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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第二章 溺愛陛下と仮王妃
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06 戴冠式は騒ぎと共に

「……じゃあ俺は先に戻る」


「分かりました」


 すっと儚く消えた貴重な彼の微笑みに惜しくなる。

 ふんっと相変わらず少し偉そうにしたアイザックに

 ふふっと笑いかけると彼は目線をそらして

 広間に戻っていった。


(……皆無事で良かった)


 木々か春の冷たい風に揺られているのを感慨深く見つめ、

 クレアはほっと息をついた。

 皆が帰ってきてどこか嬉しいような安心のような

 気持ちがあふれでる。


 ポンコツから身を隠したり、意地悪な令嬢たちから

 逃げるのは今までもおこなってきたことであるから

 問題なかったけれど、身を守るために騎士について

 もらったりするのはやはり疲れてしまった。


 令嬢時代にもそんなたいそうな騎士様なんておらず

 自分の身は自分で守るというのがモットーであったため、

 落ち着かなかったのだ。


「……さて、私も戻らなきゃ。

 肌寒いし、風邪ひいちゃう」


 既に半袖になった制服からでた二の腕をさすり、

 少しでも体温をあげようと試みるが、

 やはり寒いものは寒い。

 小走りでバルコニーから広間に入と

 するとそこに広がっているのはやはりあの光景で。


「どうしましょう、麗しい……。

 どうか私とどうか一回お茶でも……」

「いいえ!私とどうでしょうか!」


(お、恐ろしい……)


 カオスとでも表現しようか、

 いつも以上に豪華で派手な色とりどりのドレスを身にまとった

 令嬢たちが2人によってたかっている風景はなんとも言えない

 ものである。

 例えるなら、ウサギなどの草食動物に

 ライオンの群れがたかっている感じ。


 ギラギラと光る彼女たちの瞳にさすがのアイザックも

 苦笑いだし、ルイス王子にいたっては顔はひきつり、

 距離を詰められるたび一歩、二歩と下がっている。


(……御愁傷様です)


 誰にも見られない位置で軽く手を添え、2人の安全を

 祈る。だって彼女たちの取って食うような姿に危険が

 ありそうだったので。


 クレアは貴族たちの様子を複雑そうな顔で見ている

 メイド仲間たちのもとは戻る。

 令嬢たちの修羅場などはもう見飽きたぐらいで

 疲れた時に横たわって寝るくらいに余裕なのだが

 さすがにあの光景には後輩のメイドたちも引いている。


(まぁそうなるよね……)


 メイドたちにさえそんな顔をされる令嬢たちが

 少し不憫に思えて複雑になる。

 せめて上級貴族の娘なのだからもう少しおしとやかで

 余裕があってもいいと思うのだが、この国の令嬢たちは

 あきらかに肉食女子のようだ。


「静まれ!スティーブ陛下のお通りだ!」


「っ!」


 少し老けたキツネ顔の宰相がどどんと杖をつき、

 その場にいた人たちを凍りつける。

 その後ろにはやはりタヌキのような王様がたっている。

 ここ数年で少しまた太ったような気がするのは

 気のせいだろうか。

 ルイス王子と並んでたっているのを見ると、

 本当に血が繋がっているのかと疑問に思うほどだ。

 ルイス王子のお母さんの遺伝子がさぞかし強かったのだろう、

 としみじみ思う。


 王子は王様の前に膝まづくと、頭をたれた。

 その麗しい姿は従順な騎士にも見えて、

 令嬢たちは頬を染めてほぅと息をついた。


「……ルイス、よく帰った」


「は、父上もお元気そうで何よりです。

 ……兄上もお元気でしょうか」


「あ、あぁ。あやつも嫌気が差すくらい元気である」


 まだどぎまぎした王様の様子だが、気にせずにこりと

 微笑む王子に彼は少し口元が引くついている。

 やはり真王というのはそれだけ権威があるのか。


「そうですか、それは良かった」


 普通無下に扱われてきたポンコツ王子のことなど

 放っておけばいいのだが、そこまで気ににするのは

 やはりルイス王子の優しさからだろう。

 クールで無愛想な彼なりの変わらない優しさに

 こちらも嬉しくなる。

 すると、王子の脇から出てきたアイザックが

 陛下に作り笑いも作り笑い、恐ろしいほどの美しい笑顔を

 浮かべると、さすがの王様たちも何も文句は言えない。


「……陛下、王子。

 申し訳ございませんが、早速引き継ぎの儀式にわたって

 よろしいでしょうか?時間が押しておりますので」


「わ、分かっておる」


 短めな手足をいそいそと動かして王座のもとへ

 歩き、頭にのっていた大層な冠を少し惜しげに手に取った。

 そして、儀式に必要な定型文を口にする。


「えぇ…ここに誓う。

 レアリウス王国 現国王である我、スティーブ・ヴェルダー

 から次期国王を真王の紋章を宿すルイス・ヴェルダーに引き継ぐことをここに誓う。そして……」


 そこまで言うとポンコツ陛下は口を閉じ、ルイスの方を

 見た。そしての後には何が続くのかと皆興味津々に待つと、

 王子が綺麗な形の口を開いた。


「妃をクレア・アステリアにすることを誓う」


「ええ!?」


 どよどよと騒ぐ会場に思わず、クレアも焦る。

 まさかこの場面で言うとは思わず、慌てて身を隠すも

 既に遅い。クレアの名前などポンコツ王子のせいで

 しれわたっているのだから。


「え、クレアが!?」


「や、その……」


 まさかこんなところで言うとは思わず、声が裏返る。

 "クレア・アステリア"という負の象徴の名前に令嬢たちの

 目がまた違う恐ろしいぎらつきを放つ。

 いかにも"またお前が邪魔するのか"とでも言いたげである。


(た、助けて……)


 そんなクレアの悲痛な思いは蚊帳のそとで

 引き継ぎの儀式はてきぱきと進んでいく。


「……承知した。では我はこの王を示す冠を渡し、

 王の座を退こう」


「はい、私も共にこの場を引退いたします」


 タヌキとキツネが仲良くそう言うと、アイザックは

 少し顔を歪ませたが、そんなのは誰も気づかない。


「分かっているな、次期宰相はお前だ。

 ……それではよろしく頼む」


「はい、精進いたします」


 そうにこりと告げると、アイザックはくるりと身を反転し、

 騒ぎたてる貴族たちに早速指示を出す。

 その声は優しさの中に強制の意を込めながら。


「……では、これでパーティーを終わります。

 お集まりいただきありがとうございました」


「え、ちょっ!えぇ!?」


 誰もがそんな風にすっとんきょうな声を出すなか、

 クレアは腕をぐいっと引かれた。


「ほえっ!?」


 その瞬間手の甲に触れたのは先ほどまで令嬢に囲まれていた

 絶世の美青年の唇で。膝をついてこちらを小悪魔のような

 瞳で見つめる彼に胸が高鳴る。まだ彼の大変身についていけてないのは私だけなのか。バルコニーでの彼だけでもう心もいっぱいなのだけれど。

 見上げる彼の青の瞳を確認するように見ると

 バッチリとあってしまい、体中が弱パニックになる。


「僕の妃になってくれますね?」


 高く透き通った甘い声は脳内を占領するにはもう十分すぎて

 クレアは再びパンクするのだった。

 ……それから後は恥ずかしながら覚えてない。

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