望愛と、二人の帰り道
この部室には、コスプレ衣装が多数並べられている。涼成でも、壁には、見たことのない奇抜なデザインの服がかけられていた。
望愛は、この部室にあるコスプレ衣装を興味深そうにして見ていた。
涼成も、それに合わせて望愛と一緒に見る。
「これなんかいいね!」
そう言い、壁にかけられているコスプレ衣装のうち一つを取った望愛。
「思いっきり胸が空いているぞ……エッチなのはいけないだとか言っていたのに」
俺がそうい言うと、望愛は腕をバタバタとさせ始めた。
「いいの! 涼成は、どんなかっこをしたところで、どうせ胸とおしりしか見ないんでしょう? そういうエッチがだめなの!」
つまり、『涼成の視線がいやらしい』だとか、そういう事を言いたいようだ。
「望愛ちゃん……面白いのを選んだね? どうだい? 今からそれに着替えてみるかい?」
熏晴が言う。望愛はそれに『うんうん……』と、首を縦に振った。
『熏晴……カメラの用意をするな……』
涼成は、部屋の奥に行って、カメラの用意をし始める熏晴を見た。熏晴は、奥の部屋から、いくつものカメラを持ってきて、それを部員全員に渡す。
ついたての向こう側で、望愛が着替えている衣擦れの音がする。それを聞くと、部員達の期待が高まっていった。
「コミケでもなかなかお目にかかれないわ……こんな美人のコスプレ……」
そう言ったのは、この部の女子部員だった。涼成は一度、熏晴に紹介をされたことがある。
熏晴の知り合いということで紹介されたのだが、満さんを紹介された時は、『熏晴がよくこんな人と知り合いになれたな?』と不思議に思ったものだ。
今、カメラを持って、鼻息を荒くしているのを見ると、『なるほど、熏晴の同類だ……』などと、涼成も思った。
望愛が、コスプレ衣装を着てついたての向こう側から出てくると、部員全員が、デジカメのシャッターを切った。
それに驚き、望愛はまたついたての向こう側に隠れてしまった。
「出てきなよ。人に見せなきゃ、コスプレをしている意味はないって……」
熏晴がそう言う。望愛はそれで、少し体をついたての向こう側から出してきた。
だが、そこにいくつものデジカメのシャッターを切る音が聞こえてきて、また望愛はついたての向こうに隠れてしまった。
「涼成……助けて……」
ついたての向こう側から、顔だけを出しながら、涼成に向けて言う望愛。
涼成は、そういわれ、頭を掻いた。
「なによ! 私が助けてあげましょうか? その白い肌や、きれいな髪に合法的に触れる権利を……」
満さんがそう言い出す。満さんに任せたら、望愛に心の傷が植えつけられかねない。
『やっぱダメだ……俺が出るしかなさそうだ』そう考えながら、涼成は、望愛の所にまで行った。
涼成は、望愛のいるついたての向こうにまで行き、潤んだ目で涼成の事を見上げる望愛の手を取った。
「なんのためにコスプレをしたんだ?」
そう言い、涼成は、望愛をついたての向こう側に引っ張っていった。
「りょうせ……」
そこまで望愛が言うが、望愛はもう体全部がカメラに晒されてしまっていた。
「ほら……ピースしてやれ……」
涼成は、望愛の手を取り、それに合わせて望愛が手をピースの形にした。
そうすると、またカメラのフラッシュがどんどんと望愛に降り注いた。
ぎこちなく、恥ずかしげにしている望愛だったが、それにも慣れてきて、最後には笑顔を浮かべるほどであった。
「あー! 楽しかった!」
涼成と、望愛が一緒になって帰ってくる。涼成に抱きつくことはなくなったものの、望愛は、今でも涼成の隣を歩いている。
今は熏晴も玲一もいない。完全に望愛と涼成の二人だけで、帰り道を歩いていた。
「お前ってどこに住んでいるんだ?」
そう聞くと、望愛は答えなかった。
「お前はどこから来たんだ?」
その質問にも、望愛は答えなかった。
「なんで、そんなに俺にベタベタするんだ?」
そう涼成が言い、望愛はやっと答えをだした。
「涼成は、私の羽が見える存在だから」
そう言うと、望愛は飛び上がった。そして、塀の上に上り、両腕を広げてバランスを取りながら塀の上を歩いていく。
「私ってこの世界に来たとき不安だったの」
望愛は、塀の上を歩きながら言う。
「みんな、人類は滅亡をされるべきだって、言ってる」
望愛はそう言いながら、涼成と隣り合って歩いた。
望愛はこの世界が好きだが、自分の事を見える人間が、どんどん減っているのに、寂しさを感じていた。
自分の事を見える人間なんて、もう小さな子供くらいしかいない。その子供たちも、一人、また一人と、自分の事が見えなくなってくる。
「この世界で生きるって事は、純粋ではなくなるって事なんだって、すごく感じる」
だが、望愛はまだこの世界に絶望をしたわけじゃない。まだ、自分の羽を見ることが出来る人がいるのだ。
こういう人が一人でもいれば、この世界も悪いものじゃないなって思う事ができる。
「私は、この世界を崩壊させることは反対」
人間も、日々一生懸命になって生きている。夢を追う者、楽しく遊ぶ者。それらが溢れているこの世界はかけがえのないものだと思う。
人の命を生み出したのが、神だとしても、生み出された命を勝手に殺していいという意味にはならない。
「だから、私は、この世界を壊したくない。人間の素晴らしさを知って、体験したい」
そう言い、望愛は塀の上でクルリと回った。
スカートが跳ね上がり、そこから、望愛のパンツが見える。
「なんか、見えても何も嬉しくないんだけど……」
涼成が言う。それを聞くと、驚いてスカートを押さえた。
「ちょっと待て……今から朝のハンマーで殴られるって事はないよな……」
そう涼成は言うが、望愛はハンマーを取り出す。
「うがぁ!」
そう女の子らしくない声を上げた望愛は、おもいっきり涼成にハンマーを振り下ろした。




