14 特異事象調査課②
特異事象調査課による心霊捜査。13~15まで続く、連続エピソードとなります。
次回投稿10月24日となります。
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「これまた、はっきり映ってるねぇー」
いつの間にか麦沢が腕組みをして映像を見ていた。
「はい。清美病院で同様の目撃報告は複数ありますが、映像の証拠としてはこれが初めてです。可視できる状態であり、映像にも映る。力があり、危険な個体です。これは重要な手がかりになります」
サラミはそう言ってから、プロジェクターを切る。いつもの壁に戻った。
「これは……二人の体調は?」
岳川が煙草の煙を吐いた。
「公家又さんは退院して、今は落ち着いています。この後の聞き取り調査も問題ありません。ただ、宇養さんは衰弱が激しく入院中です」
「公家又さんへの聞き取り調査、他の被害者については水依と柿津に任せる」
柿津が腕組みを解いた。
「いいですか? 映像からわかる言葉は、ちゃんと不幸になって、じゃないと終わる、後は不明瞭ですが、いなくなる。恨みの言葉みたいですが、噂が核になるとしたら、院長に殺された患者の恨みにしては弱い」
「たしかにな」
岳川が煙草の煙を吐く。
「この特異事象は院長に殺された噂には影響を受けている感じはない。つまり、変異体ではなく、霊性体。この病院以外には移らず定着している土地残留型になりませんかね。しかも、過去の事例を見ると一階のフロアでは何も起こらない。二階という限定的な動きなのかなと。となると二階に何か重要な執着があるのかもしれませんね」
柿津が呟くように指摘した。柿津は科警研の出身で犯罪社会学者、宗教学、民俗学に造詣が深いことから、スカウトされた。サラミも参考になることが多い。
「そうだな。俺は病院周辺を含めて、事実関係を詳しく当たる。二つを総合してから、現地調査に行こう」
岳川が確認するように全員を見渡す。
「わかりました」
サラミは被害にあったウメカ、宇養のことを思い、拳を握り締める。昏睡状態の志野田モノミが頭に浮かんだ。こんな目に遭うのは理不尽だ。このまま、この特異事象を野放しにはしておけない。
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茨城県ひたちなか市の住宅街。三階建ての古びたアパートの一室でサラミは柿津と並んで、公家又ウメカとちゃぶ台越しに向かい合っていた。
目の前に置かれた湯飲みの茶から湯気が漂っている。
「ありがとうございます。警察の方がこんなよく分からないことに対処してくれるなんて」
「我々は専門部署です。この件の被害者はあなたたちだけじゃないですからね。早速……」
呟くように話す柿津にサラミが被せる。
「体調は大丈夫ですか?」
サラミは目の前に座る窶れたウメカを気遣う。
「はい、怠さはありますが、私はもう大丈夫です」
ウメカがこちらに目線を向けた。サラミは彼女に安心してもらうように微笑む。
柿津が一拍置いて、茫洋とした眼で尋ねた。
「当日の出来事について、詳しく教えてくれますか?」
「わかりました。清美病院に行こうって言い出したのはシイです。前からミーチューブに投稿できる動画の企画で行きたいって言っていて」
「場所について詳しいことは?」
「あの時、初めてシイに聞きました」
「病院に到着してからは?」
「中に入った時は、まだ普通でした。古い病院だなって思ったくらいで……シイも楽しそうで」
一瞬、ウメカの表情が曇る。
「でも、突然空気が変わったのは二階に上がって、ナースステーションの近くに行った辺りからです」
「壁の文字ですね」
柿津が確認する。
「はい。あれを見た時、嫌な感じがしました」
「何か聞こえましたか?」
「不幸になってとか……」
ウメカは視線を落とす。
「この後のことは覚えていますか?」
「断片的にしか。とんでもなく恐ろしかったことしか覚えてません。映像で初めて何があったかわかりました」
「恐怖以外に何か、感覚や感じたことは残っていますか?」
サラミの問いにウメカが考え込む。
「あれは……感情が入り込んだみたいで。その人は家庭のある男に酷い目に遭わせられてた。でも、大好きで、男が戻ってくると信じて、男の妻を不幸にしようとしたんです。でも、男はいつの間にか消えていた。そんな気持ちが頭に広がりました」
男女の嫉妬。男女。肝試しは男性のみで行ったグループのSNSでは何も起きないと書いてあった。さらに昼間に男女で行った場合も何も起きてない。サラミの心に何かが引っかかる。被害者には常に男女が含まれていた。時間帯は深夜のみで男性のみの被害や女性のみの被害はない。何かあるのだろうか。
「なるほど。公家又さんが出会ったような存在を我々は特異事象と呼称してます。簡単に言うと死者の意識です。だから、その意識が公家又さんの意識に流入することがある。女から流れ込んだイメージ、男について見覚えはありますか?」
隣の柿津が身を乗り出す。
