クルハの都合
クルハは嫌そうにコタローの手土産、塩まんじゅうを押しのけた。
「こんなもんで引き受けるかよ。お断り」
「クルハぁ!暇そうなんだからいいじゃねぇか!」
「これが暇に見えるか?」
寝転がりながらゲームをしてるのだからめっぽう暇には見える。
「お前って昔から勘がいいというか、とにかく逃げ足めちゃくちゃ速かったじゃん?見張り役だけでもいいんだって」
「なぁんで俺ばっか面倒そうなことに付き合わなきゃなんねぇんだよ。やだやだ」
「二十の男がやだやだとか言うなよ…」
クルハは体を起こすと大きく伸びをした。
「三日後の夜だろ?無理だって。お前その日何があるのか知らないのか?」
「なんかあったっけ?」
コタローが首をひねっているとクルハは面倒そうに首を鳴らし、またゲームを始めた。
「官僚共の緊急会議。次こそ本格的にルナハクト潰しに行くんじゃねぇの?」
コタローはギョッとした。
「まさか!!もう動き出すのか!?」
「いや?奴らのことだから、これからまだたらたら話し合いで何日か潰すだろ。死の太陽だって使用目処すら立ってないんだし」
「死の太陽…?」
意識半分でたらたら話していたクルハはあっ、と小さく声をこぼすとコタローに背を向けた。
「おい、クルハ」
「知らなーい。俺は何もしらないぞー」
「そんなことで誤魔化されるか!!お前ら四兄弟は何か俺らの知らないことを知ってるんだろ!?」
「言えなーい」
「クルハ!!」
ゲーム機を取り上げるコタローは珍しく真剣に怒っていた。
クルハは頭をかきながらコタローを見上げた。
「だって、言ったら俺がレオ兄に殺されるからなぁ」
コタローは思い切りクルハの襟首を掴み上げた。
「だったら、やっぱりお前も来いよ!!お前らが知ってることを俺が勝手に調べ上げる分には文句はないな!?」
「だからぁ、その日は緊急会議があるんだって」
「お前には関係ないだろ!?」
クルハはコタローを引き離すとため息をついた。
「ある。だって俺それ盗聴しに行くもん」
「と、とーちょ…!?現新都トップクラスの会議を盗聴だと!?おまっ、それ犯ざ…!!」
「バカッ!!分かってんなら大きな声出すなよ」
急いでコタローの口をふさぐとクルハはに面倒そうに言った。
「俺だってそんな面倒なことしたくないんだぜ?レオ兄に言われて仕方なく潜り込むんだ」
「な、何の為にそんなこと…」
「父上の代わりにヒガ一族の代表として出席するのはバルゴなのさ。あいつはなんか怪しいし放っておけないんだろ」
コタローは考え込むと、またてれてれと床に転がってゲーム機に手を伸ばすクルハを見下ろした。
「分かった…。俺もその盗聴に付き合う。で、その後一緒にノンの所へ忍び込もう」
「え、ノンちゃんいるの?それを先に言ってよコタロー」
視線だけを上げるとクルハはにこりと笑った。
「いいよ。付き合ってやるよ」
コタローは嫌そうなノンの顔がちらりと浮かんだがあえて無視した。
「じゃあ三日後にな。詳しい打ち合わせはその日の昼にしよう」
「はいはい」
寝転がりながら相槌を打つクルハに、コタローは舌打ちをした。
これで武器を持たせれば誰一人として敵わないというのだから、これほど才能を殺している奴はいない。
しかもやたらもてるし。
自らも凡人認定しているコタローは、風来坊の頭を理不尽に一発はたいてからその部屋を荒々しく出て行った。




