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砂漠の月  作者: ちあき
第一章 砂漠の夢
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新都

リョウは砂漠のど真ん中で呆然としていた。


「今…今どうやって外に出たの!?」


セオは服の砂を払いながら辺りを確認した。


「どうやら上手く新都の近くに出られたみたいだな。あの出入り口は気まぐれだからな。毎回違う場所に出る」

「そんな出入り口聞いたことないよ!」


さっきまでセオの家の廊下に立っていたのだ。

廊下の一番端は丸い円形になっていて、その上に何やら円盤型の物があった。

そこに乗ったと思ったらもうここにいた。

いつ砂の中を通ったのかすら分からない不可思議な感覚だ。

リョウはまじまじとセオを見つめた。


「セオはいったい何者なの?砂漠の王じゃないの?」

「そんなわけあるか」

「だって砂漠にあんな風に住んでる人なんて他にいないよ?」


セオは時間と太陽の位置を見定めるとさっさと歩き出した。


「じゃあ人がいないようなど田舎の山に一人だけ誰か住み着いたら、そいつはその山の王なのかよ」

「えっ…」


思わぬ切り返しにセオの隣を歩いていたリョウは目を丸くした。


「…そう考えるとなんだか変だなぁ」

「そうだろ。俺は俺で、他の誰でもない」


なんだか妙な説得をされた気がして、リョウは頭にはてなマークをたくさん浮かべた。

そうこうしているうちに新都が遠目に見えてきた。

この距離から見るとまるで突如として砂漠に現れた要塞都市のようだ。


「不思議な光景だよね。砂漠と新都って本当ぱっくり分かれてるもん」


何気なく口にしたが、セオは厳しい目で遠くを見つめた。


「この砂漠は新都人を牽制している。砂漠がなければ奴らは反対側にある森にまで手を出すからな…」

「そんな考え方したことなかった。この砂漠は邪魔だとしか教えられなかったけど見方を変えると森を守っているのかぁ…」

「邪魔だと思っているのは新都の連中だけさ」


近付いてきた街を冷たく見据える姿に、リョウは敏感に反応した。


「セオは新都が嫌いなの?」

「全てが嫌いなわけじゃない。…官僚共には反吐が出るがな」

「…」


セオは急に黙り込んだリョウを見下ろすと、街の入り口を顎でしゃくった。


「あそこからヒガの下町、サスペルドだ。何か思い出したか」


リョウはじっとその入り口を見つめていたが、ふとお腹に手をやるとセオを見上げた。


「セオ、おれお腹すいた。先に何か食べたい」

「…」


セオは何か言おうとしたが、リョウの仔犬のような瞳にうっとなった。

視線を逸らすとまた足早に歩き出す。


「セオ…」

「分かった。先にその場で食べられる物を買おう」

「ほんと!?やたーぁ!!おれセオ好きぃ!!」


リョウはぴょんと飛び跳ねるとセオを追い抜いて少しだけ走った。


「セオー!早くぅ!!」


大きく手を振るリョウに、セオはやれやれと後に続いた。

街に入ると早速商店通りになる。

今まで砂の上を歩いていたのが嘘みたいに、一歩入れば急にどこもかしこも舗装された文明的な造りに様変わりだ。

セオは適当な露天でパンを買い、それをリョウに手渡すとベンチに座らせた。


「俺は食材を買いに行く。食い終わったら適当にしてろ」


相変わらずぶっきらぼうに言うと返事も待たずにさっさと店に入って行く。

リョウはにこにこしながら手を振っていたが、一人になった途端その表情はがらりと変わった。


「…ま、あんまりくっついて急に引き離されるよりこの辺で待つ方が賢明だよね。絶対置いてなんて行かせないんだから」


セオは撒くつもりで新都へ連れ出したのだろうが、それくらいこっちも承知の上だ。

それでもあえてついてきたのはただ単にセオのことがもっと知りたかったからだ。

リョウは買ってもらったパンを頬張りながらも細心の注意を払い、セオが何処から出てきてもキャッチできるように意識を集中した。


「おい、見つけだぞリョウ!」


後ろから不意に呼ばれてびくりと肩が上下する。

振り返ると二人の男女が目に入った。


「全く。何処行ってたんだよ、リオ」

