31 殴り込みに行ってきます
馬車に乗り、約30分。レアリウス王国城下町の中心部ローゼクタにつくとぐんと大きく背伸びした。
「んー!よし!」
パンっと軽く頬を叩いて気合いをいれる。じんじんと鈍く痛む頬は、少し強く叩きすぎたのかひりひりする。
「おい、クレア。お前何しに行くか分かってるのか?」
「え?もちろん!あのポンコツ王子を倒しに行くのよね?」
「いや、説得して大人しくさせてくれればいいんだが!?」
アイザックににこっと微笑んだが、これはあの日のパーティーと同じ偽物の笑顔。もちろん、心中ではポンコツ王子への怒りで燃えているし、どうなるか分かんなくて怖い。でも私がやるしかない。
アイザックは私の顔を見てこれ以上言えることがないなとため息をついた。私は彼の知ってる通り昔から弟が悪いことを言われたら庇ったり、やり返したりという男らしいことをしていたのだ。
だから今さら止めても無駄である。
「……存分にやり返してこい、5年間の迷惑料としてな。ただし、俺が庇える範囲でな。……危険な時は逃げろよ」
ポンとクレアの頭に手を置くと、アイザックは馬でどこかに向かってしまった。
(……優しくしてくれるなら、最後まで側にいてくれればいいのに)
まぁ、実際彼が隣にいてもにこにこと優男ぶるだろうから殴り込みには彼は不要である。小さい時も1人でやっていたし大丈夫だ。
(よーし、王子に誤解されたつらさも混ぜて全部ポンコツに返してやるんだから!!)
― ― ― ― ― ―
「分かったか、下じもども!ルイスは生きている!しかしあいつには紋章はない!だから僕こそが王を継ぐのだ!」
ローゼクタでは、現在国随一巨大の噴水をもつ広場付近で第一王子オーディンが演説をしていた。彼の演説は国民の心配を無駄に掻き立て、国王や王族自体の信頼を落とすものだった。そして自身が次期国王になるだろうことは全国民が認知していたものの、この王子で大丈夫なのかと不安を感じさせるものであった。
「ルイスってあの二年前に亡くなった第二王子のことかい……?まさか、生きてるなんて」
「国王は、そして王族や臣下は何をしているんだ。私達平民に何を隠しているんだ……」
そこでは広場を中心として大勢のローゼクタ市民が集まり、騒ぎとなっていた。ルイス王子の存命に驚きの声や喜びをあげるものも多くいたが、なぜ王子が亡くなったなど嘘をついたのかなど
不満の声も多かった。
それに加え、王族そろって国民に隠していた紋章の話題にふれたとたん誰もが閉口した。紋章のないルイスは王族ではないかもしれない、それに国王がその印について国民に伝えなかったのは
なぜなのか。そしてなぜこの第一王子が自慢気に話しているのかと国民は混乱していた。
「おい、お前たち、僕の言うことは分かったか?」
オーディンは腰からきらびやかな装飾が施された剣を抜き、側で噂をする丸腰の国民たちにむけた。王子の瞳は怪しく紅い光を放っている。
「は、はいぃ!」
(何あの、傲慢王子。いつもよりひどいじゃない……)
オーディンから死角になっている建物のかげから除いていたクレアは王子の傲慢で偉そうな態度に嫌悪感を抱いた。
(こんな人と結婚するくらいなら殺されない程度にやり返すのよ!)
迷いもなくクレアは突き進み、オーディンの前にたった。
「オーディン王子、こんにちは」
すっと物陰から出て、あら偶然とでもいいそうな雰囲気を醸し出す。
「あぁクレア嬢。やっと会えたな……」
オーディンは剣を腰に戻し、近づいてくる。しかし不思議なことに王子の瞳は濁った紅色をしていた。彼の瞳はルイス王子と似た青をしていたはずなのだが。
「……お久しぶりです、ところで王子はここで何をしておられるのですか?」
まわりを囲む国民たちは私のことを不思議そうに見つめている。 それもそうだ、令嬢は普通こんなところまで執事たちなしではこないのに王子からクレア嬢と呼ばれているからだ。
「今は愚弟のことや紋章について国民に真実を教えてやろうと思ってな。無知な平民どもに優しいだろう?」
……本当に傲慢だ。無知はお前の方だと言ってやりたい。アイザックに任せて会議に座るだけの仕事をしているあなたの方が底辺よ。
「あなたの方が無知ですよ」
あ、口に出ちゃった。




