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砂漠の月  作者: ちあき
第三章 大神の森
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森のハイトラ

何かを焼くような香ばしい匂いは、崖を登った先からはっきりとしてきた。


「あぁ、やばい。おれ今焼かれてるのがたとえ蛙でも丸呑みで食べちゃうかも!」


見たこともないくらい大きく茂るシダ植物を掻き分けると、目の前が急に開けた。

ちょろちょろと清水の流れる音が心地よく耳に届く。


「水!?やった!!湧き水だ!!」


リョウはむき出しの岩肌から流れ落ちる水に走り寄ると、がぶがぶと心ゆくまで飲んだ。


「あぁ、生き返ったぁ!!セオ、バンビちゃん!!こっちこっち!!飲める水があったよ!!」


振り返り大きく手を振る。


「ま、待ってよぅ。あんた崖登るの早すぎるわよ…うぎゃっ!!」


バンビは纏わりつくクモの巣に一々悲鳴をあげながらセオの背に隠れた。


「もーやだぁ!!これだから森なんて嫌いよ!!気持ちの悪い虫虫虫!!」

「仕方がないだろ。 ほら、肩にも何かの節足動物がついてるぞ」

「い、嫌嫌嫌あぁあぁ!!とってぇ!!セオとってよぉ!!」

「しがみつくな、取りにくいだろ」


セオは平気な顔で虫を払い地面へ捨てた。


「とれた?ねぇとれた?」

「ああ」


心底ホッとして顔を上げると、セオの視線が間近でぶつかった。


「ちょっ、は、離れてよ!!」

「お前…頭についてる蜘蛛とってやらんぞ」

「え!?や、やだやだごめんなさいごめんなさい!!とってええぇ!!」


涙目のバンビに、見ていたリョウがふきだした。


「バンビちゃん、あんな砂の化け物とかには平気で向かっていくのにこんなちっちゃな虫はダメなの?」

「だってぇ…纏わり付かれたりベタベタしたり気持ち悪いんだもぉん」


セオは指先で豆粒のような蜘蛛を弾いた。


「ほら、いいぞ」

「うぅぅ、ありがとうございました…」


一息ついたところでセオとバンビも湧き水で喉を潤した。


「冷たい…美味しい!!」


心ゆくまで水を堪能していると、また香ばしい匂いが辺りに漂った。

リョウは辺りをきょろきょろと見回した。


「おかしいな。確かに近いはずなんだけど…」


湧き水が流れる岩肌に手をかけると、気合いを入れてよじ登る。

上まで体を運ぶと、明らかに人が手を加えた焚き火と良く焼けた獣の丸焼きを見つけた。


「あ、あったぁー!!セオ!!バンビちゃん!!食べ物見つけたよー!!」

「おい、勝手に食らいつくなよ!?」


もちろんリョウはセオの忠告なんて聞こえてやしない。

足早に焚き火に近付くとウキウキと肉の塊に手を伸ばした。

リョウの行動パターンに慣れてきたセオは急いで同じ岩をよじ登ったが、時すでに遅し。

セオが見たものは重い獣を串刺しにした棒を安易に持ち上げて、全てをひっくり返したまま転がっているリョウだった。


「リョウ!!」


慌てて走り寄るとリョウのすすだらけになった体を抱き起こした。


「このバカが!!火傷は!?」

「し、してない…」


リョウは呆然としながら肉の塊を見た。


「獣の丸焼きって、だいぶ重いんだね…」

「当たり前だ!!」


セオは掻き消された焚き火の跡を確認しながら注意深く辺りを探った。


「薪の跡が新しい。誰か近くにいるはずだ」

「え…?」


リョウは立ち上がると周りの気配に耳をそばだてた。

ざわざわと木々が揺れる中で、異変が起きたのは岩の下からだった。


「き…きゃあああああぁ!!」

「バンビ!?」

「バンビちゃん!!」


緑に染まる空気を切り裂くバンビの悲鳴。

セオとリョウは弾かれたように走り出すと岩を滑り降りた。

バンビは熊のように大きく毛むくじゃらの男に捕まっていた。


「バンビ!!」

「せ、セオぉ!!」


熊男はバンビを人質に取りながらじりじりと下がった。


「に、荷を置き、い、今すぐ森から出て行けっ」

「お前は…森の住人?」


空腹のリョウは非常に腹が立つとセオの後ろからぴょいと前へ出た。


「バンビちゃんを離せよ!!大体こっちは餓死にしそうなのに置いておける物なんかあるわけないだろう!?それに出て行けるもんならとっくに出てってるよ!!」

「リョウ!!」


迂闊に近寄るなと言う前に、リョウは熊男にがしりと腕を捕まれた。


「あ、な、なんだよ!?離せよっ!!」

「お前も、女か?」

「は!?おれのどこが…」


男は左右にバンビとリョウを抱えると凄まじい跳躍で木々の揺れる茂みに入り込んだ。


「バンビ!!リョウ!!」


セオはすぐに追いかけたが熊男の跳躍はバネのようで、あっという間に姿を見失ってしまった。


「一体どこへ…」

「あーぁ。森の番人に捕まっちゃったのか。あの子たちかわいそうに」


真後ろで声がして、反射的に飛び離れる。

全く気配を感じさせずに後ろに立っていたのは、不思議な格好をした少年だった。

歳はリョウより小さいくらい。

髪の色は白に近い淡いベージュで、獣の皮を綺麗に着こなしている。

手足は傷だらけで、猫のようにくっきりとした目と相まってその少年自身が獣のようだ。


「人の狩った肉を台無しにしたりするからこんなことになるんだぞ」

「おまえは…何だ?」


セオは警戒を強めたが、少年はあっさりと答えた。


「オレ?オレはハイトラ。この森に住んでるんだ」

「この森に?」

「何でもいいけどあんた、早くあの子たち探しに行った方がいいよ?森の番人たちはいつでも大神の花嫁を探しているんだ」

「花嫁?」

「もっとはっきり言えば子どもを生ませる為の女の人を探してる」


ハイトラはくるりと背を向けた。


「じゃあね」

「ちょっと待ってくれ!!俺にはこの森のことなどさっぱりだ!!もう少し教えてくれ!!」

「え?あんたどこから来たの?」

「砂漠だ」

「砂漠!?」


ハイトラは目を輝かせると身を乗り出した。


「いいなぁ!!砂漠かぁ!!あそこ綺麗だよな、いつか行ってみたいなぁ!!」

「いつか連れて行ってやるから手を貸してくれ!!」

「本当!?」


ハイトラは嬉しそうな笑顔になった。


「分かった。いいよ。あの子たちを取り戻すの手伝ってあげる。でも絶対に約束だぞ?」

「ああ」


セオはあまり深く考えずに返事をした。

今はとりあえずあの二人が先だ。


「じゃあ早速行こう!こっちだぞ!」


この軽いノリがリョウとかぶりやや不安ではあったが、セオはこの小さな森の住人を信じて行くしかなかった。

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