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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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追い詰められた三人

爆撃、悲鳴、雄叫び、そして風の音。

カオスのように渦巻く砂嵐の中で、結晶石を握りしめたセオは静かに目を閉じた。

まるでそこだけ時間が止まったかのように風が止む。

不思議な空気感にリョウとバンビが息を飲んでいると、次の瞬間セオから透明な黄金色が猛烈な勢いで溢れ出した。

バンビは愕然として叫んだ。


「光…、砂漠の民の光!!やっぱりセオも砂漠の民なのね!?」


セオを中心に波打つ光は止まることを知らず、まるで一面が黄金の海のようだった。

セオは目を開くと空を見上げた。

動いたのはたったそれだけだ。

それなのに黄金の海は渦を巻くと光を増し空へと昇り始めた。


「うっ…眩しい!!」


バンビは目を伏せたが、ゴーグルをしていたリョウは瞬きもせずに空を見つめていた。

黄金の光はセオに従うかのように広がると、砂嵐の中へと散布した。

光は雨のように砂塵に降りかかり、砂嵐が黄金へと変わっていく。


「すごい…!!おれとは桁違いだ!!」


リョウは感動にも似た思いに鳥肌が立ち、ぶるぶると震えた。

砂嵐の怪奇な異変には、進撃していたグレイシス軍も激しく抵抗していたルナハクトも思わず動きが止まった。


「な、何だ!?何が起こった!!」

「なんなんだこの金色の砂塵は!?」


砂嵐は急激に大きく膨らんだかと思うと、爆発的な風を起こし一気に吹き飛んだ。

直撃した人々は残らずなぎ倒された。


「うわぁ!!」

「すす、砂嵐が!!」


しばらく伏せながら吹き荒ぶ風をやり過ごす。

やっと顔をあげられるようになると、そこには綺麗に広がる青い空があった。

辺りは静けさに包まれ、吹き抜ける熱い風だけがいつものように砂漠を撫でていく。

あまりの異常現象に誰もが呆然とした。


「な、なんだったんだ…」

「砂漠、砂漠の民だ」


ルナハクト達はまだ薄く光るセオに引きつりながら後ずさった。

新都軍に至っては今の神がかった現象が信じられず、恐怖に動けずにいた。

緊迫した空気が流れたが、先に息を吹き返したのは砂漠の怪奇現象に免疫があるルナハクトだった。

最前線にいたライコオは立ち上がると己を奮い立たせた。


「お前らいつまで呆けとるんじゃ!!砂嵐は消えた!!全員白塵刀を構え直し、新都軍をここから叩きだせ!!」

「お、おぉ!!」


隊長の一括で戦士たちが動きだす。

新都軍も慌てて対応しようとしたが、既に戦意を喪失したのかなし崩しに後退し始めた。

ベルは勢いよくバンビを振り返った。


「おい、リオ!!」

「はっ、はい!?」

「その砂漠の民を離すなよ!?さっさと基地へ連れて行け!!」

「え、あ、でも…!!」


ベルは仲間を引き連れライコオに続くと新都軍に追い打ちをかけに行った。

セオは何事もなかったかのようにリョウの首に結晶石を掛け直した。

さぞ騒ぐだろうと思いきやリョウはまだ呆然としていた。


「リョウ…?」

「…い」

「は?」

「すごい、綺麗だった…」

「…」


リョウはゴーグルを額に上げるとまじまじと自分の手を見つめた。


「おれには今、セオと同じ血が半分流れているのか…」

「半分もやってないぞ」

「へへ」


リョウが心底嬉しそうに笑うので、セオは何とも言えずにふいと顔をそらした。

バンビは二人の間に割って入った。


「ねえ、ちょっと!!今のってどういう事だったの??セオも砂漠の民よね!?でもリョウとは色が違ったわ!!それにしてもやっぱり砂漠の民の力はとんでもないのね!!」


興奮しながらまくし立てていると、一台のバイクが猛スピードで近付いてきた。


「リオ!!」

「え…あ、ボス!!」


轟音と共にやってきたのはルナハクト南部基地を統括するリーダー、ゼンだった。

ゼンは獅子のような赤髪を靡かせセオを見下ろした。


