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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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風来坊の三男クルハ

時は数日遡る。

リョウが再び砂漠へ消えた後、新都ではそれなりの騒ぎが起こっていた。

バルゴは憤怒の形相で届けられた報告書を机に叩きつけた。


「ルナハクトが街に侵入していた可能性がある。やはりリョウ様は奴らと関わりがあったようですね」

「そうとも限らん。赤い光の中に消えたという報告もある」

「いえ、それ以外考えられません。それにしてもまんまと逃すとは…貴方に任せたのは間違いでしたよ」


相手をしていたレオは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

バルゴは別の書類をレオに突き出した。


「先日の会議でグレイシス軍が砂漠の無法者一掃に乗り出すことが決定しています。下手をすればリョウ様も巻き込まれかねませんぞ」

「いやにあいつを気にするじゃないか。何か理由でも?」


バルゴはどす黒い顔でレオを睨んだがふいと背を向けた。


「…私はグレイシス軍に同行します」

「お前自らが?」

「グレイシス軍は砂漠のスペシャリストですからそう危険はありませんよ。護衛の手配もこちらでしますのでご心配なく」


バルゴはさっさと退室しようとしたが、その背にレオが声をかけた。


「護衛ならクルハを同行させよう」


バルゴはぴたりと足を止め振り返った。


「…クルハ様を、ですか?」

「あいつならこの上ない護衛だろう?リョウをとっ捕まえるのにも適任だ」

「…」

「それとも俺の弟をつけることに何か不満でも?」

「いえ…」


バルゴは渋い顔になったがここは反発しなかった。


「分かりました。よろしくお願いします」


上部だけの礼を言うとさっさと部屋を出て行く。

レオは忌々しげに舌打ちをすると窓の外を見下ろした。


「自ら出向くとは…。バルゴめ、よほど痺れを切らしたか」


一族の長兄レオに対し、分家の筆頭であるバルゴは一応従順に従っている。

だがヒガの当主不在が続くこの数年で明らかにバルゴは権力を食い荒らしてきた。

レオはずっとバルゴに目を光らせてきたが、それにしてもリョウにあそこまで執着するとは予想外だ。


「奴め、まさか…」


レオはしばらく熟考すると急ぎ足で部屋を出て行った。

二日後。

グレイシス軍は、ここ最近では最大の規模で砂漠へ乗り出していた。

指揮をとるのはグレイシス一族重鎮の一人、ガン・グレイシスだ。

普段は新都に近づいた砂獣を追い払ったり砂漠に住みつく盗賊を退治するのが仕事だが、今回は遠征して深部にまで踏み込むのだから大変に気合が入っている。

バルゴは砂漠専用の強化車を出させると、軍用車両の隣を並走した。

後部座席に座るバルゴの隣には、成人を迎えて間もない青年が一人乗っていた。

青年は手も足もだらしなく伸ばしながら背もたれに身を預け、大きなあくびをしている。


「ふわあぁぁ。もう、嫌になっちゃうよね砂漠なんて。熱いし寒いし怠いったらないわ」

「クルハ様。グレイシス家の者たちの前でそんなだらしない格好をしていると旦那様の顔に泥を塗りますぞ」

「文句ならレオ兄に言ってくれる?呼び出されたこっちも迷惑なんだけど」


たらたらと喋るのはこの青年のいつもの癖だ。

ヒガ家の三男クルハはいつでもどこでもマイペースな風来坊だ。

ちゃんとすればかなりの色男だろうが、見るからに気怠そうな態度が全てを台無しにしている。

長く伸びた髪は雑に括り付けられ、甘く下がった目尻は既に眠そうだ。


「それにしても砂漠遠征なんて馬鹿なことするよね。百年前に何万人も砂漠へ攻め入って壊滅したこと、もう忘れたのかね」

「あれは突如現れた巨大流砂のせいです。運悪く自然の力に巻き込まれたのですよ」

「ふぅん…」


クルハは意味深な目になった。


「やっぱりそうやって隠すんだ」

「何のことです?」

「別にぃ」


面倒臭そうに手をひらひらとさせる。


「それにしてもバルゴもリョウなんか気にしないで放っとけばいいのに」

「リョウ様はルナハクトを見つけ出す手がかりになるかもしれません。今回の遠征で上手く奴らのアジトを発見し取り押さえられれば砂漠縦断が可能になります」

「ルナハクトね…」


砂漠最大の無法者集団であるルナハクトは砂漠を南下する者を片っ端から襲う厄介者だ。

どこから集まったのかは謎だが、嘘か本当か砂獣を操ることも出来る組織ばった集まりだと言われている。

今回の遠征の最終目的はルナハクトの一掃。

グレイシス軍は出くわす砂獣を片っ端から薙ぎ倒し、迷いなくぐんぐんと南へと進んだ。

遺跡を迂回し、本格的に南部へ突入したのは出発してから三日目だった。

ここから先は砂獣の種類も量も一気に増える警戒レベル5の地域だ。

グレイシス軍は目指していたオアシスに辿り着くと、一度体制を整え直すために早めにキャンプの準備を始めた。


「やれやれ。やっと今日はまともなご飯が食べられる」


クルハは外の空気を吸うと凝り固まった体を伸ばした。

バルゴの護衛として来ているだけだから、砂漠に出てからここまで一度も愛刀は抜いていない。

あくせく動く兵たちを暇そうに見ているとガン・グレイシスがこっちに近付いてきた。


「バルゴ殿、偵察ご苦労様です。ずっと車に乗っているのも大変であったでしょう」

「いえいえ。あなた方グレイシス軍の見事な砂漠攻略には心底感服致しましたぞ。こうして間近で見ることができて大変勉強になりました」


バルゴが愛想良く言うもガン・グレイシスは難しい顔になった。


「砂漠が本当に恐ろしいのはここから先の南部です。何が起こるのか私たちにも分からないのですからね。

バルゴ殿も引き返されるのでしたらこの辺りで考えた方が良いのかもしれません」

「御心配なく。貴方の元愛弟子も側につけてる事ですしね」


バルゴの視線を受けてクルハはのんびり頭の上で手を組んだ。


「ガンさんー、本気でルナハクトに喧嘩売る気?」

「当たり前だ。今回こそはあのネズミ共を炙り出してくれるわ。クルハ、お前もヒガ家を背負う気がないならそろそろこっちへ戻って来い。俺ならお前の実力を遊ばせたままにしてはおかないぞ」

「げげっ。ぜってーいかねぇ」


ガンは相変わらずな青年に肩をすくめた。


「それにしてもお前がこんな砂漠の遠征について来るとはな。少しは成長したか」

「好き好んで来るわけないだろ?しゃーなしだよ、しゃーなし」

「明日からが本番だ。お前も遊んではいられなくなるだろう。文句言ってないで今夜はキャンプ場でしっかり睡眠をとるんだぞ」

「えー…俺は今日も車の中でいい。砂の上にシート引いて寝るなんて考えるだけで肌が乾燥してくる」

「お前は本当に…あれだけの腕前のくせにどうしていつまでもそうなんだっ!!」


ガンは大いに嘆いたがクルハはどこ吹く風で無視をして歩きだした。


「おい、何処へ行くつもりだ?」

「散歩だよ散歩」

「クルハ!!」


クルハはひらひらと手を振ると口煩い大人達から離れるようにオアシスから出た。

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