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砂漠の月  作者: ちあき
第三章 大神の森
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再出発

薄日が差す夜明け。

光る花は枯れ落ち、いつもと同じ森が静かに緑を揺らしている。

大神は集落の男たちの手で慇懃に運ばれた。

リョウ達も途中までついて行ったが、流石に集落の中まで入れてはもらえなかった。


「なんだよ。ハイトラくらい入れてくれてもいいのにね」


リョウが言うとハイトラはにっこり笑った。


「別に気にしてない。父様の目が覚めたらまた会いに行くよ」


バンビはハイトラが貸してくれた毛皮のケープを肩から巻きながら、改めて言った。


「ねぇ、ずっと気になってたんだけど…」

「なんだ?」

「あなた、誰?」


ハイトラは猫のような目をぱちぱちとさせると照れたように頬をかいた。


「オレ、ハイトラ。大神の子だ」

「え!?あ、そうか。だってずっと大神のこと父様って言ってたものね。もう!!やっぱり子どもがみんな死ぬなんて嘘ばっかりだったのね!?」


ハイトラは森の西を指差した。


「あそこを超えたところに、白い花が一面に咲いているんだ」

「花?」

「うん。父様は生まれた子どもが死ぬと必ずあそこで弔わせる。あそこに行かなかったのは、この数百年ではオレだけだよ」

「え…」


バンビは思わずハイトラを見つめた。

集落の外で老婆に事情を話していたセオはひと段落するとこっちへ戻ってきた。


「あ、セオ。終わったの?」

「ああ。リョウ、お前を呼んでる」

「え?おれ??あのお婆さんが??」


リョウはセオと並ぶと老婆の元へ一緒に戻った。

老婆はリョウをまじまじ見ると苦いため息をこぼした。


「まったく…とんでもない花を引き入れたものじゃ」

「お婆さん、ご馳走してくれたのにめちゃくちゃにしてごめんね」

「ふん。大神様を沈めたことでよしとするさ。それより、そちはなぜあれだけ大量の薬を食べたのにぴんぴん動けたのじゃ?」

「え…えぇ!?薬!?いつ!?」

「あの食事の中には痺れ草に眠り草、その他諸々が含まれておったはずじゃが…」

「げげ!!うそ!?おれめちゃめちゃ食べちゃったよ!?」


リョウはお腹を押さえると今更ながら焦った。

老婆は目を細めると声をひそめた。


「そちは幼い頃は食が細いと言われたことはないか?」

「え…うん。よく吐いたり下したり熱出したりすごい手がかかったって言われたことがある。そういえば昔はアイ兄があやしながらいつも食べさせてくれてたっけ」


セオは食が細かったというリョウを疑り深く見たが、老婆はしゃがれた声で言った。


「ふむ。どうやらその時期から存分に慣れさせられておるな。もしや誰かに命でも狙われておるのか?」

「はぁ!?」


リョウは素っ頓狂な声を出した。


「まっさかぁ。おれ命狙われるほど悪いことしてないよ?」


変な笑いをしているとバンビとハイトラもこっちへ来た。


「どうしたの?リョウ」

「あ、バンビちゃん。バンビちゃんはご馳走食べた後で体に不調とかきた?」

「え?あぁ、私は食べなかったから」

「え!?あのご馳走目の前にして食べなかったの!?」


セオは呆れ果てた。


「何の警戒もなく食べるのはお前くらいのもんだ」

「えぇー!?」


言ってるそばからリョウの腹は盛大な音を立てた。

だが腹が減っているのは皆同じだ。

ハイトラは張り切ってぴょんと跳んだ。


「よし、オレが何でも採ってきてやるぞ。そろそろ出発しよう!!」


セオはすぐに同意した。


「そうだな。今日中には森を抜けよう。ハイトラ、南への抜け道を案内してもらえるか」

「おぅ!!…って砂漠へ行かないのか?」

「今は人を探しているんだ。見つけたらすぐに砂漠へ戻るさ」

「砂漠!!分かった 、じゃあそれまではオレも一緒に行くぞ!!」


リョウは驚いて振り返った。


「え!?ハイトラ、森を出てもついて来てくれるの!?」

「おぅ!!…いい?」


元気な返事の後に上目遣いで聞かれて、リョウは吹き出した。


「もちろん!!よかったぁ。ハイトラなら頼りになるしこれで帰りの森も安心だ!!」


老婆は渋い顔をした。


「やれやれ。お前までライヒョウ様、アマヒヒ様のようにここを出て行くのかい。しかもよもや森を捨てようとは…」

「ううん、森は好き。だからいつかは戻ってくるぞ。大老婆、父様をよろしくな」


なんの気負いもなくにっこりと笑いかけられ、老婆は諦めたように項垂れた。


「…せめて、この老婆の命あるうちには戻ってきてくだされ」

「分かった!!」


老婆はセオに向き直った。


「ウォーター・シストではウワカマスラに対して熱心な信者が多い。最近ではその動きも不穏じゃ。精々気をつけることじゃ」

「信者?」

「あそこは新都とは違い昔ながらの風習を残しながら発展してきたからの」


意味深に言い残すと、老婆は背を向け集落へ帰って行った。

リョウは首を傾げるとセオを見上げた。


「不穏な動きって、何だろう」

「さぁな。とにかく不用意に光りさえしなければいいだろう」


セオは結晶石を取り出すとリョウにかけようとしたが、その手を止めて隣のバンビにかけた。


「え、な、何!?」

「しばらくはバンビが持っててくれ。お前が一番俺の側にいるだろうしな」


バンビは真っ赤になった。


「べ、別にそんなこと、分からないしっ。ていうかそんなセリフ、真顔でさくっと言わないでよね…」


ぶつぶつと一人で言いながら、裸足の足で土をかりかりとかく。

リョウはバンビと自分の姿を見下ろすと頭をかいた。


「とにかく、町に着いたらまずはなんでもいいから着替えがほしいな。いい加減花嫁衣装なんてバカらしいもの脱ぎたいよ…」


明るい所で見ても、これでは知らない者が見たらリョウを女の子だと思うだろう。


「気にするなよ!意外と似合ってるぞリョ

ウ!」

「うぅ…。嬉しくないよハイトラ」

「とりあえず裸足は危ないからオレ、マシに靴だけでももらってくる」

「うん、それ助かる」


ハイトラはあっという間にどこかへ消え、数分後には両手に沢山の食べ物と二足の靴を持って戻ってきた。


「はい、マシがこれも持って行けって。マシのくれた食べ物は大丈夫だぞ」

「た、頼もしすぎる…!!」


リョウは大喜びで皮の靴を履いた。

四人は腹ごしらいをすませると、やっと森を抜けるべく南へ歩き始めた。

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