51 交錯する気持ち
「旅……って」
突然の言葉に息をのむ。
ルイス王子も王弟殿下の様子にいつも以上に真剣である。
「……本当は紋章ならとっくに出てるはずなんだよ。
でも、ルイスは大分遅咲きだからね。
8年くらいあったら旅なんていかなくてもいいんだけど
なんせ18歳まであと5年しかないから。
真王としての役割を果たすためには外にでて
膨大な知識と濃密な経験が必要になる」
「それは……ルイスにとってあまりに酷ではないか?
突然隔離されて、紋章がでたら今度は旅にで出ろとは
さすがに勝手すぎる」
アイザックが王弟殿下の言葉に苛立ったように返す。
ルイスへの気持ちも考えてほしいと彼なりの抗議のようだ。
「……かと言って強制はしないよ。
今まで王族にはひどい扱いを受けてきたんだ。
少しくらい言うことを聞かなくてもいい」
アイザックの言葉に怒りだすこともなく平然と
そう返されるとこちらも拍子抜けだ。
アイザックもレオもどうしたらいいのかと不安げな
顔をしてルイスと王弟殿下を見ていた。
「……でもそうしなきゃ、国が滅びる……そうでしょ?」
「まぁ、その可能性も高くなる。
なんせ真王なんて何百年に一度しか現れないから。
女神のお気に入りになったからには
それなりの対価がつくわけだけど」
彼もルイスに強要するつもりはないようで
あっけらかんとしている。
しかし、もしその話が真実ならばこの国の運命は
ルイス王子の行動にかかっているわけだ。
でも……
(離ればなれになるってこと……)
ズキンと胸が痛み、ルイス王子の様子をちらりと見る。
すると王子は曇りない瞳で王弟殿下を見つめていた。
「……僕、旅でるよ」
「王子……」
まさかそんな即決するとはおもわずその場の皆が
驚いた。しかし、彼の青い瞳には強い意志が見える。
「僕が真王として人を助けられるのなら。
……僕は父上や兄上にはできないことができるのだから」
年に似合わずしっかりした物言いのルイス王子に
王弟殿下はくすっと笑い、彼の頭に優しく手をおいた。
「……わかった。一週間後に出立するから準備しておくんだぞ。
じゃあ俺は兄上にアリアとの関係のまちがいを正してくるよ」
「はいはい、じゃあまた今度」
少し恥ずかしそうに、でもどこか誇らしげな顔をした
ルイス王子はそっけなくそういうと
ローガン王弟殿下は微笑んだ。
「王弟殿下、お送りしますよ」
「どうも、レオ君。……アイザックもそうカリカリすんなよ」
にやーという嫌な笑いを浮かべた殿下に
アイザックはギロッと一睨みした。
「してないですが……?」
「うわ、怖っ!私、王弟なんだけどなぁー」
そんな口の悪い軽口が横行しているが2人の間には親密そうな雰囲気が流れている。
ルイス王子のことを聞く前から何かしらの関係があったのか
あのアイザックが素であるのは別邸の6人以外には珍しい。
それに王族なのにレオさんの肌の色も
気にしていないようだったし、その上レオさんにナンパのようなからみかたをしてさすがのレオさんもたじたじである。
「じゃーね!クレアさん、ごちそうさまね!」
気品あるおじさんから少しチャラめなルイス王子の
叔父さんと変わった彼だが相変わらず甘党のようだった。
― ― ― ― ― ―
(ローガン・ヴェルダー王弟殿下ーー
まさかあのときのおじさんとは思わなかった……)
現在、アイザックとレオは王弟殿下のお送り、
スフィアとジェームスは部屋の片付けを終わらせると
帰ってしまった。
今別邸に私とルイス王子の2人きりだか、いつもより
重いような緊張した雰囲気がある。
王弟殿下はルイス王子のことも気に掛けてた
優しい人みたいだった。
甘い物を勧めたのもルイス王子への誕生日プレゼントだと
分かっていたからなのだろう。
そういう頭の回転の早さも王子に似ている。
実の王様より身近な存在だったのかもしれない。
(……でもルイス王子が旅に出るなんて。だったら……)
「あの、ルイス王子……」
「クレアは連れていかないよ」
私が、なんて言おうとしているのかを見抜いた王子の観察眼に
驚きつつもここで引いてはいけないと自分を鼓舞する。
このまま引き下がったら5年もあえないのだ。
なぜかそれは避けたいと強くおもう。
「うっ……で、でも私一応王子の仮の妃ですし……」
「ダメ。各国をまわるんだから危ないでしょ。
クレアはお留守番」
まるで子供の駄々に対応するお父さんのようで
少し罰が悪くなる。
「お、お留守番って言っても5年もですよ?
そんなの賢いクロでもどこか行っちゃいますよ……?」
少し冗談を混ぜたら、この重く暗い自分の心も
ましになるかと思ったがそれは逆効果。
どこかむなしい無言がまた胸をツキンと痛ませる。
「……ごめん。でも決めたことなんだ」
その青い瞳はどこか冷たいようにみえて
私の知るルイス王子ではないようで。
「……ルイス王子」
そうこぼれた悲しげな声は別邸から出ていった
彼の耳には届かなかった。




