第二十二話
それから俺と東堂さんは街を歩き、宿に帰った。
結局手を繋いだのは少しの時間で、ふいに彼女が「やっぱ、熱い」っといって手を離した。
確かに手が若干蒸れていたことは俺も感じ「熱い」とは思っていましたよ。でも、でも、もう少しぐらい繋いでいても良いのでは?とも思ったり。この焦らされた心ががやがやと胸をつつく。
だが彼女はそんな事なさそうだった、全くの普段通り。
その姿にちょっとショックを受けながらも、多分、東堂さんは恥ずかしかったんではないかと予測。それで熱いという言い訳で手を離し、すまし顔をしていると。まぁ、すべては推測ですがね。
それに、この事が他の皆にばれたくないんだと思いますよ。
口コミで町の人からパーティーのメンバーに伝わる可能性がありますからね。
そしたらあれですよ、それってあれじゃん。
男女混合グループでカップルができると、ほら、あれだから、すっごく気まずいじゃん。「私達、今日から突き合います(きゃぴ)!」見たいなのは中学までだから。
いろいろ面倒を避けようとしたのではないかと思うのですよ。因みに、付き合いではなく、突き合いと思ったのでは誤字ではなく、そういう意味ですよ、ぐへへへ。
という事で、なんとなく手を繋いで、なんとなく離しましたとさ。
それがいいってもんよ、よく分からない関係だけど、まぁそれでOKよ。
一時の気の迷いかもしれないから。
別に付き合うとかそういうわけじゃないはず。
お互いにちょっと好きだと分かったから手を繋いでみた、以上、終了、ただそれだけの事。ただの言葉遊びと皮膚接触よ。
でも、最大の懸念が一つある訳よ。
「ただいま。田中君」
「おつかれ、河合さん」
エンジェルボイスを発声しながら、俺と東堂さんしかいない部屋に帰ってくる彼女。
そう、俺のマイプリティエンジェル河合さんよ。彼女の存在が問題なわけよ。
相変わらず、ひょこひょこ動きながらジャケットをぬくっと脱ぐ彼女は愛らしい。
だがね、それを見てると東堂さんから殺気がくるわけですよ。そしてそれに反応して目をそらす俺。
人生の楽しみがまた一つ消えていく。いと憐れなり。
そう、河合さんを可愛いな、萌えるなっと思うと大変な視線で射抜かれちゃうんですよ。
バッキュン。なんで?
「あれ?どうしたの?田中君、顔、ひきつってるよ」
「顔の体操してるんだ。健康にいいんだ」
「そうなんだ。私もしようかなぁ~」
「だめだよ」
かわいい河合さんの顔が歪むのはだめなんですよ。
でもちょっと見て見たい、願わくは私目がそのかわいいお顔に触れて、くしゃーっと皮膚を歪めたいですが、それはダメですか?
「実は、この顔面体操デメリットがあって、やると1/10000の確率で死ぬんだよ。顔の秘孔を知らず知らずのうちについてね」
「へぇ~そうなんだぁ」
あれ?適当な話なのに信じてるっぽい表情。
大丈夫かな、河合さん、この話を他に人にしないかな。それ、絶対に痛い人を見る目で見られるから。でも河合さんなら「かわいいなぁ」ぐらいで許されるかも。
「それより、田中君、今日はどうだった?」
「今日は・・・」
という事で、街を歩いた事を話した。
色々この世界の事を知ったことも。
東堂さんが興味なさそうな顔をしながらも、耳だけしっかり傾けてこちらの話を聞いているのを感じる。
あくまでここではいつも通りの態度だ。つまり、「田中、きしょ!」っである。
っと、そんな話をしていると、
「ただいま」
「おっす」
徹君と埼玉君も帰ってきた。
「おつかれ」
「お疲れ様です」
「おっつー」
我がパーティー全員勢揃い、ゲッツ。
なんだかかんだ、5人が揃うと和むわ~。
仲間って感じですな、まだ二日目だけど。
ぐだぐた話をして時間が経過する。本当にあっという間だった。
これがリア中フィールドか~っとしみじみ思う。
ついにこの技を使える用になりましたよ、なんかふわふわして楽しかったわい。
「それで、今後の事なんだけど、これからの目標を決めたいんだ」
徹君の言葉に、ウンウンと頷く一同。
そうだな、目標は大事だ。俺もそう思う。
俺、目標とかすっかり忘れてましたよ、頭の中は東堂さんの事一択でした。
「それで、皆の意見を聞きたいんだ。僕は、冒険者を目指すべきだと思ってる。一度は残念な結果になったけど。やっぱり上を目指したい」
そうだな、皆能力は低いけど、何らかの特殊能力があるはずだ。
それを鍛えれば俺TUEEEできるはず。
そうなる日も遠くはないだろう。
「俺っちもそれがいいと思う。やっぱ、冒険者っしょ」
うえぇ~い埼玉君も賛成らしい。
ガッツポーズみたいなのしてますよ、やる気満々。
「私もそれがいいと思います。私も皆の力になりたいです」
素晴らしい答えだ河合さん。自分のためではなく皆のために。
オールフォーワン。個人はチームのために、チームは個人のために。
「あ~しもそれに賛成。それしかないっしょ。魔物駆逐するし」
おっ、俺の事が好きな東堂さんもやる気満々。何気なくいっちゃったけど、俺の、俺の事が好きな彼女だよ、やっほー。このセリフを使う時が来るとは、ひゃっはー。
次は俺の番かな。
「俺もいいと思う。特に理由ないけど」
そう、俺には理由などない。
というか、冒険者の事良く知らないよ。あれから東堂さんとイチャイチャ手を繋いでたせいで、全然会話が頭に入ってないんですよ、これがね。右からは入って左でした。
勉強するときは恋しちゃいけないね。大学落ちるわ。
「それじゃ、冒険者になろう。そのためには各自レベルを上げる必要がある。そのためには、かなり自力を上げる必要がある」
「そうっしょ」
「私も頑張る」
「あ~しもガンガン上げるよ」
うむうむ、そうだな。
なんか、すっごい頭悪そうなの混ざってるけど、今は気にしない!
