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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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ウソだらけのリョウ

リョウは熱い太陽が照りつける砂漠に出ると心いっぱいに息を吸い込んだ。

焼け付く風だって新都の空気なんかより断然気持ちがいい。

振り返ると大きく手を振った。


「バンビちゃーん!!こっちこっちぃ!!」


バンビは慌ててリョウについてきた。


「リョウ!!丸腰で砂漠なんかウロウロしたら危ないわよ!!砂獣が出たらどうするの!?」

「平気だよ。セオがいるから」

「…で、見せたいものって何よ?」


リョウはにっこり笑うと新しく紐を通してもらった結晶石を首からかけた。


「バンビちゃん、おれのこと見ててね」


リョウは胸に手を当てると光のイメージを浮かべた。

風とは違う動きでリョウの髪がふわりと波打つ。

途端に蒼い光がリョウを取り囲んだ。


「な、何!?」

「ふぅ、だいぶ上手に光れるようになってきたなぁ」

「これって…!!」


リョウは驚くバンビを置いて砂の小山へと飛び出した。


「リョウ!!」


軽快な音を立てて砂を滑り下りていく。

リョウは気持ちよく滑り終えると追い着いてきたバンビにニコニコしながら言った。


「これがおれの力だよ」

「やっぱりリョウは砂漠の民なのね!?」

「うん。でも出来るのはこの砂滑りだけなんだ。ねぇ、おれってそんなに危険?」


あどけない顔で言われてもバンビは何も言えなかった。

話に聞く砂漠の民は国を滅ぼすほど恐ろしいと言われていたのに、それがリョウと今一繋がらない。


「ねぇ、昔はどうだか知らないけれど、おれも連れて行かれた二人も全然危険なんかじゃないよ。バンビちゃん、お願いだから二人を返すように言ってくれないかな」

「で、でも…」

「大事な仲間なんだ。今頃どんな目に遭ってるのかと思うと…。おれからすれば攫っていった人たちの方がよっぽど酷いよ。おれたちは砂の中でひっそりと生きているだけなのに」


笑顔がなくなる代わりに瞳に涙が溜まっていく。

今にも泣き出しそうなリョウにバンビは狼狽えた。


「泣かないで。心配しなくても貴方の仲間は絶対に酷い目になんて遭っていないわ。あそこの規律はめちゃくちゃ正しくて厳しいのよ」

「うん、でも、でも…」


リョウはぐいと涙を拭うと真剣な眼差しでバンビを見上げた。


「バンビちゃん。もしどうしても無理なら、おれを二人の身代わりにしてくれないかな」

「え…?」

「おれなら男だし、絶対に言うことだって聞くよ」

「リョウ…」


バンビは仲間を思い項垂れるリョウに胸を打たれた。

それから自分がとても酷いことをしている気持ちになった。


「分かった。ボスに話をしてみるわ。どうなるかは分からないけど…」

「本当!?」

「話をするだけよ?私に決定権はないんだから。でも絶対に酷い目になんて遭わせたりしないわ」


リョウは同情を誘うには充分な儚げな笑みを浮かべた。


「バンビちゃんありがとう。優しい人…」

「でも、基地まで戻れないことにはどうしようもないわ」

「それは大丈夫。移動手段ならセオがなんとかしてくれるから」


セオの名にバンビの眉が寄る。


「あいつに何ができるっていうのよ」

「セオは何でもできるんだよ」

「あいつも、砂漠の民なの…?」

「ううん。セオはただの、おれの世話をしてくれてる変な奴だよ」


身も蓋もない嘘だが、リョウはすました顔でセオのことを隠した。

話がつくとリョウは砂山の向こうで待たせていたセオを呼びに行った。

交渉内容を聞かせたくなくてわざわざ遠ざけていたのだ。


「おまたせっ」


リョウが滑り降りてくるとセオは不機嫌な顔で腕を組んでいた。


「…上手く行ったのかよ」

「モチロン。バンビちゃんの基地まで案内してくれるって」

「そうか」

「セオの言う通りバンビちゃんはその辺のただの荒くれ者の仲間じゃなかったよ。基地とかボスとか言ってたからそれなりに大きな組織みたい。それにセリー達も酷い扱いは受けてなさそうだよ」


セオはどことなく安堵したように見えた。


「一体どうやってあの女を説得したんだ?」

「え?まぁ、それはバンビちゃんが優しい人だったから情に訴えただけだよ」


リョウは笑ってごまかした。

リョウがしたことは、実はセオがしようとしていたことだった。

あえてその血筋を明かし、自分をエサにバンビの基地まで案内させようとしていたのだ。

それを聞いた時リョウは猛反対した。

これで本当にセオまで捕まったら洒落にならない。

そんなことしなくても自分が何とか上手く交渉すると力強く言い張った。

そうして半ば無理矢理セオと代わったリョウは、内緒であっさり自分を囮にしたのだ。

相変わらず嘘だらけの自分には嫌になるが、リョウに迷いはなかった。


「それで、ここは砂漠のどの辺なの?」

「丁度砂漠の真ん中付近へ出たようだな。真っ直ぐ南下できればいいが、砂漠のど真ん中は遺跡だらけで通りにくい。東回りは大分大回りだから必然と西回りのルートが最善なんだが…」


セオは南西から吹く風に目を細めた。


「何か問題があるの?」

「僅かにだが、火薬の匂いがする。それに巻き上がる砂の量がいつもより多い」

「…つまり?」

「大勢の人間が砂漠を縦断してる。それも武装した集団がな」

「え…」

「恐らく新都軍だ。懲りずに砂漠に乗り出してきたらしいな」


リョウは条件反射で身をすくめた。

リョウ達が戻ってこないのでバンビがサクサクと音を立てて砂を降りてきた。


「ちょっとリョウ、いつまで待てばいいの?」

「ごめん、ちょっと問題が発生したみたいでさ」


リョウがかいつまんで話すとバンビは空を見上げた。


「本当に新都軍がいるの?私には何にも聞こえないし砂漠の変化なんて分からないけど…」

「セオが言うなら間違い無いよ。どうしよう。東回りで行く?」

「そんな事したら今日中には辿り着けないわ。とりあえず本当に西回りは無理なのかみて見ましょうよ」


リョウはセオを見上げたが、そのセオは肩をすくめた。


「俺は言われるままに舵を切るだけだ。ルートはお前らが決めろ」

「何よ偉そうに。お世話がかりのくせにっ」

「お世話がかり…?」


リョウは慌てて大声を出すと二人の間に飛び込んだ。


「えーっとぉ!!と、とりあえずセオ!!時間が勿体無いし行こうよ!!あれ出して!!あのカッコイイやつ!!」


何とかなだめながらセオにバイクを出してもらうと、今度はバンビが大騒ぎをした。


「な、何よ今の!?あんた何したの!?今これ砂の中から出てきたの!?一体どうなってるの!?」


セオは完全無視をすると砂を払いバイクに跨った。

リョウが軽快にその後ろに飛び乗る。

座椅子はあと一人くらいなら充分に乗れるスペースがある。


「バンビちゃん、こっちだよ」


リョウが自分の後ろをポンポンとたたく。

バンビはまだ躊躇っていたが恐る恐るリョウの後ろへ跨った。


「かなり速いからおれにしっかりつかまっ…うわっ!!」

「きゃあぁ!!」


セオはバンビが乗ったのを確認したと同時に走り出していた。

リョウとバンビはどちらも前にしがみつきながらぎゃーぎゃー喚いている。

セオは二倍うるさくなった連れにうんざりしながらも最速で黄金の砂を駆け抜けた。

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