13 俺と予言と魔王の弱点
「おう、ドナル。これからちょいと、リオナの故郷に行ってくっから、馬車貸してくれや」
敢えてなのか、通常運転なのか、どちらにせよ軽い調子のアートの言葉に、ドナルは眉を顰めてマーフィーを見やって。
「……それはそこの竜人も一緒に行かれるのですかな?」
「おうよ」
「承服しかねますな!」
……ですよねー。ドナルにしてみれば、自分の街を破壊しに来た魔物ですもんねー。無罪放免なんてありえないですよねー。
「まだ何も話を聞いておりませんぞ! 魔物側に伝わる、勇者殿と予言者殿のことを何一つ、ですな!」
「って気にするとこそこかよ!?」
思わず全力で突っ込んだ。
「そういえば、予言者はどこだ?」
俺の全力ツッコミを気にも留めずに、マーフィーは淡々と質問を口にし、それにはアートが呆れてみせる。
「おいおい、予言者を殺しに来たってえおめえさんに、こいつが予言者様ですと紹介すると思ってんのかい?」
「紹介したほうが、お前たちのためだ」
何故か偉そうなマーフィーの物言いに、「どういうことだい?」とアートが尋ねれば。
「魔王を倒せるのは、予言者だけだからだ」
「……え?」
予想外の答えに、俺たちの時が止まった。ただ一人、ドナルだけが「そう、そういうことを聞きたかったのですな!」と、タイムラグなしに嬉々として身を乗り出している。
「っちょ、ちょっと待ってくれ! 魔王を倒すのは勇者じゃないのか!?」
「まあ、直接戦うのは勇者だが」
「直接じゃない戦いって……」
言いかけて、気付いた。
勇者が勝つための道筋を、ノートを使って作るのが……俺の役割、なのか……?
「だが魔王は、予言者のほうこそを警戒している。勇者ではなく予言者を殺害せよと命令したのがその証拠だろう」
「…………」
どうやらマーフィーも、詳しい理由までは知らないらしいが。
「ふうむ、成程成程。予言者殿は、予知を用いて勇者殿を勝利に導くといわれてますが、勇者殿と予言者殿、どちらの能力が厄介かと言えば、それは予知なのでしょうな」
「そう、勇者を有利に導く。今回の襲撃のようにな」
ぎく。
どうやらマーフィーは、もう勇者と予言者が一緒に居ると推測しているらしい。
「ところで、そこの黒髪の君」
「え、俺?」
突然の御指名に、どきりとする。
「そう。君の名前は?」
「え、誠だけど……」
なんで今、名前? と思いつつ素直に答えた瞬間、あちゃーという表情でアートが空を仰いだのが見えた。え、何、俺まずいことい言った!?
「そうか。では君が予言者か」
「え、何で!?」
「予言者の名前は、こちらにはない響きであることが多い。外見はほぼ黒髪。そして、予言者は勇者と行動を共にするものだ」
「お、おおう……」
そうか、だからアートのあの反応だったわけだ。そういえば、マーフィーの前では、誰も俺の名前を呼んでなかった気がする。
「……恐れ入りましてございます……」
そして皆さんのお気遣いを無駄にしてしまってごめんなさい……。
まあとにかくそんなわけで、俺たちはドナルが仕立ててくれた馬車で、リオナの村に向かっている。
ドナルの馬車は流石のお金持ち仕様で、すわり心地が大分楽で、乗り物酔いもなく、快適といっても良かった。そうか、じーさまのところから乗った馬車は、一般庶民用だったから大変だったんだな。やっぱり世の中、金か……。
ちなみに御者はアートで、リオナは気が急いているのか、今回は御者台でアートの隣に陣取っている。
で、俺とドナルとマーフィーが馬車内にいるわけだが。
「歴代勇者殿と予言者殿のその後は、魔王側にはどう伝わっているのですかな?」
「大体が、大事な人の姿をしている魔王に、勇者は成す術なくやられ、勇者を失った予言者が生き残れる道理もない」
おおう、これまた希望のない結末を聞かされたぜ……。
「ああ、だが、先代の予言者は、少し違ったな」
「え、先代? って確か、未来さんだよな?」
手記を書いてくれた人。色々実験して、予言者の能力を検証して書き残してくれた、俺にとっては有り難い先輩だ。
「名前までは覚えていないが。とにかく、勇者が倒れ、魔王が迫ったとき、彼女はこういったそうだ。私には女神から授かった浄化の力がある。魔王を浄化することだって可能だ、と」
「浄化の力ですと!?」
「マジ!?」
予言者はそんな力を授かっているのか!? とドナルと俺は揃って身を乗り出した。
「それで、結果は!?」
「結果か? 私が見たわけではないが、魔王は眠りについた。予言者は力尽きて消えたらしい」
「……消えた……?」
予言者は消えた……。それって、死んだのか? それとも日本に帰れたのか?