というか、俺まだ結局自分のレベルが分からないですね。ステータスプレートないですから。そういえば皆のレベルも知らないなぁ~、どれぐらいなんだろう?
「それでだけど、ここ最近調べていたんだけど、レベルアップにはやっぱり魔物を倒すのが一番なんだ」
ふむふむ、まぁ、やっぱそうだよね、っと思ったが。
「「「!!!」」」
びくつく他の三人。
いや、本当に震えてますよ、この3人。どんだけトラウマなんですか。
それにしても、一緒にいたはずの徹君はそれを克服したのかな。さすがリーダー。
よっ、リーダーさん。
「皆が驚くのも分かるけど、それしかないんだ」
「そ、そうなんだ・・・」
「あ~しもいいけどぉ」
「わ、私も・・怖いけど~」
微妙な答えの皆さん。
「それはやめましょう」感満載の空気、やはりトラウマ?が消えていないのだろう。
その克服は頭で決めても中々難しいはず。
それなら、
それなら、
特に何のトラウマもない私目が、
僕、頑張るよ!
はい、二回目ですね、あざとかったかな。
「大丈夫、上手くいく方法を考えたんだ。今度は必ず倒せるはずだから」
「徹君がそこまいうなら」
「あぁ、任してくれ。それで、作戦なんだけど・・・」
彼は説明を始めた。
熱心に分かりやすく話す彼だが・・・
それは「え?」な感じだった。
え?それでいいの的な「え?」である。
本当にそれでいいの?
彼の作戦はこうだ。
まず、一人が魔物の親の注意を引く。
そして親がいなくなった所で、魔物の子どもを挑発して、落とし穴におびき寄せ落とす。その後、上から色んなもので滅多刺しにして殺す。相手が死なかったら、餓死するのを待つ。
どうでしょう?
かなり、えぐぐないですか?
確かに魔物が強いんだろうけど。まるでマンモスを狩る原始人です。ですがそこから、強敵に勝つにはそれしかないという、彼の本気を感じる。本気でやりにいっていますな。
というか、落とし穴で餓死狙うって、経験値貰えるのかな?落とし穴さんにいっちゃじゅないの?人じゃないけど。
それに井戸じゃないけど、貞子みたいに化けて呪いのビデオテープとか造られたら泣くよ、俺。魔物がTVの中からでてきたらそっちの方がヤバくないですかな。
「う、うぇ~い。徹君、それ、さすがにえぐくないっすか」
おっ、埼玉君は俺と同意らしい。
波乗りお調子者かと思ったら、意外と常識人らしい反応。
「わ、私も・・・ちょっとそれは・・・」
河合さんも乗り気ではないようだ。
彼女に残虐な事は似合いませんよ、なんせ天使だから。
そんな二人を見つめる徹君。
彼の表情は変わらない、まるでこの反応を最初から予測していたようだ。
多分、していたんだと思う。
「皆、これは必要な事だからやるんだ!普通にやってたらまず勝てないから。どんな手段でもまずは勝つ必要があるんだ。皆も、奴らがどれだけ強いか身に染みていると思う。だからまずはどんな敵でも、どんな方法でも倒して自信をつける事が必要だと僕は思うんだ」
徹君の熱のこもった演説に動揺する二人。
彼の声を熱心に聞き、拳を握りしめる彼ら。
え?あれ?まさか、あの二人・・・
「そ、そうですか・・・」
よかった~。
いきなり「やります!」とか言い出すかと思った。
さすがにそこまで流されやすくないだろう。
だが、徹君が動き、河合さんの両手を掴む。
くぅ~、な、なにしやがる、マイプリティエンジェルの手を何故触れておるのじゃ!
