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砂漠の月  作者: ちあき
第一章 砂漠の夢
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リョウとセオ

黄金の月が禍々しく変わる時

血を分けた蒼き破滅は時を超えて現れる

それは全てを無に返す

虚無なる砂漠の王也


人生きる者たちよ

王を起こしてはならぬ

その姿を目にした者は

自ずとその命を捧げる贄となる

人生きる者たちよ

歴史の歪みに刮目せよ

過ちは…


「過ちは繰り返すべからず」

「その通りだ」


四番目の兄は、きちんと暗唱を終えた末の弟の襟首をがしりと掴んだ。


「で、こんな月明かりの眩しい夜中に、砂漠にしか続かない道に出て、本気でそんなものを探すつもりだったのか?リョウ」

「うん。だって見たいじゃん、砂漠の王」


兄は相変わらず小柄で幼い弟にがっくりとした。


「あのな、夜の砂漠へ踏み入れればどうなるか分かってるのか?砂狼に襲われれば怪我じゃ済まないんだぞ!?」


本気で怒られているにも関わらず、リョウは嬉しそうに瞬きをした。

柔らかいクリームイエローの髪がふわりと揺れる。


「…アイ兄だけだね」

「え?」

「おれを、ちゃんと見てくれてるのって」


リョウは手を伸ばすと兄の首に巻きついた。

兄はため息をこぼすとそのまま小さな弟を抱え上げ、元来た道をゆっくりと戻った。





ーーーーーーーーーーー





リョウはひんやりとした感触で目を覚ました。

夢から覚め切らぬ瞼が、何度も見慣れない白い天井を見ながら瞬く。


「アイ兄…?」


声にしてすぐに気付く。

アイトがいたのは、二年前までだったということに。

体を起こすと酷い目眩に襲われた。


「うぅ、気持ち悪い。おれ…何してたんだっけ?」


額から冷たいタオルがずれ落ちる。

ひんやりしたのはこれだったようだ。

部屋をぼけっと見回していると、ステンレスの扉が小さな音を立てて開いた。


「よぉ、やっと目が覚めたのか」

「だれ…?」


リョウは部屋に現れた全く見知らぬ青年にきょとんとした。

落ち着いた物腰だが二十歳には届いていなさそうだ。

背は高く、細身なのに張りのある体はしなやかに引き締まっている。

黒いシャツから覗く肌は健康的な色に焼け、肩で一つくくりにした黒髪も艶やかだ。

そして何より際立つのは、整ったその顔立ちだった。

切れ長の目にはまるで宝石のような青い瞳がくっきりと煌いている。


「砂漠の…王さま?」


あんな夢を見ていたせいか、リョウは何も考えずに言葉を落とした。

案の定青年は訝しげな顔になった。


「何だ?」

「あ、いや。なんでもない。それよりここはどこ?」

「お前何も覚えてないのか?」


青年は手にしていた薬箱を丸い木のテーブルに乗せた。


「見せろ」

「何を?」

「左足首だ」


言われて足を掛け布団から出すと、そこには物々しい包帯が巻かれていた。

青年はテキパキと包帯を外し、まだ生々しい傷に薬を塗った。


「い、痛い!!」

「砂狼にやられたんだろう。お前そんな軽装でよく砂漠なんかうろついてたな。怪我の他にも酷い脱水症状と高熱だったんだぞ」

「あ…」


思い出した。

自分は家出をしたのだった。

青年は随分顔色の良くなったリョウのおでこに手を当てた。


「熱はもう大丈夫そうだな。家はどこだ?新都までなら送ってやるよ」

「ここは新都じゃないの?」


青年は新しい包帯を巻き直しながら躊躇いがちに言った。


「ここは砂漠の…砂の中だ」

「砂の中??」

「お前、重症だったからな。仕方なく俺の隠れ家に入れたんだよ」

「隠れ家…砂漠…」


リョウのミルクティ色の瞳がきらりと光った。

なんてこった。

ここは新都から家出してきた自分にはぴったりの行き着き場所だ。


「で、お前んちは新都のどこなんだ?砂漠に歩いて来たということはヒガのサスペルドかクォッカの入り口辺りか?」

「ない…」

「は?」


リョウは目一杯瞳をうるうると潤ませると青年を見上げた。


「おれ、どこから来たか分かんない…」

「あぁ?」

「どうしよう。おれ、何にも分かんないよぉ!!」


突然大いに嘆き出したリョウに青年は焦った。


「ちょっ、おい…」

「帰れないよぉおお!」

「だから、落ち着…」

「どーしよぉおお!!」


十四の少年にしてはかなり幼い嘆き方だが、相変わらず小柄でともすれば女の子にも見えるくらい小動物なリョウがすると、なんとも違和感がない。

青年は両手を伸ばしリョウを制止した。


「分かった!!分かったから!!まだ混乱してるだけだろうから落ち着くまでは待ってやる!!」

「え、いいの?」


ぱっと上げたその顔には、今の涙もどこへやら嬉しそうな笑顔が浮かんでいる。

その変わり様に青年はまたたじろいだ。


「おれ、リョウ。おにーさん、何ていうの?」

「オニーサン…」

「うん。名前、何ていうの?」


きらきらと輝く純真なミルクティ色の瞳。

一歩も引く気のない無邪気な笑顔に、黙り込んでいた青年はついに折れた。


「…セオ」

「セオ!!よろしくセオ!!」


差し出された手をただ見つめていると、痺れを切らせたリョウはセオの大きな手を自分から掴んだ。


「よろしくくらいしてよ。しばらく一緒に暮らすんだから」

「…あぁ!?」


さらりと言い切ると、リョウは眩しい笑顔のままぶんぶんと元気良くセオと握手を…ほぼ無理やり交わした。

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