表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の月  作者: ちあき
第六章 放たれたカナリア
100/206

真の目的

エアクラフトの操縦士マカは挨拶に来たセリーに相好を崩していた。


「やぁセリーさん、初めてお目にかかります。噂通り美しいお方だ。今日の具合はどうですかな」


セリーの代わりにアイトが答えた。


「おかげさまで落ち着いております」

「おいおい、俺はセリーさんに聞いてるんだがね。あまり過保護に囲うのは良くないぞ」


アイトは年長者に逆らわずに頷いた。


「そうですね。すっかり癖になってしまって」

「ルナハクトのヒガ・アイト。お前も噂通りの奴だな。あっちではどうか知らんが、ここでは優遇されると思うなよ」


五十近い操縦士は腕を組みながら踏ん反り返った。

威厳を出そうとしたのだろうが、分かりやすいその態度は逆になんだか可愛く見える。


「まだ時間は早いが、エアクラフトの中に入るか?」

「いいのですか?」

「もちろんだとも。状況が状況だ。乗組員が揃えばすぐに砂漠へ飛ばしてやる」

「ありがとうございます。人数はどれくらいになるのでしょうか」

「コックピットに四人と調査隊が十人程度だ。そして客はお前らだけだな。心配しなくてもエアクラフトは五十人は乗れる。余裕さ余裕」


大声で笑うとマカはエアクラフトの入り口を開き中へ乗り込んだ。


「行こう」


アイトはセリーの手を取ると鉄の階段を登った。

中は思っていたよりも大分広かった。

機体の真ん中は機材などを積むためか、ぽっかりと空間が空いている。

置いてあるのは大きなコンテナが数個だけだ。

そこから前方へ移動すれば操縦室で、反対側に行けば最後尾までは食料などを乗せる倉庫になっている。

そして二階に上がれば全てが座席となっていた。

アイトとセリーは二階で出発を待つことにした。

しばらくすると調査隊が入り、乗組員も揃った。

マカは人数を確認してから指示を出した。


「おし、少し早いが出すか。調査隊はいつものように下で待機だな。離陸と着陸の時は揺れるからちゃんと座ってろよ」


程なくして船内にマカの声が響くと、エアクラフトは滑走路を走り出した。

凄まじいエンジン音を響かせ鉄の機体が空に向かう。

程なくしてエアクラフトは順調に地上を離れた。

窓の外から見える地上がどんどん遠ざかっていく。

数分すると機体は安定して飛び始めた。

そのまま何事もなくフライトは続いたが、少しすると急に階下が騒がしくなった。

セリーは通路の先を覗き込んだ。


「どうしたのかしら」

「僕が見てくるよ。セリーはここで…」


突然、アイトの言葉をかき消すようなけたたましい銃声が何発も聞こえてきた。

アイトは咄嗟にセリーを抱えて伏せた。


「レイマ…!」

「しっ」


耳をそばだてていると激しい喧騒が聞こえてくる。

これはただ事ではない。


「ここで待っていてくれ」

「でも…」

「すぐ戻る」


アイトは立ち上がると足音を殺し全神経を集中させて階段へ降りた。

そっと覗き込めば、そこには血を噴き出した調査隊の死体がごろごろと転がっていた。


「これは…一体!?」


操縦室からまた銃声が聞こえてくる。

アイトは刀を引き抜くと階下まで一気に跳んだ。


「な、なんだお前は!?」


調査隊の死体を調べていた黒服の男たちが一斉にアイトに銃を向ける。

だが引き金を引く前にその腕は残らず飛んだ。

凄まじい悲鳴を背に、アイトは血で汚れた愛刀を手にしたまま操縦室の扉を開けた。


「マカ!!」


マカは複雑な操縦盤の上で黒服の男に押さえつけられていた。

マカだけではない。

乗組員も全員頭に銃を突きつけられている。

マカはアイトに叫んだ。


「来るんじゃねぇ!!」

「まだ余計な奴が居たのか。殺れ」


マカを押さえている男が命令すると、アイトの前に黒服の者たちがずらりと並んだ。


「お前たちは何者だ!!」


間合いを取りながら、アイトは冷静に敵を観察した。

黒服は新都で見る素材だ。

足の運びは軍人のものではないが、明らかに玄人のものだ。

敵の持つ小太刀は通常より細く刃渡りは畝るような曲線になっている。

これは、どこかで見たことがある。


「アイト!!」


マカが叫んだと同時に黒服たちは一斉にアイトに小太刀を投げつけた。

アイトは次々と投じられる小太刀を叩き落としながらも、その独特な暗器にハッとした。


