23 建国記念祭
「「建国記念祭?」」
机の広げられた一枚の紙にはそう書いてあった。
「そう、毎年夏のこの時期に城下町で行われる国をあげてのお祭りです。もちろん今年もやるんですよ」
「そっか、この時期ですもんねこのお祭り」
"建国記念祭"それは年に一度、城下町で行われるお祭り。ある人は花を配り、ある人は屋台や店を広げ、またある人はダンスを踊る。まさに非日常を楽しむためのイベントであり、大切な人に感謝を告げる日でもある。
「そう!だから二人でお忍びでいってきたらどうかしら?」
(……え?)
急にどうしたのかと思う提案にびっくりだ。少し前だったら"王子がお忍びでお祭りに?………仕方ないですね、王子のことしっかり見ていてくださいね"くらいはいいそうなくらい真面目で責任感ある人なのに。
(まぁ、少しくらいはいいってことなのかな?)
「………ルイ王子はどうですか、建国記念祭行ってみたいですか?」
「……行く」
え!!こっちもこっちでまたびっくり。王子までこんなお祭りに行きたがるなんて……。あれ、もしかして。
「………王子、このイラストのクレープにつられてます?」
ぎくっと肩をすこし揺らしたのを見逃さなかった。耳も微かに赤くなってる。
「……いいでしょ、そんなの」
まったくツンツンというかクールというか素直じゃないんだから。
「……あ、でもクレア最近お金がないって行ってたから一緒にいけないね」
私の日々の嘆きを思い出したのか急にしゅんとなってしまった。
気まぐれさんみたいでまるで猫ちゃんのようで可愛く見える。あんなに行く気満々だったのにこれではかわいそうだ。
「いっいえ!行けます!行きたいです!!」
「ほんと?」
私の言葉にパアッと明るくなったルイス王子の瞳はより一層かわいらしかった。……しかし、私達は知らなかったスフィアさんが
なぜ私達を建国記念祭に送り込んだのかを。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
「熱いですねぇ~」
今月ももう下旬になり、だんだん温度が上がってきている。汗も軽くかき、日差しがささる。そんななか、私とルイス王子は馬車で城下町に向かっていた。
「いいですか、ルイス王子城下町に降りたら、姉弟のふりをするんですよ?使用人の私と姉弟なんていやかもしれませんが、バレないためです」
「……そんなこと気にしなくていいのに」
「それと、失礼ですが、"ルイス"と呼ばせていただきますからね。……後々怒らないでくださいよ」
「……分かってる」
もう、この王子ったらりんご飴やクレープ、わたあめと屋台の甘いものに夢中で私の言うことを聞いているんだか聞いていないんだか。
「あ、クレア!見てあれ」
「……わぁ!」
ぎゅっと袖を引っ張られると色鮮やかな風船が空に舞い上がり、男女で仲良くダンスを踊っているのが見える。
「私達も早速行きましょうか!」
御者さんにお礼をいい、馬車を降りて王子の手を握り、私たちはピンクのバラでできたアーチをくぐった。
― ― ― ― ― ― ― ―
あちこちにこのお祭りのモチーフのピンクのバラが咲き乱れ、街を美しく飾っていた。
「………きれい」
はじめて見る光景に隣で目を輝かせる彼の姿にくすっと笑う。お祭りを楽しそうに見る王子は珍しくてこっちも嬉しくなる。
(……お祭りのいいところは甘いものだけじゃないんですよ)
「ルイス王…じゃない、ルイスはどこに行きたい?」
危ない、設定がいきなり崩れてしまうところだった隣で王子も、ちょっと、しっかりしてよと目で私を見ている。うぅ、すみませんって。
「……クレアお姉ちゃん、僕クレープ食べたい」
「え、えぇ!?」
かわいすぎる、破壊力が恐ろしい…"クレアお姉ちゃん"だって!
極めつけにその上目遣い。……男の子なのか疑いたくなるなぁ。あのいつもクールで無愛想なのに…この綺麗な顔で言われるからなのかやっぱり特別感が拭えない。私が王子のキラキラに耐えられず、その場に立ち尽くして固まってしまう。
「クレアちゃーん!王…違うわ、ルイスちゃーん!!こっちこっちよ!」
(この声は……)
「ほら、こっちよ!こんにちは」
野太い声と女性口調、そしてフリフリのエプロンをつけた年齢・性別不詳の人ーー。
「ジェームスさん!こんにちは!どうしたんですか、こんなところで」
「王様に無理を言って今日はこっちに屋台出すことにしたのよー!ほらクレープにりんご飴、それにわたあめまであるのよぉ~!」
さすが三ツ星シェフ、他の人より手際がよすぎる屋台で3つも掛け持ちする人なんて聞いたことない。いつものフリフリも輪をかけてフリフリしていて可愛らしい。
「あらあら、こちらがまあっ!!!可愛らしい~~!はじめましてぇ!ジェームス・デイヴィスですぅ!」
ジェームスさんがルイス王子を見たとたん、恐ろしいダミ声、そして媚びた令嬢たちのような猫なで声(?)で叫びだした。まるで近所で有名なかっこいい男の子をみて興奮しているおばさん状態である。
「……こんにちは」
すこしひるんだ王子が言うとジェームスさんはまぁ!と喜びの小躍りをして大盛りにしたクレープを渡した。
「食べてくださる?私のあなたへのあ・い・じょ・うぅ!!」
バチんっとウィンクをしたジェームスさんはまさに獲物を狙った獣?いや化け物……どちらも失礼かな、やっぱり女性…だった。
それにおずおずパクっとクレープにかじりついた瞬間、ルイス王子は瞳がキラキラと輝きだした。
(ふふ。美味しいかったのかな?とっても嬉しそうな顔してる)
「どう?どう?私のクレープは?」
「…おいしい。ありがとう、ジェームス」
「あらいやだぁー!ほんと?ほんと?もぉー照れちゃうじゃないのぉ~!」
……分かります、その気持ち。ルイス王子にお礼言われちゃうと嬉しくなるの。……でもシェフ、うるさいです。周りの人がこっちをずっと見てるんですけど。
「はい!クレアちゃんも!きっとほっぺた落ちちゃうほどおいしいんだからぁ!彼のがチョコバナナでこっちはイチゴ生クリームよ!!」
手渡されたクレープに視線をうつすもよく見たらこのクレープ……すっごく可愛い!
バラの形をしたイチゴに色とりどりのトッピング。王子のクレープはチョコがバラの形をしている。さすが芸が深い。
……でもジェームスさんの顔がイラストされた周りの包み紙はいただけないけど。
「ありがとうございます!いただきますね!」
はむっと一口食べると思った以上においしい。イチゴの酸味と生クリームのほどよい甘さが広がる。これは王子が目を輝かすわけですね………。これには私の精一杯のタルトタタンも勝てません。
(何だかんだいってやっぱりジェームスさんって三ツ星シェフなのよね…)
ちょっとばかり失礼なことを考えてしまったがこれも一つの褒め言葉である。ルイス王子は変わらずあむ、あむと食べていて、シェフはそれをあらぁ~っと目をギラギラさせて見つめている。
(恐ろしい構図だわ……)
……ジェームスさんに王子が食べられないか少し不安になるけど。




