第1話:封神演義
【予知夢】
薄暗い国会議事堂の地下、「対外危機特別委員会」の議場。そこは、理性を失った狂乱の渦中にあった。
中央の巨大スクリーンには、安倍家の当主・安倍陸巴が視た「一週間後の地獄」が、血統術**『六壬神課』**によって生々しく投影されている。
【戦の炎】
スクリーンの中では、一千万のインド軍が誇る近代兵器の粋が、あまりにも無様に、そして徹底的に蹂躙されていた。
数千機のステルス戦闘機から放たれた空対地ミサイルの群れは、岳飛孫恵が展開した**仙術奥義『封神演義』**の黄金の幾何学模様に触れた瞬間、紙屑のように分解され、火花すら上げずに虚空へ消えていく。
「化け物め、火力が足りんというのか!」
アショーカ王の悲痛な叫びを嘲笑うかのように、岳飛が地を叩く。
地中から這い出した数百万の式神『兵馬俑坑』。土塊の兵たちは、一発で都市を壊滅させるはずの電磁加速砲の直撃を受けても、瞬時に周囲の砂塵を取り込んで再生し、止まることなく進軍する。
兵馬俑の軍団が主力戦車の列に到達すると、そこはもはや戦場ではなく屠殺場と化した。土の兵士が放つ古びた槍の一突きが、複合装甲を豆腐のように貫き、内部の弾薬庫を誘爆させる。逃げ惑う兵士たちが放つ自動小銃の弾丸は、兵馬俑の皮膚に弾かれ、逆にその跳弾が自軍をなぎ倒していく。近代兵器という「文明の力」が、古の「神秘」の前に、ただの鉄屑として積み上がっていく。
【宝具の威力】
「神を、恐れぬか……!」
アショーカ王が金剛杵**『ヴァジュラ』から解き放った最大出力の雷光。それすらも、岳飛が駆る白馬が跳ね上げると、雷は霧散し、背後のヒマラヤ山脈の峰々を消し飛ばすだけの余波に成り果てた。その混乱の最中、岳飛の放った宝具『天穿槍』**が、光の尾を引いてアショーカ王の首を鮮やかに刈り取った。
【荒れる国政】
「――以上が、一週間後の現実です」
陸巴が静かに告げると、議場はパニックに陥った。
「馬鹿な! 一千万の軍勢だぞ! 国家一つが滅ぶのに十分もかからんというのか!」
「今すぐ防衛予算を十倍にしろ! 術師を、もっと術師を集めろ!」
醜く叫び、机を叩く議員たち。
その喧騒を見下ろす特別席に、**「日の国の四柱」**の四名が座していた。
久瀬、枢木、加茂、そして予知を終えた安倍陸巴。
彼らは慌てふためく大人たちを、凍りついたような冷徹な目線で眺めていた。
「無意味な議論だ。兵器を増やしたところで、あの『封神演義』の前では鉄の塊に過ぎないというのに」
枢木家の当主が、低く冷ややかな声で切り捨てる。彼らには分かっていた。もはや旧来の戦力では、真中華の英雄を止めることは不可能であることを。
【不穏な知らせ】
一週間後。
日本の街頭ビジョンには、予知夢と寸分違わぬ「インド平定」のニュースが流れていた。
崩落したヒマラヤの空撮映像を背景に、ニュースキャスターが切迫した面持ちで語りかける。
『――世界は今、一人の英雄によって塗り替えられました。政府はこの事態を重く受け止め、既存の術師養成教育機関に対し、追加投資一兆円の補正予算投入を緊急決定しました。明日より、全国の各機関において最新鋭の霊力増幅機材および模擬戦設備の拡充が開始されます。また、全教育機関において潜在的な術師素質を持つ若者の発掘を目的とした「適性検査」が完全義務化されます。我が国の存亡は、次世代の術師たちの双肩に懸かっています……』
デジタル新聞の見出しに躍る『天穿槍』の文字。
そのニュースを見つめる群衆の中に、まだ自らの運命を知らない、物語の主人公の姿があった。