速攻その手を離しなさい!っと心の中で叫ぶが、徹君には届かない。
河合さんの瞳を見つめて、
「そうなんだ。河合さんの力が是非必要なんだ」
「私、頑張ります!」
か、軽いですぞ!河合氏、軽すぎでやんす。
だめでしょ、そんなに軽かったら、あなた、命かかってるんですよ。
「そんな気合見せられたら、俺っちもやるよ」
おっ、変なノリで合わせてきたよ、埼玉君。
なんかキザッっぽい雰囲気出してるけど、ちゃらさは消えていない。
徹君の圧倒的、圧倒的な巻き込み力。
営業のセンス有りますぞよ。
それより早く、河合さんから手を離しなさい。
即刻離しなさい。今すぐに。
さもなくば大変な目にあいますぞ。私の憎悪が徹君に向かいますぞ。
それを受けたのかどうか分からないが、さっと手を離す彼。
ふぅ~、良かった。一安心。
残る一人は、俺の事が好きな東堂さんぞよ。
「加奈はどうなんだ?」っと徹君。
って待て、今気付いたけどなんで俺が東堂さんという名字呼びで、他の者が名前呼びなんだよ。おかしくない、これ、おかしいよ、絶対おかしいよ。
「あ~しはそれでいいよ」
ですよね~、まだ足りないんじゃないですかね。東堂さん基準に合わせると、落とし穴に糞尿をためておく事が必要ですね。後、キモい虫でもたくさんつめこんでおく必要があるかも。ゴキブリ2万匹しきつめるとか。ごそごそパニックですな。俺がそこに落ちたら急性ゴキブリ―ショックで死ぬ。
徹君が俺を見るので、さっと答える。
「ノープロブレム」
どよ!このプロフェッショナルな答え。
なんていおうか考えてたけど、この一言よ!どや!
「そ、そうなんだ」見たいな微妙なリアクションの徹君。
その反応をみると、こちらが恥ずかしくなってくる。
なんか引いてますよ彼、おかしいな。
全く問題ないパーフェクトな回答かと思ったのに、ははは。
「それじゃ、今から落とし穴を掘りに行こう!時は急げだ」
それじゃって、全然っ繋がってないと思いますが。
それに何より、まじすか!
皆さん帰ってきたばかりだと思いますが。
仕事帰りにそれはきつくないですか?体力ありますね。
「いっちょやりますか!」
「私、頑張るね」
「あ~しはスコップ持たないよ」
おい、最後おかしいぞ。ちゃんと穴掘れよ。何しに行くんだよお前は!
現場監督か、何もしないおかざりの中間管理職かな?
後、河合さんさっきからそればっかだよ。
というか、皆意識高けえええ!
一人ぐらい反対者がでるかと思いきや、皆気合入りまくり。
まぁ、私も結構やる気出てますけどね。
「俺は掘るよ、掘っちゃうよ」
とりあえず、俺が東堂さんの分まで頑張っちゃいますアピール。
さりげなくフォロー。
「よし!皆、円陣をくもう!」
マジですか、そんなことするんですか?
リア充って奴は、凄いね。恥ずかしくてできないよって、俺もするのか。
今は俺もこの一団だった。
皆がさっと集まって円陣を組み、手を合わす。
そこに空くわずかなスペース。
おっ、俺の枠が開いているよ、さっと入っちゃいますよ。
そして円陣の中央で手を合わせる。
河合さんの手に触れたかったが、その手は下の方にあった。
っち、っと思いながら埼玉君の手の上に乗せる。
重なる手と手。皆の手に触れると不思議と力が沸いてくる。
密集しているせいか、妙な圧力と言うか、人の存在を感じる。
「魔物を倒してレベルアップする。いくぞ、みんな!」
「おうよ」
「はい」
「うし」
「?」
皆が呼応するがそのテンションに乗れずにいる俺。
だがお構いなしにそれは進んでいく。
「えい、えい」
「「「「おー!!!」」」
しまった!完全に出遅れた、声を出せなかった、タイミング逃してしまった。
次だ、次、っと思い、それに備えるが・・・
あれ?・・・声がしない。
さっと、手が離れる。
皆やりきった感満載。
埼玉君とか腕をぐるぐる回しちゃってるし、河合さんは両手の拳をかわいく握りしめている。東堂さんは、右手をブラブラ振っている。あれ?何やってるんだ・・・良く分からない。
っていうか、なんですと!一回で終わるんかいな。
不完全燃焼感MAX。
こういうのって普通、何回かやるんじゃないの?
アンコール!アンコール!アンコール!
っと心の中で声を上げるが、それは効果がないようだ。
それならば「俺が声出してない事がばれていませんように。お願いします」っと、心の中で願う。
「よっしゃー、穴掘るぞ!」
「私も掘ります」
「あ~しはパス」
男が穴を掘るっていうと、アレだなと思いました。
でも、俺も言っとくか。「えい、えい、おー」できなかったからね。
「穴掘るぞよ!」
これでOKよ。
穴掘っちゃうよ!ほりほりほじくりまわしてアナルカンよ!
ガンガンやっちゅうからね。
「よ~し。それじゃ、行こう。夜の外に」
さくっとボロボロの装備を着こみ、どどーっと出ていく一団。
勿論、その中に俺も入ってますよ、ニヤリ。