「予言者殿に浄化の力があるというのは初耳ですな! ということは誠殿にもあるのですかな?」
「いや、今までそんな予兆は……って、あ」
予兆がないってことはつまり、未来のハッタリだった? いや、ハッタリというよりは、一か八かに賭けて、魔王を倒せそうなフラグをたてた、のか?
けど、根拠が薄弱すぎて、ペナルティで命を落とした……とか。
いや待てよ。未来は、チートを使うと命に危険があるとわかっていた。言い換えれば、なんらかの根拠はあったはずだ。
例えば、女神の加護があった、浄化の力があった、魔王には浄化が効く……。
「……なあ、魔王には、浄化が効くのか?」
「魔王に浄化だと?」
俺の質問に、マーフィーは何を馬鹿な、という顔をして――ふいに、表情を変えた。
「そういえば……魔王が出ているときは、あのリボンを遠ざけたがっていた気がするな。それでもまだフィオナの意志が強かったから、実際に捨てられることはなかったのだが」
「え、リボンって、リオナが染めたリボンだろ? それと浄化になんの関係が?」
「あのリボンを染めるのに使われたのは、グレニスという名の青い花だ」
へえ、あの青い花は、そんな名前だったのか。
「ほう、グレニス! 別名、月女神の涙、夜に咲き、月光を浴びた時に放つ青い光には、魔を祓う力があるとされる花ですな! それを使って染めたというなら、リボンに浄化の力が宿っていることもありえますな!」
「そうか……!」
ドナルの補足で、繋がった。女神と浄化は、根拠のあることだったんだ。やっぱり、未来は根拠を持っていた。それでも未来がペナルティを支払うことになったのは……まだ根拠が弱かったってことか?
「――む」
「え?」
不意にマーフィーが立ち上がった。次いで、馬の嘶きが響いて、馬車が急停止する。
「な、何だ!?」
「敵襲だ。誠はここにいろ」
いうなり、マーフィーは馬車を飛び出した。
「て、敵!?」
っていっても、別に魔物の姿とかは見えないんだけど……。
軽くパニクる俺の前で、落ち着きはらったドナルが一つ頷く。
「ああ、いますな。ゴーストたちが」
「え、ゴースト!? 幽霊!?」
「それ、来ますぞ」
「!?」
驚く俺の腕を、ドナルが引っ張った。引っ張られるがまま横に傾いたら、寸前まで俺の顔があったところに突如手が出現し、空を掻いて消えた。
「き、消えたー!?」
マジで幽霊だ! 幽霊ってすり抜けそうだけど、自分の身体で試してみる気はない!
「これって、逃げ場のないとこにいるほうが危なくね!?」
幽霊はすり抜け自由自在に動き回るけど、俺の移動範囲は狭い場車内、すぐ捕まるって!
「そうですな。外に出ておきましょうかな」
ドナルも同意したので、俺は馬車から飛び出した。




