたのだ?」

「引き続き見張らせておりますが分かりません。ただ、森で迷う最大の原因だと言われている大神に何らかの異変があったものだと思われます」


ノンの父、タペストラ長は小動物のようにこくこくと頷いた。


「そ、そ、それはあり得ますな。妖しげな光の関係は砂漠の民が絡んでいる可能性もある」

「砂漠の民…」


官僚たちは不穏にざわめいた。

その存在は知られていても、新都側では眉唾物だと認識される程度だ。

ここでもドアンナがパンパンと手を叩き話を修正した。


「さて、ではそろそろ結論をお伺いしたい。我々は今後、ウォーター・シストへ乗り出すべきなのか、それとももうしばし時を待つのか。其々どちらかに挙手を願おう」


ドアンナの合図で二つの意見が出揃う。

後者に手を挙げたのはカラズマ、トイ、タペストラの三文官のみであった。

一番平和論を引っ張るのがヒガなのだが、彼の代わりにこの場に立つバルゴが武官についたのだからもうどうしようもない。

カラズマ長は渋い顔になった。


「全面戦争は双方に莫大な被害が出るだけだ。ウォーター・シストを焼いてしまえば手に入れたとしても大した価値にはなるまい」


ドアンナはにやりと笑った。


「勿論。そんなことは分かっている。だが我々には死の太陽がある。あとはそれを運ぶための手段さえ手に入れればウォーター・シストは無条件で降伏するさ」

「死の太陽…」


その一言に全員が押し黙った。

揃って硬い顔をしているが、バルゴだけはどこか不敵な笑みを浮かべている。

官僚たちは次の会議で南部制圧の具体案をまとめることを決め、長々と続いた話し合いを切り上げにかかった。

別室で聞いていたコタローは呆然とタブレットを見つめていた。


「ウォーター・シストは新都が捨てた街…?じゃあ死の太陽ってのは一体なんなんだ?」


クルハはコタローの手からタブレットを引き抜くと撤収作業へと移った。


「呆けてないで行くぞコタロー。今出ないとホテルから抜け出せなくなる」


官僚たちの話していることは、コタローには衝撃的なことだらけだった。

まだ動けずにいると、片付けを終えたクルハがさっさと立ち上がり部屋を出た。


「お、おい」


慌ててクルハの後に続いて部屋を出ると、廊下にはホテル従業員の女がいた。

コタローはぎくりとしたが、クルハは甘えるように女の頬に擦り寄り鍵を渡した。


「はい、部屋の鍵」

「東側のB-2を開けてるわ早く出てね」

「さんきゅ、マイノ。いつも助かる」


唖然とするコタローに構わずクルハはさっさと歩き出した。

エレベーターホールに向かいながら、クルハの頭の中はコタローとは全く別のことを考えていた。


「…さて、あの中の誰がリョウを殺そうとしたんだか」


物騒なひとり言をこぼすと、クルハは至って面倒そうに髪をかきあげた。

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