「ごめん。どうしてもあっちの店が見たかったのよ」


二人は笑いながらリョウの隣を通り過ぎた。

リョウは似た名前を聞き違えただけだと分かると肩から力が抜けた。


「び、びっくりした…」


速まった鼓動を落ち着けながらフードを目深にかぶり直す。

ベンチで膝を抱え込むと、リョウは出来るだけ小さく背を丸めた。


「大丈夫…。ここは家からだいぶ離れてるし、そう簡単に見つからないはずだ」


ざわつく心を抑えつけ、ひたすらセオが出てくるのを待つ。

だがすぐに我慢できなくなるとリョウは立ち上がった。


「セオを迎えに行こう」


すれ違いを防ぐためには大人しく待っていた方がいいのだが、何だか嫌な予感がする。

足早に店に向けて歩き出したが、その時リョウの右肩に後ろから大きな手が置かれた。


「探しましたよ、リョウ様」


その声は落ち着いた中年男性のものだった。

リョウは反射的にその手を振り払い距離をとった。


「お前…!!」

「家の者も心配しておりましたぞ。今までいったい何処にいらしたんですか?さぁ、帰りましょう」

「い、嫌だ!!」


男は不気味に笑うとリョウを指差した。


「どんなに逃げても無駄ですよ。砂漠でのたれ死んだかと思いきやよく生きておられたものだ」

「ど、どうして…」


リョウはぎくりとすると自分の体をあちこち触った。


「まさか…」


男は笑いながらリョウの腕を掴んだ。


「大人しく帰りましょう。例え貴方といえど急に失踪したとなれば旦那様の名に傷が付きます」

「離せ!!」


リョウは思い切り腕を振り切ると闇雲に走り出した。

ちょうど店から出たセオが視界に入る。


「セオ!!セオセオセオ!!」


名前を連呼されたセオは嫌そうに振り返ったが、切羽詰まって飛び込んできたリョウに驚いた。


「なんだ…?」

「セオ!!逃げよう!!変態がくる!!」

「はぁ?」

「いいから早く!!」


リョウは振り返りもせずにセオの腕を掴んで走った。

中年男は身を潜めていた影に鋭く命じた。


「追え。生きてさえいればどれだけ傷がついても構わん」


影は即座に逃げるリョウの後を追った。

買い物袋を片手に走らされたセオは、砂漠の入り口まで来るとリョウの手を振り払った。


「おい!!いい加減にしろ!!一体何なんだよ!?」


リョウは苦しげな息を繰り返しながらふらついた。

その顔は真っ青だった。


「お前…急にそんな走るからだろうが!!ずっと寝たきりだったのに無茶するな!!」


リョウはそれでも砂漠に向かって足を進めた。


「おい…」

「セオ、は…やく、砂漠へ。お願い…」

「おい、リョウ!?」

「おれ、おれ、絶対新都には、かえりたくな…」


耳を劈く銃声が二人の後ろから鳴り響く。

周りが悲鳴に包まれる中、リョウは痙攣したように引きつると左肩から血を流しながら前につんのめった。


「リョウ!?」


セオは反射的に倒れ込むリョウに手を伸ばしたが、背後から迫る風音に反応すると体を反転させた。

盾にした買い物袋に深々とナイフが突き刺さる。


「なっ…」

「リョウ様を返していただこうか」


リョウを追って来た黒い服の男は問答無用でセオに飛びかかった。

その動きは間違いなく玄人だ。

丸腰のセオなど一瞬でねじ伏せるつもりだったのだろうが、ここで計算違いが起きた。

どれだけ仕掛けても繰り出す攻撃が全くセオに当たらないのだ。


「なに…?貴様、一体…!!」


手間取っている間に周りは大変な騒ぎになった。


「きゃあああ!!誰か!!誰か!!」

「警察を呼んでくれっ!!通り魔だ!!」


黒服の男は舌打ちをすると人混みの中へ逃走を図った。

あちこちから悲鳴が上がる中、セオは急いで荷物とリョウを抱え直すと砂漠へ走った。


「リョウ、おいリョウしっかりしろ!!これは一体どういうことなんだ!?」


呼びかけてもリョウはぐったりとしたまま動かず、その背中からはどくどくと止めどなく血が流れ落ちている。


「くそっ…、そんな厄介な事情があるなら最初から言っておけ!!」


セオは広大な砂漠を汗を流しながら走り、再びリョウを連れて家へと飛び込んだ。

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