40 差別と友情
レオは昔を思い出すようにどこか遠くを見つめ、
アメジストのように美しい紫の瞳は悲しげだ。
「俺は生まれたときからレアリウス王国
南方に位置するガリアスで過ごしていてね、
こうみえて大家族の長男なんだ。
下に妹が4人、弟が3人いて、全員で10人家族。でもどこにこんな大人数を養えるんだよって思うほどにうちは貧乏だった。
それで俺が12歳の時に両親は俺を国の騎士として売ったんだ。今の王子と同じくらいの時かな」
(両親に売られた……?)
突然の物騒な言葉に体が凍りついた。
彼のそのチャラそうな容姿から想像されるきらびやかな生活とは真逆の
その事実は思考を停止させるほど
衝撃的であった。
「なんで……?」
「……うちは俺の思った通りお金がなくて。
そのための人身売買。
でも無理矢理売られたんじゃなくて
お金をもらうかわりに
俺が騎士になるからって親に言ったんだ。
それに騎士になっても日雇いとかで小銭を稼げばさらに家が潤うと思ったし。
それに弟妹たちが毎日腹を空かせて
るのを見るのも耐えられなくて、
逃げ出したみたいなものなんだけど」
子供自ら人身売買に手を上げるなんて
あってはいけないことだ。
しかし、レオにとってそれほど過酷な状況
だったのだろう。
今も悲しげにうつむいている。
「売られてから騎士育成の寮で生活しながら、
小物を作って売ったりして小銭を稼いで
家族に送ったりしてた。
……ほら、その王子のピアスも俺が作ったんだよ?」
彼が指差したルイスの耳には青が基調とされた
銀色の花が綺麗に描かれたピアス。
これはクレアが建国記念祭のときに
プレゼントしてくれたものだった。
「……そうなの?クレアがプレゼントしてくれたんだけど、
そっか。レオがこの綺麗なピアス作ったんだね」
ゆっくりとピアスを大切に撫でると
レオが作った大切なものなのだ
さらにこのピアスへの愛着がわいた。
「……照れるね」
「自分で言ったんだろうが。
照れてないで早く続きを話せ」
ガリアスについてではなく、レオ個人の話になったが
アイザックは話を止めなかった。
すこし乱暴だが、彼なりの配慮のようだ。
「はいはい分かりましたよー。
そうやって稼ぎを家に送っていたのも
数年したら足りなくなった。
父親が病気で死んだんだ。
それから母親1人で妹たちに
メシを食わせてたんだけど、そりゃ9人も
いれば足りなくなった。
だから俺はこの持ち前の顔をいかして
悪いけど、いろんな女の人にたかるようになったわけ」
確かにレオは他の二人にはないような
色気やフェロモンを醸し出している。
一番年上というのもあるが、その褐色の肌と
透き通る紫の瞳が要因だろう。
「あいにく、この色の肌を気に入る女の子も
平民には多くてね、その時が15歳だったかな。
いろいろ高いものも買ってもらって
どうにかそれをうってやりくりしてた」
現在レオが21歳だからもう6年も続けている。
ルイスが6歳の時からそんな過酷な人生を
歩んでいるからか、レオは軽い雰囲気のしたには
落ち着いた大人のカオがあるのだ。
「でも、最近は国王が貴族のためと評して毎月パーティーをするようになったでしょー?
だから税金も上がって俺にとって最悪。
家族にも稼ぎを送るのが精一杯でね。
そんな時にクレアちゃんの監視の役目が
俺のもとに来たんだ。オーディンもそうだったけど
ガリアスに来る貴族は皆俺らみたいな
褐色の肌の奴らを"暗色人"っていって
卑下する。でも金には変えられないからね、もちろん受けたわけ」
"暗色人"これは肌の色で同じであるはずの
ヒトを差別する言葉である。
レアリウス王国では昔からの主な人たちの
肌は白に近く、"明色人"と呼ばれる。
その一方、200年前に戦争に勝ち、合併した
褐色の肌の人たちを"暗色人"という。
今も続くこの差別的考えは、
王族や貴族など高位なものほど根強く
残っていた。
「そしたらご存知のとおり
この前の件に繋がってるんだよね」
「思ったより大変だったんだな、お前」
「失礼だなぁ、……俺も奥が深い男ってことだね」
「何言ってんだ、お前。一足間違えたら
犯罪者だぞ、クレアが許したからいいが……」
「あはは、それは確かにね。
クレアちゃんには本当に感謝だよね」
「そっか……」
ただ甘やかされ、無条件に敬われ、
王座でふんぞり返っている王は
彼らのような思いをしているひとが
いることを知らないだろう。
温室育ちの王族たちには
砂漠のような環境で強く生きてきた彼らの強さ、
たくましさはない。
きっと僕にもレオのように強くは
生きてこれなかった。
1人ただ縮こまっていたのを彼女に
救ってもらっただけーー……。
「俺、王子たちのこと尊敬してるんですよ。
貴族や王族でも差別しないで受け入れてくれる。それにクレアちゃんだって初めて会った建国記念祭の時は気にする素振りすら見えなかった。肌の暗い男からどんなに綺麗なピアスでも令嬢たちは買わないからね」
「それもそうだな。令嬢たちは自分たちを
神とでも思っているのか、下級貴族にも
冷たくあしらうことが多いからな」
いつも優男の仮面を被っているアイザックさえ
彼女たちの振る舞いに苦い思いをしている
ようだ。僕だけじゃないのだ、
差別されて区別されるのは。
そう思うと強く、1つの野望が芽生えた。
「アイザック、レオ。
僕はもっと強い人になりたい。
だから、王座とか権力は抜きにしても
僕のために訓練手伝ってもらえる……?」
ルイスがそう伝えると2人は
呆気にとられた様子で顔を見合わせた。
するとすぐに顔を緩ませわらった。
「もちろん。ルイスの
側にいていいなら、俺は手伝うよ。
……クレアちゃんもいるしね!」
「おいレオ、下心丸見えだぞ……まったく。
あぁ、もちろんだ。ルイスの力という力全部
引き出してやる。お前が王座に興味なくても
俺がお前を王にしてやる。絶対に、な」
「はは、頼もしいね。
僕はクレアのこともレオの故郷のことも
もちろん2人のことも守れる強い人になりたい。紋章がなくても、王族と認めていられなくても、僕は僕なりのやり方で
皆を救いたい」
そう宣言するとアイザックもレオも
目を見開き固まっている。
「どうしたの……?」
こそっ「「あいつ天然タラシだな……」」
2人はルイスから遠ざかっていく。
「ちょ、何。ちょっと!」
ルイスは彼らがなんといったか聞こえず
ただ離れていく彼らを追いかけた。
一国の王子、大貴族の長男、
そして貧民街出身の騎士というアンバランスの
3人の友情はこうして花開いたのであった。