「そうか…お前らは新都の暗躍部隊!!カナリアの連中か!!」


黒服達の動きはぴたりと止まった。


「お前こそ何者だ…」


アイトへの警戒が一気に色濃くなる。

マカを抑えていた男はまじまじとアイトの顔を凝視した。

長い前髪で隠れている右目に気付くと、その顔は驚愕に変わった。


「アイト…。確か今アイトと言ったな。そうか、お前は官僚一族のヒガ・アイトか」


ざわりとカナリア達が騒めいた。

男はアイトが本物だと確信すると声高に笑い出した。


「ははははっ!!これはいい!!リョウ様だけでなくアイト様までお連れ出来れば旦那様がお喜びなさるぞ!!」

「リョウだと!?」

「はい。既に身柄は抑えてますからね。今からお迎えに行くところです」

「お前たちは一体誰の指示で動いている!?」

「貴方様には関係のない話だ。大人しくこのまま我らと共に新都まで来て頂きましょう」

「新都…」


アイトは鋭く構えると凄まじい勢いで頭を回転させた。


「そうか…。新都の真の狙いはカナリアにエアクラフトを奪わせることなのか!!」

「その通りだ。グレイシス軍にルナハクトを引き付けさせ、手薄になった森の入り口から傭兵共を連れて侵入したのさ」

「一体何故そこまで大掛かりな仕掛けをしてまでエアクラフトを…!!」


言いかけたアイトはある可能性に気付き血の気が引いた。


「まさか…死の太陽…」

「ほう、流石だな。新都にいない貴方が一体どんな手段でそんな情報を得るのやら」


死の太陽。

新都に眠る、国をも滅ぼす二つの爆弾。

打ち込む手段がないからこそ、今まで地下に封じられてきたのだ。

だがこのエアクラフトなら、死の太陽を運ぶことが出来る。

新都は最強の武器を手にウォーター・シストを屈するつもりだ。


「さぁ、アイト様。どうやら貴方様もこの素晴らしい舞台に参加できそうですよ。武器を捨て共に参りましょう」


男の合図で黒服たちは一斉にアイトに襲いかかった。

アイトは後ろに飛ぶとコンテナと死体が転がる中央部へ出た。

三人の男が同時に突っ込んでくると、体勢を低く構えツバメのようにその間を駆け抜ける。

三人の胸から一斉に血しぶきが噴き上がった。


「ぐ…、速い!!」

「手強いぞ!!」


黒服達はアイトから揃って距離をとった。

普段のアイトからは考えられないほどの冷たい殺気が立ち上る。

その時、上からか細い声がした。


「レイマ…?」


アイトはハッとして階段を見上げた。


「セリー!!来るな!!」


アイトが叫んだ時には遅かった。

あっという間に何人かが跳んだかと思うと、セリーを抱えて階下に飛び降りてきた。

アイトは完全にセリーの事を失念していた自分に舌打ちをした。


「さて。お約束なセリフで悪いが、この女の命が惜しいなら大人しくその武器を捨ててもらおうか」


アイトは夥しい血を吸った刀を床に突き刺した。


「彼女を離せ」


セリーを捕らえた男はしばらくアイトを見下ろしていたが、仲間と目配せをすると四人同時にアイトに近付いた。

他に隠し武器がないか調べてからセリーをアイトに突き出す。


「…レイマ、レイマごめんなさい…私…」

「いいんだ。一人にして悪かった」


黒服達はアイトとセリーの両手を縄で縛ると奥の倉庫へ放り込んだ。


「このまま大人しくしててくださいよ、ヒガのアイトさま」


アイトは無情に閉められた扉を厳しい目で睨んでいた。

カナリアはシステム的に独自では動けない集団のはずだ。

そして頭の固い八官僚が揃えばこんな柔軟な策など通るはずもない。

誰かが裏から官僚を操り、カナリアに支持を通しているはずだ。

考え込んでいるとセリーが震えながら泣き出した。


「ごめんなさい…ごめんなさい…。私のせいで…」

「セリー…」


アイトは考えることを止めセリーに寄り添った。


「セリーのせいじゃない。すまない。一人残しておいた僕が悪かったんだ」


アイトの胸に頬を寄せるとセリーは泣きながら言葉を落とした。


「愛してるわ。レイマ…」


アイトの瞳に憂いが混じる。

それでも一つ深呼吸をすると、レイマとしての言葉を返した。


「僕も、愛してるよセリー…」


二人が体を寄せていると、機体が大きく下降し始めた。

窓の外に広がるのはサンクラシクス大聖堂だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