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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第一章 つぼみ王子と没落令嬢
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43 大切なモノ part1

夜の20時、辺りは暗くなり

冬さながらの寒さに巳が凍る思いだ。


今日はルイス王子の生存記念パーティー。

ポンコツ王子のせいで広まったルイス王子の生存を

王族は喜ばしいと思っているという建前で

開かれたものだ。

そのためポンコツの誕生日パーティーや

王様の結婚記念日パーティーとは異なり、

少し地味目である。


ルイス王子の紋章の話は既に貴族のなかで

広まっており、なぜ隔離されていたのかなど

しれわたっているらしい。

さすが貴族、噂が早いこと。


今回の主役ことルイス王子は

主要貴族や臣下のもとに挨拶をしに行ってるらしく

今日は一度もあっていない。


(……大丈夫かな)


クレアは黒と白のメイドの制服で

いつもどおり給仕をしていた。

あいにく第一王子オーディンは欠席で

会わなくてすむことにほっとする。

でもあともう一組いることをお忘れでないだろうか。

……そう、あの令嬢たちを。


相変わらずのきらびやかなドレスや宝石たちに

くらくらするが私を特に敵対視している彼女たち3人から

は逃げなければならない。


(まったくどうにかしてほしいものだ)


「おい、クレア。クレア!」


「ん?……あ、アイザック様。どうしました?」


くるりと振り返ると長い髪を1つにくくり

優しげで整った顔の男、アイザックがいた。


「今日はポンコツ王子はいないが、ルイスを一目みようとしている令嬢たちはたくさんいる。お前、絡まれないようにしろよ」


「分かりました!気を付けます」


それを聞くとアイザックはじゃ、と周りを

確認しながらいつもの優男の顔に戻った。


「あっ!」


「なんだ今度は……」


こそこそ、とまた戻ってきたアイザックの

真似をしてこそこそとする。


「あのテーブルに並べてあるスイーツ、

私が作ったんです。暇になったら食べてみてください」


「……はぁ、分かったよ。ありがとな」


なんだ、そんなことかみたいな顔をするが、

笑ってるからまぁいいか。

令嬢たちの相手大変そうだから少しでも

甘いもので気がほぐれると良いんだけど。

― ― ― ― ― ― ―

アイザックと別れて広間に戻ると

やっぱりたくさんの貴族たちがいる。


……この中に絶対彼女たちがいる。

取り絶えず彼女たちが群がりそうなのは

位の高い貴族の周りや今回でいえばルイス王子のところだ。

もちろん前回のワインぶっかけ騒動は覚えているので

ワインの並ぶテーブルには近づかない。

だとするとーー……


(スイーツのところにしよ。自分で作ったし

案外心安らぐかも……)


と思ったのが間違いだった。

だってスイーツの並ぶテーブルの前には


「あら、クレア嬢じゃありませんか」


タルトタタンやプリン、ワインを持った令嬢たちが

いたのだから。


(え、えぇ……)


まさか国で高位の令嬢たちがこんなところで

たむろってるとは思わないだろう。


いつもの3人そろってもぐもぐと食べてるではないか。

……それも私が王子のために作ったやつを。


「こ、こんばんはー。ご令嬢たち」

思わず裏返ってしまったが、仕方ない。


「あら、お久しぶり。相変わらず質素で地味な格好を

してらっしゃるのねぇ。もぐもぐ」


「あらほんと。髪も適当で華がないわね。

むしゃむしゃ」


「さすがクレア嬢、平民がお似合いね。ごっくん」


いつもどおりの暴言、のはずだが

食べたり飲んだりするのが気になってまったく

頭にはいってこない。

この人たちこんなに食いしん坊だっけ……?


「お食事が進むようでよかったですわぁ……」


「あら、いけない。すみませんね。

あなたはここに並ぶ三ツ星シェフのスイーツは

口にできませんものね」


"デイジー嬢、その右手に持ってるプリン、

私が作りました。三ツ星シェフなんて……

ありがとうございます"

なんて言ったら何て返ってくるか。

……ルイス王子のもとに届く前にお皿を返されてしまう。


「そ、そうですね。シェフの料理は私達には

ちょっと……はい」

なんとも言えなくて言葉につまるが

令嬢たちはたいして気にしていないようだった。


(ルイス王子のお菓子係をしてたらシェフくらいまで上達してたなんて……それは王子も食べたいって言うわけだわ)


「……まぁいいわ。ところで最近あなたを見かけないと思ったら、第二王子のお世話なんてやっていたんですってね?」


デイジーは完食したプリンのカップをおくと、

鋭い目付きでこちらをにらんできた。

そりゃただでこの場から逃がしてくれるとは思って

なかったけど……。


「……はい、そうですが」


「まぁ、大変でしたのね。

王族の証である紋章のない出来損ないのつぼみ王子って

呼ばれてるのはご存知?

お姿は拝見したことないですけれど、

クレア嬢とお似合いなんじゃありませんか?」


クスクスと笑う彼女たちは私を見て

没落令嬢と王族と認められていない王子は

どちらもダメダメね、といっているのだ。

こんなの王子本人と関わったことのない人の意見だ。

気にすることない。


「それにオーディン王子を誘惑してひどいことをいうなんて

最低だわ。

あなたはその珍しい髪で良い思いをしてるだけの女よ。

きっとその王子もあなたをただの毛色の珍しいだけの猫にでも

思っているんじゃないのかしら?」


「……っ!」


毛色の珍しいだけの猫……


『そうだ、お前を売れば新しく金がはいる。

お前は髪色が珍しいだけの女だが、高く売れるだろうなぁ……』


昔の記憶がよみがえり、ぞわっと背筋が泡立つ。

似たようなことを言われた。それも実の父に。


(やだ、ルイス王子がそんなこと……思ってない……違う!)


もし彼もそう思ってたら。

最近その髪色に飽きてよく訓練にいって

帰ってこないのか。

考えれば考えるほどもやもやが胸につまる。


「や、ちが」


目の前でニヤニヤと笑う令嬢たちの顔が見える。

わざと嫌みや嫌がらせで言っているのは分かっても

心臓がドクンドクンと大きく脈打つ。


(……っ!)


「こんばんは、皆さん」

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