19コマ目 スッピンだと気付かれない系男子
俺の名前は高壁守。色々あった人だ。
「………」
音を立てないようにコーヒーをすすり、静かにカップを置く。
来ているのは“カフェウェスト”。以前彼女と来たのだが、店の雰囲気が良く料理も美味しいので時々こうして足を運んでいる。
ここで優雅にティータイムごっこに興じて過ごすと、なかなかに気分が良くなる。
俺は見た目だけは美人なので、はたから見れば画になっていることだろう。まあそれはどうでもいい。
案外こういうセレブごっこみたいなことをするのは楽しいものだ。心に余裕が出来るような気もする…お金がかからなければ。
注文はコーヒー1杯なのでそんなに高くつくことは無いし、居心地も良い。ずっとこのままで居たい気分すらする。
「よう、守。」
「………」
一瞬誰か分からなかった。
見知らぬ誰かが馴れ馴れしく話しかけてきたと思ったので警戒したのだが、すぐに思い出した。
「あ、宗司か。てっきりナンパか何かかと思ったぞ。」
「…やっぱメイクして女物の服を着て来た方が良いか?」
「ゴメンって。女装してないお前を見るのが本当に珍しくてな…」
その正体は普通の格好をした宗司だった。
よく見ればいくらか共通するパーツはあるのだが、やっぱり全体的に見ると誰だお前である。普段の女装では相当凝ったメイクをしているらしい。
「それに関しちゃ守は悪くないか…
それより、守もこういうとこ来るんだな。意外って訳でもないけど驚いたな。」
「まあな。良いところだろ?」
「ああ、たまに来てみようかな…華代も連れてきたいな。」
華代と言うのは宗司の彼女だ。
ここ最近は彼氏を着飾る楽しみに目覚めてしまったそうだが…それでも大事な彼女らしく、たまに惚気話を聞かされる。
「デートには良いかもしれないな。俺も津瑠と来たし。」
「そうなのか。今度誘ってみよ。
あ、すいません。注文お願いします。」
雰囲気を読んでか、声を抑えめにして注文を出す宗司。
来たのは見知った顔だった。
「ん? …マナ、コスプレして何してんの?」
宗司がコスプレと言ったのも無理は無い。注文を取りに来たのはメイド服姿のマナだったからだ。
この店の従業員の制服はメイド服染みているので、そう言う店なのかと勘違いしてしまう客もいるらしい。オムライス頼んでおまじないお願いしますとか言ってる客見たことあるし。
無論そんなことは無く、普通の店だ。メイド服っぽいのは店長の趣味なのかもしれないし、他の理由があるのかもしれない。
「…え? 誰?」
「宗司だよ。今日は女装してないんだ。」
「………あー! 悪い悪い! いや、本当にわざとじゃないんだわざとじゃ!」
「…やっぱ俺、出掛ける時は女装してないとだめなのかな。」
「しなくて良いから! 悪かったって本当に!」
「あー、うん。とりあえず話が進まなそうだから納得しとく。
で、そのコスプレ何?」
「コスプレじゃなくて制服だ。バイトしてんの、ここで。」
「っていうかお前ここでバイトしてたのか…」
「こういう格好するから、あんまり知り合いに知られたくなくてさー…言ってなかったんだ。
守とか他の知り合いは自力でここに辿り着いたわけだし、宗司を除け者にしてたわけじゃないぞ。」
「なるほどな。いや、除け者とかの心配はしてなかったけどさ。俺とマナって結構接点少ないし。」
「そう言えばそうだな…守はよくワオンモールで会うけど、宗司とは会わないな。」
「女装してない宗司とは初めて会う気がするぞ。」
「…………」
「悪かったって!」




