二人の花嫁
荒々しく運ばれたリョウとバンビは疲労と空腹からぐったりとしていた。
どこをどう来たのかなんて全く分からないうちに小さな集落に着く。
そのまま納屋に放り込まれるときっちり鍵をかけられた。
二人は床に伸びると力なく呻いた。
「なんかもう、おれ最近捕まってばっかりだ…」
「レディをこんな所に閉じ込めるなんて信じられない…」
二人から揃ってやかましく腹の虫が鳴る。
リョウは本格的な空腹に視界まで白くなってきた。
「バンビちゃん、おれもうだめだ…。アイ兄に会ったら、よろしく伝えておいて…」
「ちょっ、縁起でもないこと言わないでよっ。しっかりしなさいよリョウ」
そう言うバンビにも力がない。
ただ凛としたアイトが脳裏に浮かぶとちょっぴりだけふにゃりと笑った。
何時間経ったのか、意識が本格的に遠のきそうになっていると急に納屋の扉が音をたてて開いた。
入ってきたのは二人の壮年の女だった。
「お花様方。お食事のご用意が出来ております」
バンビはのろのろと視線を上げることしか出来なかったが、その隣でリョウが飛び起きた。
「食事だって!!バンビちゃん行こう!!」
「で、でも…」
「とにかく食べなきゃ何も始まらないよ!!」
リョウがまくし立てていると、女の一人がリョウの前に立った。
「そちはこちらへ」
「え?バンビちゃんとばらばらに行くの?」
「はい。順番がありますのじゃ」
「順番?」
リョウはきょとんとしたが、薄っすらと香る美味しそうな匂いにもう我慢が出来なくなった。
「何でもいいから早く食べたいよ!!じゃあバンビちゃんまた後でね」
「あ、リョウ!?」
リョウがさっさと出て行ってしまったので、バンビも仕方なくもう一人の女に続いて納屋を出た。
リョウが通されたのは、集落の中で一番大きな屋敷だった。
楕円形の石のテーブルには、魚や肉、木の実に手を加えた料理がたっぷり並んでいる。
「どうぞおあがりなさい」
案内した老婆が言うと、リョウは早速手前の魚に飛びつき一口食べた。
「美味しい!!」
味もいいとなると、もうその勢いは止まることはない。
リョウは脇目もふらずに猛然と食べだした。
「うぅ、幸せ!!お婆さんありがとう!!」
老婆は意味深に笑うと冷やされた茶を注いだ。
「礼を言いたいのはこっちじゃ。近年では中々娘が手に入らんかったでの」
「むすめ?」
「そうじゃ。そちは大神様の花嫁に選ばれたのじゃ」
「花嫁?だれが??」
「そちじゃ」
「…おれ?」
リョウは手を止めると訝しげに老婆を見た。
老婆は妖しく笑うとリョウに茶を寄越した。
「今宵の夜伽はあちらの娘じゃ。そちは明日の為にようく食うておけ」
「よとっ、ちょっ、ちょっと待って!!なんか今突っ込みどころだらけだったんだけど!?大体まずおれは…」
男!!と言いかけたが、リョウは無理やり言葉を飲んだ。
今自分が騒ぎ立てたらどうなるだろうか。
また拘束されたり叩き出されては、同じ事を言い渡されているだろうバンビを助けに行くことも出来ない。
リョウはゆっくり息を吐くと気を引き締め、その顔を可愛らしい笑顔に変えた。
「急な話でびっくりしちゃった。きっとバンビちゃ…もう一人の女の子もびっくりしてるんじゃないかな。とりあえずもう一回会わせてよ」
「それはできぬ。そちたちはこの後、各々その汚れた身を浴槽で洗い流し花嫁に相応しい服に着替える予定がある」
「えっ」
「お付きは何人必要じゃ?五人までならそちの世話にまわせるぞ」
「え、いやっ、いらないです。一人で入ります一人で」
「そうはいかぬ。その体は隅々まで清める必要が…」
「隅々まで洗います!ちゃんと洗えますからほんと!」
老婆はふむと顎を撫でた。
「まぁ今宵は構わぬか。明日は磨かせてもらうぞ」
「お婆さん。その前にこっちはまだ花嫁になることを了解した覚えはないんだけど」
「花嫁に拒否権はない。全ては大神様のためじゃ」
「大神様…」
何だか急に大昔の村にでも迷い込んだようだ。
だがお腹もふくれ、血の巡りも良くなってきたリョウは目まぐるしく頭を回転させていた。
とにかく今はバンビを救出することが最優先だ。
逆境の中で磨き上げた完璧な笑顔で、リョウは老婆の相手をし続けた。
言われたことには逆らわず、むしろ興味を持ってにこにこ相槌を打つ。
物分りが良く大人しく、見るからに手篭めにしやすそうなリョウに老婆の警戒心はすっかり薄れた。
食べ終わって部屋を出る頃には、狙い通りリョウの見張りはおざなりになった。
一方その頃。
別の部屋に通されたバンビは大暴れをしていた。
「冗談じゃないわよ!!!なんで私が顔も見たことのない人の嫁になんてならなきゃいけないわけ!?」
目の前の豪華な食事にはくらくらする程惹かれるが、とても口にする気にはならない。
バンビを案内した女は皿をひっくり返したバンビに眉を寄せながら言った。
「嫁になるといいましても生涯共にするわけではございません。大神様のお子さえ生んでいただければ後は自由の身となります」
「バカなこと言わないでよ!!子どもをつくるプロセスが既に大問題じゃないの!!す、好きな人でもないのにそんなこと了承できるわけないでしょう!?」
バンビは喚きながら壁を伝い扉にじりじりと寄った。
「逃げられるとお思いか」
「逃げられないなら死んだ方がましよ!!」
「やれやれ。今宵のお花様は随分勝気なかただ」
女が手をパンパンと叩くと、バンビが逃げ出そうとしていた扉が内側に開いた。
入ってきたのはあの熊のような男が三人だ。
「な、何よ!!来ないで!!」
「大人しくなされよ。今宵の勤めなど一時の間に終わろうて」
「大人しくなんて出来るわけないでしょ!?触らないでよ!!絶対嫌だからね!!」
「構うな。そのまま捕らえて風呂の女に渡し、夜伽の準備をさせよ」
「よっ…夜伽ぃ!?」
バンビの目にはみるみる涙が浮かび上がった。
「嫌!!嫌よ嫌嫌!!誰か…」
脳裏に鮮やかな青い瞳が浮かぶとバンビは無意識に叫んでいた。
「セオ!!セオー!!」
抵抗するも丸腰では敵うはずもない。
バンビは首筋に衝撃を受けるとそのまま意識を失った。