「見てたぜ。お前、砂漠の民だな。あんな強烈なのを見たのは初めてだぜ」


セオは無表情になるといきなりバンビを後ろから羽交い締めにした。


「え!?あ!?ちょっ、せ、セオ!?」


バンビが目を白黒させていると喉元に剣先が当てられた。


「騒ぐな。今すぐ連れ去った俺の仲間を返せ。それが砂嵐をおさめる代わりに出した条件だったはずだ」

「うぇ!?いや、た、確かにそうだけど…!!」


ゼンはバイクから降りると厳つい眉間に深いしわを刻んだ。


「それはすまんな。お前の仲間はもうここにはいない。基地が危険にさらされる事は分かっていたからな。一足先に森の向こうへアイトに連れて行かせた」


リョウは突然出たその名にどきりとした。

そうだ、ここは砂漠。

そしてアイトが生きているかも知れないという無法集団の組織の名は確か…ルナハクト。


「ルナハクト…そうかバンビちゃんはルナハクトの人だったんだ。じゃあアイ兄は、本当にアイ兄は生きてるの…!?」


リョウの胸は早鐘を打った。

だが今はとても聞けそうな雰囲気ではない。

セオは更に目を剣呑に光らせた。


「約束は約束だ。今すぐ呼びもどせ。それから俺たちには二度と近付くな」

「そうはいかんな。あんな力を見せつけられてはやはりお前達を野放しにはできん」


ゼンの周りにルナハクトの男たちが集まる。

焦ったのはバンビだった。


「ちょっ、ボス!?やめてください!!何もこんな事しなくても…!!わっ!!」


バンビの隣で、今度は蒼い光が放たれた。

セオとバンビを掴んだリョウの足元が大きく膨れ上がる。


「リョウ!?」

「セオ、逃げよう!!森へ行かなきゃ!!」


砂はリョウ達を頂上に乗せたまま山のようになると、今度は森の入り口へむけて崩れ落ち始めた。


「わわわっ!!うそ!?うそうそ!?」


セオは剣をしまうとバンビをひょいと抱えた。


「ちょっ、な、あの!?」

「騒ぐなっ。下まで降りたら離してやる」

「う、うん…」

「いいか。お前は俺たちの敵だ」

「えっ…」


はっきり言われるとさすがにバンビも少なからずショックを受ける。

だがセオは淡々と続けた。


「だから、これ以上は庇おうとしなくていい。お前は俺にここまで脅されて来たと言え」

「は…?」

「あそこはお前にとって帰るべき大切な場所なんだろう?」

「…」


庇えば庇うほどバンビは基地に戻りにくくなる。

セオがさっきわざとゼンの前で剣を突きつけたのも、その意図があったのだ。

バンビはセオの言う意味が身に染みると胸が熱くなった。

戦地を離れ、森の入り口まで雪崩落ちると蒼い光は淡く消えた。

リョウは上手くいったことにホッと胸をなでおろした。


「はぁ、よかった。ごめんねバンビちゃん、強制的にこんな逃げ方して」

「ううん、私の方こそごめん。普段ボスは気さくでもっと人情味に溢れている人なんだけど…」


セオはバンビを地面へ下ろした。


「仕方がない。誰だって未知の力を見せられれば警戒するさ」


まるで他人事のように冷めて言うセオに、バンビの胸はまた鈍く痛んだ。

セオのお陰で新都軍は既に追いやられている。

バンビは礼を言うべきなのか侘びを入れるべきなのか分からなくなり、何だか落ち込んだ。

セオは間近に迫る鬱蒼とした木々を見上げた。


「大神の森か…」

「大神のもり?」


リョウも同じく見上げる。


「昔からこの森には大神と呼ばれる鬼がいて森を守っているそうだ」

「鬼…なの??」

「ああ」


この森の向こうはセオにとっても完全に未知の世界だ。

頼れる力も砂漠以外ではほとんど役には立たない。

この先は自分の身ですら守れる保証はないだろう。


「…リョウ」


リョウはぎくりと肩を揺らした。

こう改まって名を呼ばれる時は、あまりありがたくないことを言われる可能性が高い。


「…やだ」

「まだ何も言ってないぞ」

「でもやだ」


セオは耳を塞ぐリョウの手を掴んだ。


「この先はお前には危険だ」

「うぅ!!聞きたくない!!」

「セリー達は俺が必ず連れ帰る。だからお前は…」


リョウはセオの手を振り払うとバンビの後ろに隠れた。


「嫌だ!!絶っっ対にセオと行く!!」

