38 疲れと癒し
天井は豪華なステンドグラスがあしらわれ、金や紅を基調とされた派手な絨毯がしかれているここではどこか冷たい空気が流れていた。そんか中、一人の少年はレアリウス王国の王に深々と頭をたれていた。
「陛下、ルイスでございます。お話があり、参上しました」
「ふむ……死んだはずのお前がわしに何のようだ。わしとてお前ごときに割く時間はないのだが?」
実の父であるはずのこのでっぷりとした体型の男は我が国の王である。息子の王子たちとは似ても似つかず、てぷんと丸いこの男はまるでタヌキのようだ。しかし、実の息子であるルイスにこんなに冷たくあたるのには何を隠そう、紋章の問題が深く関わっているのだった。
「……私めのために父上のお時間をくださり、ありがとうございます陛下」
「分かっておる、オーディンのことであろう?宰相から聞いておる。あやつがお前の存命や紋章のことを国民に漏らしたのだとな」
「……そうでございます」
嘲笑うようにそう答える王は紋章の出なかった彼にむかってわざとらしくいい放った。
「既に国民は落ち着きを取り戻している、他に何をしろと申すのか。紋章もなき王族が兄に刑罰を与えろと申すのか」
「……いえ、そうでは」
「ええい、うるさい奴だ!オーディンは無罪だ、お前がそれ以上口を出すならば、今度こそお前の存在を消してやるぞ」
「……失礼しました。では、戻らせていただきます」
突然の逆ギレをされ、これ以上何を言っても変わらない、逆に危ないと感じ、身を下げる。すると、狐顔の男がかつかつとルイスの前にでた。彼はフォックというこの国の宰相である。
顔の通り、狐のようにずる賢い嫌な男である。彼は現国王の右腕と呼ばれる男だが、金目のことや私欲を満たすためなら積極的に働くが、国政や国民のことは気にしない自己中であるとアイザックから聞いている。
「お待ちくださいな王子。あなた様の存在が他貴族にしれわたってしまったのは痛恨の極みです。しかし仕方ありません。そこであなた様の存命を示すため、3ヶ月後の上級貴族の集まるパーティーへご出席ください。よいですね?」
「……分かりました」
「それでは、お早めにお帰りください」
1つ1つの言葉に嫌みやトゲが入っているのを感じる。僕は顔色を一つ変えずに足早にその場を去った。
― ― ― ― ― ― ―
(……まぁ、相変わらずだね。父上はそうだけど2年間で宰相にまでこんな扱いを受けるようになるとは思ってなかったけど)
王室を出ると無意識に顔は青ざめ手足は冷たくなり、心臓も早鐘をうっていた。僕の存在が知れわたってから約一週間。初めて訪れた王城は周りからの視線や落ち着かないきらびやかな装飾に疲れてしまうのだった。
廊下を通ると若い少女から年配の婦人までが僕の方を見て振り替える。何が彼女たちにとってそこまで気になるのか分からないが居心地が悪いのは確かだった。
12歳のルイスは年より大人らしく見え、身長も少しずつ伸びている。初めてクレアに会ったときより5センチくらい高くなり、彼女の背丈にあと10センチというところだ。
コツンコツンと階段を降りると、ふいに耳のそばからちゃらんと音が聞こえた。ふと手で正体を確かめるとそれはもらった青いピアスだった。ふっと息をはいてピアスをそっと撫でると、体に熱が戻ってきたかのようで心も穏やかになってくる。
(……クレアに会いたい)
無愛想なその端正な顔の下ではそんなことを思っているなんて誰も気づかなかった。
― ― ― ― ― ― ―
「王子!お帰りなさいませ!大丈夫ですか!?陛下に何か悪いことをされたり、怪我をさせられたりされませんでしたか!?」
私は少し戦闘終わりの騎士みたいにボロボロとした王子をあちこちみて回る。……とりあえずどこにも傷は見当たらなく、安心した。
今日がルイス王子が王様と面会するのを知っていたため、図書館に行くのをやめて帰りを待っていたのだ。アイザックやレオもそれぞれの本来の仕事をしていて今日は別邸には私1人とクロだけだった。
「大丈夫、うまくいったから」
そう伝えられると無意識にほっと安堵のため息が落ちる。しかし、やはり王子のその声は少し疲れているようだったけれど、彼が大丈夫だというのだから深入りするのも良くないだろうと気づかない不利をする。
「そうですか、よかったです!」
嘘でも彼の口から大丈夫という言葉がでてきて安心して思わず笑みがこぼれる。クレアは今日のことが昨夜からずっと心配だったため、よく眠れなかったのは秘密だ。
「……クレア、クマできてない?ほら目に……」
「へぇ!?ちょっと王子!?」
ずいっと近寄ってきたルイスの顔に驚き、飛び退くと王子は怪訝そうな顔をした。
「……何?こうされるの嫌なの?」
「や、そうじゃなくて。いや、そうなんですけど……」
我ながら何を言いたいのか分からない。突然の出来事に頭が追い付いていないのだ。タルトタタンのホイップクリームのときもそうだが、無自覚でこう近寄ってくるのが心臓に悪くてたまらない。
そろそろ王子にもアイザックやレオのように自分の容姿の良さを自覚して自重してもらいたいものだ。しかしルイス王子は変わらずずっとこっちを見てくる。
(~!ええい、言ってしまえ!)
「王子が急に近付くのは恥ずかしいんです!私、男の人とかが近付くの慣れてないんですよ!もう……!」
勢いよく言い放ってしまったが、これでは私が王子のことを1人の男の人として意識してしまっていることを表していた。ああ、やってしまった……!とルイス王子が怒っていないか顔をおおった
指の間からチラと彼の方を覗く。
「……そう」
(ええ、それだけ!?)
意外とそっけなく答えられると逆に気になる。王子の方を見てみるとそっぽを向いていた王子の耳は赤く、まるでリンゴのようだ。さっきまでの威勢のいい彼はどこかにいってしまったかのように縮こまってみえる。ぷいと目線をそらすのは半年の付き合い上発見したのだが、それは照れている時だけだ。
(……もしかして照れてる?)
タルトタタン事件の前例と違い、王子が照れているのが意外でじろじろと見いってしまう。
「そんな見ないでよ……!」
「あ、すみません」
ついついそんな彼の様子を見ていたら怒られてしまった。
「……僕は大丈夫だから、今日は早く帰って休みなよ。クレアが倒れたら、嫌だし」
「……!はい!」
照れてる王子も見られたし、心配もしてもらって気分がうきうきと上がっているのが自分でもわかる。私って簡単な女だなぁなんて思うけど嬉しいから関係ない。
「あ、突然なんだけど3ヶ月後、僕パーティー出なきゃいけなくなったから、クレアその時メイドとして出てもらえる?」
「はいっ!大丈夫です」
「ほかの令嬢とか兄上とかくるかもしれないけど……本当に大丈夫?」
「はい!もちろんです!」
そう、私は気分がうきうきしすぎていたせいで何も聞いていなかった。そして受けてはいけなかったその王子の依頼を軽く安請け合いしてしまった。
その話をレオからその話再度を聞いて驚きのあまり固まったのは情けなくも次の日のこと。




