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砂漠の月  作者: ちあき
第三章 大神の森
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アイトとセリー

森を抜けたアイト達は、出口付近にある中継地点に身を寄せていた。

衰弱が激しかったセリーとシュルナーゼは、ここで水と果物だけを口にしながら何とか英気を養っていた。


「やぁ、もう大分動けるようになってきたね」


アイトは新鮮な果物を沢山入れた籠を石のテーブルに置いた。

セリーはベッドに腰掛けたままだが、シュルナーゼはちょこちょこと寄ってきては籠の中を覗き込んだ。


「これは、なあに?」

「パイナップルとバナナ、それにマンゴーだよ。ウォーター・シストは栄養のある果物を沢山作っているんだ」

「ぱいなっぷ」

「そう。シュルナーゼの好きなやつだ」


アイトはナイフを取り出すと早速切り分けてやった。

シュルナーゼはぱくぱくと果物を食べるようになったが、セリーは相変わらず一口食べればいい方だ。

和やかなお食事タイムだったが、そこへカズラが顔を出した。


「おう、元気が出てきたようだな」


低いダミ声にシュルナーゼは小さく悲鳴をあげると、テーブルから離れセリーの後ろへ引っ込んだ。

カズラはバリバリと髭を撫でながら椅子を引き寄せ座った。


「アイト。シィ達が動けるのならそろそろウォーター・シストへ入ろう。事情も知らんここの連中ときたら、それはそれはこの美女二人に会わせろと鬱陶しいほど騒いでかなわん」

「まぁ、急遽寄らせてもらったからね」

「必死に食い止める俺の身にもなってみろ。罵詈雑言の嵐だぜ?」

「お前の見た目はそんな時に役立つんだろ?」

「おお。目一杯怒鳴り返してやったわ」


アイトは苦笑するとセリーに向き直った。


「ここから街までは数キロ程だ。一番近い入り口はサンクラシクス大聖堂の関所。僕の身分証でそこは通過できるから、街に入ったら一度休憩を挟んでアサンへ行こう。海の見えるのどかな空き家がある」

「海…!?」


反応したのはシュルナーゼだ。

だがシュルナーゼはカズラと目が合うとまた引っ込んだ。

セリーは無機質な部屋を見回した。

確かにこんな場所にいつまでいても仕方がない。

だが立ち上がったその足元は覚束ない。

もうずっと体が思ったように動かせないのだ。

アイトはすぐに手を貸した。


「セリー、無理はしなくていい。ゆっくり行こう」

「…」


カズラが立ち上がるとシュルナーゼはぴょこりと飛び跳ねセリーの隣を陣取った。

カズラはいささか頼りないこのメンバーに不安を覚えながらも、とりあえず連れ立って出発する事にした。

世話になった人に丁重に礼を言い外に出ると、森が空一面に緑を広げていた。

シュルナーゼは慣れない外に出た途端におどおどすると、いちいち何にでも驚いては悲鳴をあげていた。


「それにしても昨日の光の花は何だったんだろうな」


カズラがその辺に咲く花を手に取り眺める。


「さぁ。基地の連中もあんなのは初めてだったと騒いでいたな」


アイトはカズラから花を受け取るとシュルナーゼに渡してやった。

シュルナーゼは不思議そうに花びらを触ったり匂いをかいだりしている。


「セリーは、人として過ごすのは今回が初めてではないのか?」

「え…」

「シュルナーゼは道を歩く事でさえまだ戸惑っているけれど、セリーはそうじゃない。水の飲み方や段差の乗り越え方もスムーズだし、もしかしたら人の生活をその体は知っているんじゃないかと思ってね」


鋭いところを突かれてセリーは足を止めた。

自分を支える青年を見上げると、遥か昔に隣にいてくれた人と面影が重なった。


「そう…ね。あんなに昔なのに、体は覚えているものなのね」


しっとりと瞬くセリーの瞳に憂いが混じる。

それは複雑な心理を秘める人の姿そのものだ。


「何か、辛い思いをしたのか?」

「…」


優しい声にセリーの記憶が揺さぶられる。

だがその記憶にはノイズが重なった。


「…別に」


掠れる声で答えた途端、不意にセリーの瞳から一筋の雫が流れ落ちた。


「セリー?」


アイトは驚いたが、不安定に傾いたセリーは急にぼんやりとしたかと思うと、いつものように無表情に戻った。


「ごめんなさい。何でもないわ」

「…いや。セリーにはもしかして大切な人がいたのか?」

「そうね。でも貴方にもそんな人くらいいるでしょう?」


セリーの目から見てもアイトはセオに引けを取らない器量を持っている。

それに周りの信頼も厚く本人の性質も芯があり穏やかだ。

さぞや大切な人が周りにいるだろうと思えたが、アイトは意外にも首を横に振った。

それどころか、そこには自嘲めいた苦笑が浮かんでいた。


「僕は…きっと人を愛することはない」

「…」

「別に主義とか悲観しているとかじゃなくて、ただ単に昔からそうなんだ」


アイトは何でもないように言うと肩をすくめた。


「あぁ、でも一人だけ。たった一人だけ心から可愛いと思った弟はいるんだ」

「弟…?」

「ああ。それが物凄く手がかかる奴で、昔から僕も散々振り回されたな」


話すアイトの笑みは温かい。

それなのに、やはりどこかに陰りを帯びている。

セリーは不思議に思いながらも、この青年の手を借りながら一歩一歩ゆっくりと歩いた。

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