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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第二章 溺愛陛下と仮王妃
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02 やってきたのはポンコツかい

「あら!?いけない!アタシまだ仕事あるんだったわぁ……

 残念だけどまたね、クレアちゃん」


「私も最後の調整がありますので」


「そうですか、じゃあまた」


 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 クレアは2人と別れてから4時間もの時間がたった。

 ようやくパーティーの準備が一通り終わり、

 時計の針は20時に差し掛かろうとしていた。

 もうすぐパーティー開始であるため、広間には

 たくさんの貴族たちが集っている。


(毎日憂鬱だったこのパーティーとも今日でお別れかぁ……)


 今日ルイスに王の座を引渡し、現ポンコツ陛下の

 王権は剥奪されるのだ。

 そのため、あの王子との約束を取り付けてから今日まで

 ささやかなパーティーを開いては喜ぶ

 省エネ王様になった。

 平民の税金も減り、助かっている人も多い。

 もちろん、私もその1人である。


「……まだ王子たちは帰ってこないんだ」


 パーティーでは貴族たちが仮面を被った会話を

 さぞ楽しげに繰り広げており、メイドである

 クレアは1人ぼーっとしていた。

 かつてはあの中に仮の笑顔であのようなところに

 立っていたのだと考えるとぞっとする。

 やはり貴族のこの風習はいつになっても消えないようだ。


(……といっても私は下級貴族だったけど)


 今回は上級貴族しか呼ばれておらず、

 やはりいつもの令嬢3人も見かけた。

 でも王子の一件や紋章の件で私に対する態度が

 ガラリとかわり、今ではまったく関わらなくなった。

 しかしそんな中変わらない態度で接してくる

 厄介なものはいてー……


「やぁ!クレア嬢!!」


 突然風のごとく現れた1人の青年にびくっと肩を揺らす。

 にこーっとアホらしい笑顔を浮かべる彼の名は……


「……オーディン王子」


 確か彼は捕まったんじゃ……?と思ったかたに説明すると

 彼は無罪放免されたのだ。まぁ王族相手に有罪、逮捕などは

 あり得ないとは分かっていたがこの通りすっかり

 いつも通りのポンコツになっている。

 彼は操られていたことなどさっぱり覚えておらず、

 私を切ろうとしたことも覚えていない。

 そのため2年間の公式の場を自粛という刑罰で終わったのだが。


「数ヶ月に一度しか会えないなんて寂しいな!

 君もそうだろう?ルイスなど帰ってこなくても僕が!君を!

 癒してあげるのに!」


 びしっとポーズを決めた彼は相変わらずのポンコツで。

 あははと顔を無理やり笑顔にしてもひきつってしまう。


「……そうですか。私はあなたの方がいなくても

 大丈夫なんですが」


 おっと心の声が漏れ出てしまった。

 やはり私はいくつになっても嘘をつけないなと

 少し苦笑いする。

 しかしこの王子の満足そうな笑みにあることを思い出す。


「あぁ!そうかい?そうなのかい?

 僕がいなくても……!しかし僕は君に会いたい、罵られたい!」


 ……オーディン王子はドMでしたっけ。

 流石に周りの方々も引いてますよーと言いたいところだが

 私が何を言っても喜びそうだからよしておこう。

 ここ数年でますますポンコツとドMが成長してきてしまい、

 私にもお手上げである。

 これはアンナの情報網から聞いたのだが、

 令嬢たちもポンコツだけならと頑張っていたが

 その努力もきっぱり止め、今は貴族間でよりよい相手を

 探すようになったらしい。


「もう僕は23だ、もうそろそろ妻をもつのもよいと思うんだ……

 クレア嬢!そこでだな!……ってあれ?」

 クレア嬢ー!!と広間から聞こえるがそれは聞こえないフリを

 してクレアはバルコニーに逃げる。

 この季節の夜はまだ肌寒いためここには誰もこないから

 隠れるにはとっておきの場所である。

 白亜の花壇には色とりどりの美しい花が姿を隠してくれる。


(ふぅ……ルイス王子を待ってたのに

 まさかオーディン王子が来るとはね……)


 ふぅとため息をつくとクレアはペタンとその場に座り込んだ。

 ざらざらとした床をさわると冷たくどこか心を

 癒してくれる。オーディン王子と再会したのは

 ルイスが旅に出て僅か一週間後。

 あんなことがあってからだったため少し恐ろしかったけれど

 変わらずあの様子だった。

 あの時のオーディンはやはり紋章の呪いのせいなのか

 王弟殿下があちこち国中を回って調べてくれているが

 一向に原因ははっきりと分かっていない。

 一年に数回の手紙でそのことを教えてくれるが

 クレアにとっては難しくよく分からないのだった。


「王子からは手紙は一度もこないし、

 時間を過ぎても帰ってこないし5年ですっかり

 私のこと忘れちゃったのかなぁー……」


 花壇に咲く、小さな青い花をゆっくりと撫でる。

 冷たい風で揺れるその美しい花に少し不安になる。

 彼も今年で成人になり、きっと王妃も正式に決めるだろう。

 かつては周りに女性が私しかいなかったから

 あんな告白までしてくれたが今はきっと

 素晴らしい青年になっていることだろう。

 アイザックやレオもきっと……。


(……やめよ!考えたって答えなんてでないんだし。

 王子たちが帰ってきたらまた話せばいいんだし!)


 ネガティブな考えを振り払い、

 クレアはすくっと立ち上がった。

 その前向きな姿はあの頃からまったく変わっていない。

 その珍しい金の髪がさらりと揺れるとそれは

 月明かりを切り取ったようにきらりと光った。


「……お待たせ、クレア」

「!?」


 聞き覚えのある高く透き通った声に

 胸が高鳴る。女性にしては低く、男性にしてはやや高い

 その声はある人の面影を残していて。

 クレアはゆっくりとその声の主の方へ

 振り替えるとそこには月明かりに照らされた

 美しい青い瞳の青年が立っていた。


「ルイス、王子……」


 クレアがそう呟くと銀の髪が煌めく

 クールな彼が微かに微笑んだ。

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