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砂漠の月  作者: ちあき
第一章 砂漠の夢
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リョウの素質

リョウは全く眠る気になれず深夜までベッドの上で膝を抱え込んでいた。

昔から言われ続けていた出来損ないという言葉が、さっきからずっと頭を離れない。

もともと未熟児として生まれたリョウは今だに同年代と比べても体は小さく、思うように出来ないことが多かった。


「はぁ…」


重いため息が何度もこぼれ落ちていく。

今夜は全てが変わる気がしていた。

きっと自分は生まれ変わったように新しくなるのだと。

それなのに突きつけられたのは、やはり出来損ないだという現実だけだった。

この落差は思った以上にリョウを打ちのめした。


「今更こんなことでめげるなんてバカみたいだ。しっかりしなきゃ…」


大丈夫。

明日になればまたこの鬱々とした気分もすぐに消える。

こんなのいつものことだ。

リョウは自分に言い聞かせながら手足を投げ出しベッドに転がった。

目を閉じて呼吸に耳を澄ませていると、扉の前でうろうろと動く僅かな足音に気付いた。

この家で足音がするのは自分以外一人しかいない。

リョウはすぐに体を起こすとそっと扉に近付いた。

取っ手に手をかけようとしたら、その扉が向こう側から少し開いた。


「…リョウ」

「なに?」

「うわあぁ!!」

「ぎゃあぁあぁ!?」


予想外に目の前にいたリョウに、セオは驚いて飛び退いた。

逆に急に目の前で叫ばれたリョウも驚いて思い切り尻餅をついた。


「お、おまっ…お前、何してるんだよそんな所で!?ずっといたのか!?」

「びっくりさせないでよセオ!!足音がしたから見に来ただけだよ!!」


壁に張り付いたセオと尻餅をついたリョウが喚き合う。

だがその滑稽な姿が何だかおかしくて、二人は揃って力が抜けた。


「ふっ…ふふ。セオ、いいカッコー」

「お前こそ、涙目になってるぞ」


セオはリョウの元に歩み寄り黙って手を差し出した。

リョウは驚いて目を丸くした。


「起きてるなら来いよ。今度は俺がお前の力を見てやる」

「え…」


リョウは不安そうにセオを見上げた。

もう一度自分の頼りない力を見せつけられるのも、セオに見られるのも嫌だった。

手を取ろうとしないリョウに焦れたセオは、その細い腕を掴むと無理矢理立たせた。


「早くしないと俺の気が変わるぞ」

「でも…俺なんかどう頑張っても無理だよ」

「足元の砂が動くなら何とかしてやる」

「セオが…?」

「ああ」


これはきっと軽口で傷付けたセオなりの詫びなのだとリョウは感じとった。

自分なんてこの数日でどれほど迷惑をかけたか分からないのに、セオはたったあれだけのことでもちゃんとここに来てくれた。

切れ長の目は鋭いし見た目は冷たいのに、やっぱりセオは優しい。


「…じゃあ、行く」

「よし」


リョウはさっきまでの殺伐とした気持ちが嘘のように吹き飛ぶと、セオに懐きながらその後ろについて行った。

深夜を回った砂漠はさっきとはまた違う風情だった。

白銀だった月は、今は眩しいくらいの金色だ。

さくさくと砂を踏む二人の足音だけが、散りばめられたの星の中へと吸い込まれていく。

セオは砂山の天辺で足を止めた。


「ここでいい。ほら、これかけてろ」


ポケットから長い紐のついた石を出すとリョウの首にかける。


「何これ?」

「大地の意思が宿る結晶石だ。これがあればセリーたちに頼らずとも地力が使える」

「きれい…宝石みたい」

「どの宝石よりも希少価値が高いぞ」

「うげっ」


リョウは指先で石をつまんだ。


「それってめちゃくちゃ高いんじゃないの?」

「値段には変えられん。ほら、早くやってみろ。その石に集中するんだ」

「どうするのか分からないよ」

「お前の光は何色だったんだ?」

「…あお」

「じゃあそれをイメージすればいい」


それならば出来そうだ。

結晶石を握りセリーが褒めてくれた蒼い光を思い出す。

すると徐々に体が熱くなり、風とは違う何かがリョウの髪を波打たせた。


「出来るじゃないか」


セオに言われて目を開くとちゃんと蒼い光がリョウを取り巻いていた。

セオはリョウの足元の砂が僅かに動いているのを見るとにやりと笑った。


「ちゃんと学習も出来てる。見ろ、何もしなくてもお前の足元の砂はもう反応しているぞ」

「あ、本当だ。さっきと同じ…」


どこに足をついてもその下の砂がざわりと動く。


「リョウ、波乗りを見たことはあるか?」

「え?あぁ、テレビで見たことくらいなら…」

「イメージはそれだ。ほら行って来い」

「え?ちょっ…セオ!?」


セオは有無を言わせず鋭角な傾斜にリョウを突き飛ばした。

大きく飛んだリョウは何とか必死に両足で着地した。

だが本番はここからだった。

足元が勝手に砂の上を滑りだしたのだ。


「ちょっ!!ちょっとちょっとセオぉおぉ!?」


冷たい夜風が頬をきる。

焦りはしたものの、小柄なリョウはバランス感覚だけは抜群にいい。

蒼い光を纏いながら、軽快に砂を滑り降り始めた。


「波、波…波乗りの、イメージぃぃ!!」


必死で滑る足元に集中する。

止まり方なんて考える暇もなかった。


「…やるな」


高みから滑り落ちて行くリョウを眺めていたセオは感心して頷いた。

あれはセオ自身が五つの頃によくしていた遊びだ。

リョウならそれなりに出来るだろうとぶっつけ本番でやらせてみたが、予想外にいい滑りっぷりだ。

下まで着いたら勝手にすっ転んで止まるだろうと懐かしい気持ちで見ていたが、その時突然砂に異変が起こった。


「何だ…?」


そろそろ到着という所で、リョウの周りの砂が大きくうねり始めたのだ。

自分は何もしていない。

ということはあのうねりはリョウが無意識にしているものだ。


「リョウ!!」


セオは大声で呼んだがリョウには届かない。

スピードに乗ったままのリョウは、目の前のうねりを冷静に見上げていた。

足元の砂が大きく盛り上がるとそれに合わせて体を反転させる。


「波乗り、波乗りぃ!!」


もはや呪文のようにその言葉を叫びながら今までとは逆に滑り始める。

完全に感覚を掴んだリョウは段々楽しくなってきた。

まるで満天の星の中を体一つで飛んでいるみたいに爽快だ。

リョウは遠目に見えるセオに気付くと大きく手を振った。


「…ッセオーー!!これ、さいっこーだぁ!!」


はしゃぎながら新たな波に身を任せる。

セオは海のように波打つ砂に唖然としていた。


「な…なんだあいつ。砂男どころじゃないぞ。なんて潜在能力…!!」


無邪気に大喜びするリョウとは反対に、セオは目の前をうねる巨大な力に冷や汗を流していた。

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