「だめだ。その石も貰っていく。それがなければお前はただの新都人だ」


リョウは大きくかぶりを振った。


「おれはもう新都を捨てたんだ!!だからもう新都人じゃない!!」

「何故だ?」

「えっ…」

「何故そこまでして新都を捨てたがる?その理由を今ここではっきり言えるなら考えてやる」

「そ、それは…」


リョウは途端に勢いをなくした。

セオの前でも、バンビの前でも、本当の自分なんて言えるわけがない。


「でも、でもおれだってこの先で探したい人がいるんだ…」


リョウは消えそうな声で言うとバンビに向き直った。


「その人はおれにとって一番大切な人だったんだ。おれ、ずっと…最近までずっとその人は死んだと思ってた」

「え…じゃあ生きてるの?」

「うん。その人の名前はアイト。ヒガ・アイト。髪は淡いプラチナブランドで、右目の色が青くて左目がヘーゼルの今年十九になったはずの男の人だよ」


それはこの上ないアイトの特徴だ。

オッドアイの人間がそうざらにいることもない。

大きな目が更にまん丸になったバンビに、リョウはもう間違いないと確信した。


「セオ。セリーたちを連れているのはアイ兄だ。だからおれもこの先へ一緒に行く」

「ここから先は今までのようにお前を守ってやれない。俺が確実に守れるのは砂漠の上だけだ」

「大丈夫!!自分のことくらい自分でなんとかするから!!」


実績からいうと説得力はほぼゼロだが、リョウに引く気は全く無い。

セオは困った顔で腕を組んだが、砂を踏む僅かな足音に気付くと鋭い目になり剣を引き抜いた。


「セオ?」

「しっ」


足音がするほうに剣を構えると、場違いな程のんびりした声がした。


「いたいた。やーっと見つけたわ」

「く…クルハ兄様!?」

「青い光が見えたからさぁ、お前だと思ったんだよ」


現れたのはクルハだった。

リョウは反射的にセオの後ろに隠れた。


「まずい…まずいよセオ!!クルハ兄様はああ見えても百年に一人の逸材と称えられるくらい強いんだ」

「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと来いよリョウ。昔から面倒な奴だよなぁ、お前って」


緩慢な動きだがクルハには微塵も隙がない。

それに瞳の奥にはれっきとした殺気が漂っている。

手強い、とセオは肌で感じた。


「何?お前。そこどいてよ。俺はリョウに用があるんだけど」


真っ直ぐな目で剣を構えるセオに、クルハは苛立ちを覚えた。


「あー、やだやだ。なんかお前俺の大嫌いな奴に似てる。そうやって馬鹿みたいにリョウを庇う姿なんて嫌になるくらいだわ」


気怠そうに愛刀を鞘から引き抜く。

気付いた時にはクルハはセオに斬りかかっていた。


「ぐっ!!」

「おっと、よく止めたね。ほんと腹立つ」


騒めく森の前で激しい剣戟の音が響く。

リョウは真っ青になった。


「や、やめて!!やめてクルハ兄様!!」

「その白々しい兄様ってのもムカつく。お前、何ヒガ一族気取ってんの?」

「!!」


凍りついたリョウにクルハは嘲るように笑った。


「お前なんかただの疫病神だわ。連れ戻したがるレオ兄も、お前を可愛がるアイトも正気じゃないね。俺が今ここで斬り捨てて永遠に見つからないように埋めてやろうか!!」


クルハは更に勢いを増しセオを攻め立てた。

しかもこんな時だというのに群れを成したルナハクトの男達がこっちへ追いついてきた。


「リオ!!そいつらを足止めしろ!!」

「うわわ!!ど、どどうしよう!?こんなのどうすればいいの!?」


リョウは蒼く光ると砂に叫んだ。


「お願い!!今度は森の中まで!!」


リョウを中心に砂漠の地が再び大きく畝る。

クルハは突然動きだした足元に驚きセオから飛び離れた。


「な…」


リョウはバンビの手を掴みセオに飛びついた。


「さぁ、行こう!!大神の森へ!!」

「リョウ!?」

「リョウ!!待っ…!!」


砂漠の砂は真下から突き上げるように三人を空へ持ち上げ、そのまま森のど真ん中へと崩れ落ちていった。

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