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オズ  作者: みえさん。
三章 海に棲む魔物
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『んで、嬢ちゃんからもこころよく貸してもらいたいものがあるんだ』

 そう言われて少女は「いやだ」と言いたい衝動に駆られた。

 彼が何を貸してもらいたいと言っているのかはすぐに分かった。そんなことも分からない程バカではない。

 ユマは一通りの作業を終えて小さなパソコンを閉じた。朝からずっとこの調子だったから身体も痛いし、目も大分疲れてしまった。けれど、こればっかりは時間が許す限り、続けるしかないことだ。

 何しろメンテナンスをしなければならないロボットを増やしてしまったのだ。もとよりヴィズが自ら異常を完治出来るために他の機械のように逐一検索にかける必要はない。ただ、彼に新しい機能をプログラムしたり使ってもいなかった機能を使うとなると話は別になってくる。

 正直このために数日頑張っていた訳ではないが、役に立つと分かった時は自分に先見の明があるのではないかと思ったくらいだ。

 海は大戦で汚染されている。

 人間は潜れない。長時間に渡って触れること自体が危険なのだ。潜水艇で潜り「魔物」を見つける。出来るなら排除、出来なくても回避することでこの船を沈めないようにする。それがレオの目的だった。

 作戦内容を聞いた時、正直彼がただの大酒のみ出なかったことに感心した。

 魔物を捜す際、潜水艇では限度がある。予測した通りであればそれは小回りが利く大きさのものだろう。探して排除するとなれば潜水艇よりもっと小型なものが潜る必要がある。探索ようの小型マシンを使ってもいいだろうが、それでは排除も遭遇時の自己判断もできない。どちらも出来るのはヴィズだけしかいない。彼は呼吸をしなくても平気だ。この条件だとドロシーにも当てはまるのだが、彼女の場合、

(沈むのよねぇ)

 パソコンに頬杖をついて彼女は最愛のアンドロイドのことを思い出す。

 ドロシーは表面を柔らかい樹脂で覆っているとはいえ半分以上金属だ。しかし、ヴィズは違う。限りなく人間に近づけるために、重い金属が使われているのは最小限にとどめられている。海に関する項目、ソフトのメンテナンスは終わったばかり。潜るには問題のない条件だ。

 ただ、彼を危険にさらすのは嫌だった。

 世界でただ一つの成長する心を持つアンドロイド。世界でただ一人の大切な人。

 万が一にも失うことがあれば自分は日本に向かう意味をも失う。

 だが、彼女は判断を本人に任せた。

 彼が「はい」と答えることは分かっていたが、返事は自分でさせたかった。

 ヴィズは一瞬伺うような目で自分の方を見た。あえて彼女が気付かないふりをした。彼は彼の判断で「僕に出来るのでしたら」と返事をした。望む通りにならなかった落胆と彼が自己判断した事への安堵が同時に襲って妙な気分になった。

(それにしてもレオってトラブルメーカーみたいね。先が思いやられるわ)

 それでも、面白い。

 ヴィズと、レオと、ドロシー。彼らがいれば迷ったり悩んでいたりする暇なんてない。今まで生きていた数十倍も充実した日々を過ごせるはずだ。

 だから面白い。



「ちょっと待て、ヴィズはともかくユマちゃんまで連れて行くつもりか?」

 船員に問われてレオは当たり前だ、と頷く。

「こいつは俺よかずっと機械に詳しいぜ」

「だからってこんな小さい子に」

 本気で心配している。

 研究所では「ガキのくせに」などと罵られたこともあったが、外の世界では違う。ユマは大人の中にいる小賢しい子供ではなく、守られるべき存在なのだ。彼らもきっとユマがあの天才アキヤマの娘だと知ったら普通に行かせただろう。

 ユマはあくまでレオの愛娘を演じた。

「心配してくれてありがとう、おじさん。でも、私パパと一緒がいいの。それにパパったら機械音痴なのよ。破壊の名人なの」

「まぁ、そう言うことだ。一応こいつ免許持ってるから問題ないだろ」

 しかし、と反論しかけた男たちにレオは真顔で大丈夫だ、と宣言した。

 もとより船員達が行うべき魔物退治を自ら買って出てくれたのだ。危険を承知で出て行く男に娘一人置いていけなどと言えるはずもない。娘も戦力であり、自ら行くことを了承しているのだ。それ以上誰も言わなかった。

「じゃあ、行ってくる」

 レオはユマを肩に載せるように抱きかかえて潜水艇に飛び乗った。

 定員六名ほどの船内は思っていたよりも狭くない。緊急用の酸素マスクや脱出用カプセルなどが用意されていたが、それが使われることの無いようにと密かに祈った。



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