望愛のハンマー
望愛のハンマーは特殊で、殴られても傷一つできない。だが、痛みは残る。今回は腹の部分にハンマーが打ち込まれたため、まるで、内臓破裂でもしたような痛みが涼成を襲っている。
家に着くと、涼成は思う。
「メシとか食えそうにないな……」
胃が、グチャグチャになってでもいるような痛みを感じる涼成。
これだけ痛みを感じていても、実際は傷一つないのだ。望愛がやってきたという、天界が、拷問器具でも作れば、とんでもなくえげつないものが作られる事だろう。
望愛はその件が起こってから、先へと歩いて行ってしまった。涼成は、それを見送った。
そこに携帯が鳴る。発信者の名前を見ると、『サラ』と、書いてあった。
「もしもし、上手くやってる?」
サラの声が聞こえる。涼成は、頭をかいて答える。
「わかんね。望愛は自分の気持ちを、そこそこ話してくれるようになったけど……」
涼成には、。これがうまくいっているのか? それが分からない。だが、望愛には近づけたと、そう思う。
「うん、上出来。望愛は涼成になついているならそれでいい。いい遊び場所も見つけたようだし……」
あのコスプレ研究会も、サラに言わせれば、ただの遊び場らしい。涼成は、サラの言葉をうんざりして聞いた。
「兆候はいい。望愛自身、スイッチを押す気はないようだし、このまま上手くやれば、望愛は使命を果たして、天界に戻ることになる」
「天界ね……」
涼成は疑いながら言った。天界なんて、見たこともなければ、聞いたこともない。そんな場所が本当にあるか? 疑問に思うところだった。
「信じなくてもいい、涼成は、望愛に楽しんでもらいたいでしょう?」
極論を言えばそうである。涼成は、自分になついてくる女の子に、楽しんでもらいたいと思っている。世界の滅亡を止めるとか、そんなものは関係なく。一人の女の子に笑顔でいてもらいたい。そういうつもりで望愛と一緒にいるのだ。
「その純粋な気持ちを持ち続けていれば、望愛はこの世界にいる事に満足をしていく。特に気張ったりもしないで、今のまま進んでいけばいい」
サラは言った。そうすれば、涼成はこのまま話を続けてくれるであろうと、思っているようだ。
サラは電話を切った。
涼成が家に帰ると、自分の部屋に戻った。
「何を話してたの?」
一緒に帰っていた望愛は言う。「涼成の部屋を見てみたい」と言って、やや強引に涼成の部屋に上がり込んだのだ。
「別に……これから、どうやってお前に人間の素晴しさを知ってもらおうか? ってな」
「ふーん。私、あのサラって子が嫌いだな……いっつも何かおびえているような感じがする。私がそんなに怖いかな……?」
涼成からみれば、サラはクールで恐怖をしているようには見えない。望愛は違うように見えるのだろうか?
「だが、そうだな、そのスイッチを持っているってだけで、お前に怯えるには十分だと思うぞ」
人類全てを滅亡させる事のできる力などを持っているのだ。そりゃ、望愛の事を怖がるなという方が難しいことだろう。
「別に何もしないのに……やっぱ人間の心が荒んでしまったからかなぁ?」
望愛が言う。涼成はそれを聞き、眉根を寄せた。
「どんな関係がある?」
望愛は、何かにつけて、人の心が荒んだことが原因だの言う。涼成にとっても、そんな話の結論をつけられるのは、心外だ。
「だって、前回降りてきたときは、私の事を見ると神だの天女だのといまつり上げて、おもてなしをしてくれたものなのに……今じゃ、はれものに触るような扱いをしてさ……」
昔の人ってこんな事までしていたのか……
涼成はそう思う。だが、今の人にしては、神などというのは存在しないものである。
確かに、空からの使いがやってきたら驚くだろう。それで珍しさで祭り上げたりしたのだろうな?
そこまで考えて、涼成は首を振った。
今は今のやり方で、望愛に人間の素晴らしさを伝えればいい。
「そうは言っても結局熏晴のオタ趣味に付き合わせるしかないのか……」
今のところ、一番の望愛の反応がいいのは、熏晴のコスプレ研究会だ。
涼成は、熏晴に借りをつくるのが嫌だったが、こうなってしまえば、熏晴に頼るしかない。
「あいつの事だから、散々に威張り散らすんだろうな……」
涼成はそう考える。
これからは、熏晴に頭が上がらなくなるのだろうという事と考えると、頭が痛くなってきた。
「今日も……?」
涼成が目の前の後継を見て言う。
涼成は、いつもよりも早めに目を覚ました。
玲一の方から、今日の朝も迎えに行くというメールをもらっていた。多分熏晴も一緒だろう。
熏晴のやつはともかく、玲一を待たせるわけにはいかない。今日は早めに家を出ようと思って、目覚ましのセットを一時間早くしたのだ。
だが、それでも涼成が起きたときには、望愛が台所にいた。母と一緒になって味噌汁を作っているところだった。
「今日は、何をしに来たんだ……?」
涼成が聞くと、望愛は、涼成のことを向いてパタパタと手を振った。
「おはよー涼成。今日は過ごしやすくていい日だね」
気温が下がったのは、望愛が爆発させた火山のせいだろう……そう考えた涼成は、溜息を吐いた。
ついでに、食卓で料理ができるのを待っているサラがいた。
涼成はサラに向けて言う。
「これから毎日来る気か?」
サラはそれに首を横に振った。
「朝のこの時間くらいしか、望愛を監視する時間がない。私は望愛についてきただけ」
サラは淡々とそう言う。『毎日来る気かどうか? は、望愛に聞いて』と、いう事だろう。
望愛は涼成の母と一緒に和気あいあいといった感じで味噌汁を作っていた。サラは、望愛の様子を見ているのか? ずっと前の方を向いて、全く微動だにしなかった。
「望愛ちゃんが、うちの涼成と一緒になってくれたらいいのに。このスケベな嫌われ者は、望愛ちゃんくらいしか、相手がいないだろう」
勝手なことを言いだす父。
「顏洗ってくる」
そう言い、涼成は、洗面所に向かった。