「あやふやなんですが、頭に浮かんだのは薄笑いを浮かべた中年の男でした……」
「ありがとうございます」
そう言うと柿津は考えをまとめるようにブツブツと呟いた。ウメカがおずおずと尋ねた。
「あの良いですか……」
ウメカの眼に涙が浮かぶ。
「シイは大丈夫なんでしょうか?」
サラミは脳裏に浮かぶモノミを振り払い、ウメカの手を握る。
「医療機関に確認した情報だと、衰弱はしているけど回復に向かってます。心を強く持ってください」
ウメカがゆっくりと頷いた。彼女の手を強く握るが、横にいる柿津が心配そうな眼でこちらを見ている。
「後は私たちに任せてください」
サラミは決然と言った。
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黒いパーカーに坊主頭の男が電信柱の影で煙草を吸っている。
「行くか」
坊主頭の男、岳川セマキは短くなった煙草を携帯灰皿に入れてから、動き出した。
岳川は住宅街を進み、古びた一軒家で立ち止まる。表札には「清美」と書かれている。清美病院の院長、清美スワキの弟、ザシタの家だ。
インターホンを押す。しばらくして、五十代ほどの男性が顔を出した。
「連絡のあった警察の方ですか。清美ザシタです」
「特殊事象調査課の岳川です。清美先生について確認したいことがあります。お話を伺えますか?」
ザシタは不安そうな顔で岳川を家の中へ通した。
居間は古い家具が残されたままだった。ダイニングテーブルに腰を下ろした。テーブルにコーヒーが置かれる。
「お電話でも言いましたが、清美病院跡地で複数人が同じ内容の異常体験を訴えています。心身に障害を負った方もいます。単独の精神的な問題なのか、環境要因なのか、それとも別の事件性があるのか確認してます。清美スワキさんも自殺されているので、詳しく教えてもらえませんか?」
ザシタが苦虫を噛み潰したような表情になる。
「近隣に医療センターが建ちましてね。それだけでなく、近隣住人からの女遊びをする兄に対する目もあって、患者が減ったのもあるんでしょうね。結局、女遊びのせいで兄は離婚してますし」
「亡くなられたのは?」
「それから借金苦になり、酒浸りの日々でボロアパートの自宅で首を吊りました。清美病院が心霊スポットになっているのは知ってますが、そこでおかしくなったのと兄が自殺したのは別の気がします。兄は……完全に自業自得です」
岳川は腕を組んだ。女遊び、女の霊性体、ウメカの家庭のある男に酷い目に遭わせられた女のイメージ、繋がりが見える気がする。
「お兄さんのことをあまり言いたくないかもしれませんが、女遊びについて教えてくれませんか? それとわかればで良いんですが、清美病院で病死以外で亡くなった女性はいますか?」
ザシタの顔が青ざめる。
「知っているんですか? 当然ですよね……」
岳川は黙って、ザシタの様子を見る。彼は意を決したように話し始めた。
「兄のスワキは……家庭があるのに女遊びが激しくてね。女性患者にも手を出したことがある」
ザシタが眼を逸らす。岳川は何も言わずに続きを促すため、眼を見つめる。
「その方とは退院後も付き合いは続きましたが、兄の妻と別れないことを知ると激しく嫉妬したんでしょうね。兄は面倒になり、その方を捨てた」
岳川はコーヒーを啜る。
「それからも女性はストーカーのように兄をつけ回し、可哀想に……兄に弄ばれたその方は深夜に病院へと忍び込んで、当時入院していた部屋のドアで首をくくって亡くなりました。遺書には死んで兄の家庭を不幸にする。永遠に自分のものにすると書いてありました」
不幸。遺書には「不幸」という単語があったのだろう、恨むと書いてあれば恨むと書くはずだ。更に繋がる。
ザシタが俯く。
「最低なことに兄は懇意の警察に金を渡し、内々で事実を隠蔽した。病院から離れた森で自殺したことにしたんです」
ザシタが視線を落とす。
「その亡くなった女性患者の名前はわかりますか?」
「たしか……護持井、護持井キリコさんです」
「護持井キリコ」
岳川は呟く、彼女が霊性体の正体なのかもしれない。
ザシタからさらに詳細を聞いて、家を後にした。
特事課に戻り、護持井キリコについてのデータベースを当たった。隠蔽されているとは言え、自殺として処理はされている。茨城県警察で発生時期は約十年前。キーボードを叩く。あった。データを開いた。
「やはり、こいつに間違いないな」
シャープな卵型の輪郭に大きな目、整った顔をしたキリコの写真が載っていた。あの動画に映る特異事象の個体と特徴が一致する。
さらに清美スワキの画像を呼び起こす。サラミと柿津にウメカにスワキの画像確認を依頼した。暫くしてサラミから返信が来る。
「これで間違いないな」
ウメカの抱いた男のイメージはスワキと一致したと書いてあった。後は現地調査と被害者を増やさないように対処するのみだ。
岳川は思う。特異事象の捜査も普通の事件捜査も同じだ。特異事象の被害者だけ泣き寝入りする状況は刑事として絶対に許せない。




