12コマ目 異世界では
なげぇ。
俺の名前は高壁守。色々あった人だ。
「なあ守。お前が異世界に行ったって知ってる人はどれくらいいるんだ?」
コイツは宇露マナ。トランスジェンダーって言ってるけど多分TSした友達だ。
「あんまり話してないはずだな。それこそ知ってるのは俺の両親と異世界に一緒に行った友達…それとお前の身内くらいだと思うぞ?」
「そうなのか…って、言いふらしてもそう信じられる話じゃないか。」
「証拠は見せられるけど、そんなことしたらそれこそ化け物扱いだ。」
「…もう手遅れなんじゃないか? “怪物美女”さん。」
「その話そっちにも広まってたのか…!」
“怪物美女”というのは不本意ながら俺の事だ。
美しい容姿に反し、人ならざる圧倒的な力を持っていると言われる謎の人物―――という都市伝説染みた話だ。マナにも知られてしまっている辺り随分と広まってしまっているらしい。可能であれば消し去りたい。
「向こうではどんなことがあったんだ?」
「色々あったぞ。創作物のテンプレは一通り経験したんじゃないかなってくらいだ。」
「…ふーん…じゃあ、TSは?」
「した。瑠間と同じ感じだった。」
「…入れ替わり。」
「した。」
「い、異世界転移…!」
「そもそも異世界での話じゃなかったのか…?
いや、したけどさ。平行世界やらなんやらかなり転移したけどさ。」
「じゃあ転生は?」
「流石に死んでないからしてないな…あ、でも人としての高壁守は死んだって言えるのか? 普通の人間じゃなくなったし。」
こじつけが過ぎるか。
「せめて異世界転移もののテンプレに限定してくれ。」
「そう言われてもな…一通り経験したって言ったのは守だし。」
「あー、一応色々経験しては来てるからな。流石に経験してないテンプレもあるか。冒険者みたいな奴もやってないし。」
「そっか。
んー…あと何した? ラブコメ?」
「…まあ、彼女は居るし。したって言えばした…のか?
他にはそうだな…幽霊に会って憑りつかれたこともあったし、幽霊みたいになったこともあったし。」
「人生経験の濃度が半端ないなお前…」
「皆の性別が逆の平行世界にも行ったし、何故か俺がモテモテになってる平行世界にも行ったし…」
「…聞けば聞く程そっくりだな。」
「え? 何に?」
「実はさ、主人公が守っぽいネット小説見つけたんだけど…」
と言って、マナはスマホを操作し始める。
一分弱だろうか。それくらいで俺のスマホにマナから着信が入り、小説サイトへのURLが送られてきた。
「これは……あぁ…」
すぐさま開き、タイトルと作者の名前を見て全てを察した。
「…これ、俺の知り合いの仕業だ。」
「マジで? じゃあこれ全部本当なのか?」
「読まないと何とも言えないけど、多分大まかなところは合ってるんだろうな。
実は、俺の異世界に行った時の事がめっちゃ美化してラブコメ化されたみたいな小説を書いてた奴が居たんだけどさ…ペンネームはソイツだしタイトルもまんまだ。読んだ時は地獄だったな…」
「地獄?」
「光も移図離も脈無しなのに、その小説ではしっかりヒロインの一人にされてんだよ…」
「ああ、そういう…」
「多分そいつがそっくりそのままネットに上げたんだろうな。
あ、そう言えばその小説の原作全巻俺の家にあるけど読むか? 異世界語だけど本に翻訳魔法がかけられてるから読めるぞ。」
「いいいいいい! そんなもん持ち出すな見られたらどうすんだ! 世間に公表されたらやべーことになるだろそれ! 異世界の存在が実証されるってのはそうだけど文字と翻訳魔法の研究とかされたら色々あって世界中大混乱じゃないのか!?」
「大混乱までの間端折りすぎだろ…まあ確かにそうだな。家に厳重に保管しとく。」
「是非ともそうしてくれ。
…ちなみにその本で、そっちの世界の俺がその世界の守に落とされたりしてないよな?」
「マナは出てないから大丈…」
…待てよ。
そう言えばあの本の世界ってマジで平行世界があったんだよな…(さっき言ってた俺がモテモテになってる世界の事)
「…大丈夫だ、多分。」
「おい、今なんで言い直した? なんで多分ってつけた?」
「気にすんな気にすんな。ほら、お前んち今日はカレーなんだろ? 二日目が美味いんだから早く帰って食えよ。」
「そんなこと誰も言ってねーし二日目のカレーと帰宅時間は関係ねえよ!」




