32 褐色の肌の騎士
理性より怒りが勝ってしまい、ポロっと言葉が先に出てしまった。これでは顔だけニコニコしてて逆に恐ろしい人になってしまうじゃないか。
「……何を言ってるのかなクレア嬢?そんなこという女性ではないだろう?そうだ、君は我が愚弟ルイスの使用人をしているときいた。だからそんな野蛮な言葉を使うようになってしまったんだね?」
カチンと脳内で何か怒りによってタガが外れた音が聞こえた。
「……何を言っているんですか、この傲慢ポンコツ王子!!私はこれが本当の私なんです」
もう一度言ってしまったものは隠しようがないので思ったことを全て言うことにした。それにルイス王子を愚弟と呼んだこと絶対に許せない。
「何を言うルイスお前が令嬢から平民に落ちたのに見捨てなかった僕に!!そうだ、今すぐ謝罪をしたら許して妻にしてやらないこともない」
「いいえ、許しを乞うつもりは毛頭ありません。それに私が平民になってからあなたにお世話になった記憶もございません」
にこりとそう言い返すと、周りの平民たちもどよめきのなかに嘲笑が混じる。私の言葉を聞いて顔を真っ赤にしたオーディンは腰の鞘から剣を取り出した。
(ま、マジですか、この王子………)
この国では剣を持つことが許されているのは王族や王族と深い関係のある臣下たち、そして騎士だけだ。そして剣を抜いたオーディン王子は目を怪しげに光らせている。いつものポンコツとはどこか雰囲気が違い、針のような鋭さを感じさせた。
(で、でもここで引けない……!)
よし!どうにか王子に、応戦しようと一歩踏み出した瞬間。
「はーい!そこまでだよ、クレアちゃん」
人混みから長い足でゆっくりと歩いてきたのは見たことのある男性ーー。
紫の瞳に暗い茶の髪。そして色気のある褐色の肌……。
「あ、あなたは……!」
「どうも、久しぶりお嬢さん?俺の名前はレオ・リードマン。こう見えても一応レアリウス王国の騎士なんだ」
(この人建国記念祭でピアスを売っていたチャラ男……! )
騎士といっても鎧を着ているわけではなく、白のシャツに茶色のパンツ、そして革の長いブーツを身につけた彼は褐色の肌と華やかな顔立ちに似合っている。
(でも、なんでこんなところに……)
「ごめんね、実は俺、ここ数ヵ月君の行動を監視してたんだよね」
「か、監視!?」
あの色気のあるが爽やかな顔からそんな物騒な言葉が飛び出てくるとは思わず声が裏返ってしまった。
「そう、それでルイス王子のことをオーディン王子にチクったわけ」
あんなに優しそうでそれでいて軽そうにみえた彼だが、今は紫色の美しく色っぽい瞳はどこか冷たくみえた。
(……どういうことよ)
「ごめんね、騙すみたいになってて。……でも君にはオーディン王子と結婚してもらわなきゃいけないんだ、俺のためにも」
「何、を言ってるんですか……そんなこと聞くわけないでしょう!?」
こちらを横目でそう余裕そうに眺めくるくると髪先をいじる彼からはどこか余裕さえ感じられた。
「君、ここで俺のいうこと聞かないとルイス王子、今度こそ陛下に消されちゃうよ?だって、第一王子がこんなことしちゃったんだ。国民から嘘つき王子って批判されるの見えてるじゃない?」
(っーー!!)
「それに、第二王子は紋章もないんでしょ?オーディン王子より用無しだよね。だから君が第一王子と結ばれればこのことはまた王族が嘘で固めてくれる。そしたらルイス王子も君も安全に生きていられるよ?」
横目でそう言う彼には何も感情がないように見えた。何か隠すようにさらりと口にするだけ。でも、そんな楽なだけの未来なんてーーいらない!
「……そんなことない!紋章なんてなくても、王子でなくてもいい!ルイス王子は誰より優しくてかっこいいんだから!私は絶対にこいつとなんか結婚しないわ!」
「……ふーん」
「ふはははは!もう我慢の限界だ。僕より愚弟を選ぶんだろう?
君を処刑台に送り込むのは僕にとっても忍びない。だからこの場で……斬ってやる!」
よろよろと歩いてくる王子の瞳の奥は赤黒くて何も見えていない。
(……この王子、いつもと違う!)
「皆さん、逃げて!!」
剣を引き抜いた王子に危険を感じて集まっていた民衆
はキャーと誰かの悲鳴が上がると同時に逃げ回った。
(私も逃げるか、応戦しなきゃポンコツに殺されるかも)
いつもと違うポンコツ王子の様子に戸惑うが、取り敢えず命を守らなければいけない。しかし私が逃げたら他の国民の安全が脅かされてしまう。どうしたものか、ととりあえず道の端に落ちている石を拾う。
「死ね!!」
私の方をめがけて一直線に駆け込んでくるオーディン王子はまるで猪だ。
「嫌よ!!」
走って逃げながら、王子に向かって石を投げる。王子の剣にかろうじてあたり、幸いこのポンコツ王子は剣術も得意でないため
どうにか逃げられた。 第2波、第3波と繰り出される突撃もどうにか避けきれたけれど。
「はぁ、はぁ……」
しかし、手持ちの石も限りがあるし、そんなに体力ももつ気がしない。とりあえずまわりの人がいなくなったら逃げなきゃ。
「う、わぁっ!」
地面に敷き詰められたレンガに少し飛び出ていた部分があったのに気づかず、引っ掛かってしまった。どすんとしりもちをついた私は走ってくる彼の攻撃を避けられそうにない。
「死ねー!!」
ぶんっと勢いよく剣を振り下ろそうとするオーディン王子が見える。この体制では逃げられない、このまま斬られるしかない。
(………っ!!)




